優等生
「まあ……話はわかったよ。で、その娘ってどんな特徴があるの? 外見とかで特定は出来ないから性格面での判断材料として欲しいんだけど」
「本名を語って探すのは良くないと注意されてね、性格面で話すと人見知りをする子だよ」
「本を読むのが好きで学校の成績は良かったわ。映画鑑賞もよくしてたわ。想像力も豊かで将来有望だって私たちは思っているわ」
人見知りで物語や映画鑑賞をしている。
「楽器も演奏会が出来る程には習い事に力を入れていたの」
「ゲームもとても上手だったわ。何度も同じゲームをして縛りプレイにまで手を出すほどだったのを私も知っているわ。私も幼い頃はゲームをしていたのよ」
「私たちのこのキャラクターもゲームにINする前の娘が語って居た造形に近づけるように努めているんだよ。このオルトクレイは凄腕軍師で錬金術と発明を嗜む最強の魔法使いのお父さんだそうで……」
「どんな外交もスパッと解決する一国の女王様で考古学に精通するお母さんって語ってたの」
わー……理想の両親設定まで完備かー。
微笑ましいし、両親はそこを忠実に守ろうとしているのだね。
しかしこの設定の詰め込み具合……若干中二とか入ってそう。
で、引きこもり属性あり……物語、漫画とかも読んでるのだろうか?
こう……中学生になった時に道を踏み外したらヤバそう。オタク的な意味で。
腐るか、拗らせるかは別として……吸血鬼とかに嵌まるタイプか?
「娘の理想に近づいていれば出会えるかもしれない」
「敏腕の女王様にね。お城を建てるのが分かってるから手伝いたいのよ」
なるほどなぁ……普通に良い両親っぽいな。
「娘さんは幾つで?」
「まだ小学生よ」
「ああ……幼いあの子が今何処で何をしているのか……」
うーん……なんか心当たりがありそうで無い様な、まあこのゲームをやっている時点でオタクが大半だからなぁ。
確かにこれはクレイさん達が有名プレイヤーにならないと娘は名乗り出ないだろう。
しかし小学生もやっているのか。
小学生といえば……そういえばちょっと前に子供向けFPSで紡が「さーて、今日は小学生をボッコボコするぞー!」ってクソみたいな事を言ってたなぁ。
精神年齢は間違い無く同年代だろう。我が家の妹。
その娘さんの方がまだ大人かもしれない。
「ディメンションウェーブイベントだと二人は見なかったと思うけど」
「現場には居たのだけどね。タイミングが悪くてね」
「そこは島主達の腕が良すぎるのじゃ」
まあ……硝子も闇影も凄腕だからな。紡もそうだけどプレイヤースキルが高い。
並ぶのも苦労するか……前線組って戦闘特化で来てる人多いもんな。
俺や闇影はネタプレイ枠だったし、上手いことかみ合ったに過ぎない。
しかし……なーんか引っかかるような気もするんだけど、何が引っかかってるんだ?
「うーん……」
何処かでそんな奴いたかなー……?
微妙に喉に詰まっているような感覚があるなぁ。
人見知りをして、物語やゲームの造形が深くて金持ちの娘で成績が優秀。
想像力が豊か。縛りプレイをするほどのコアゲーマー。
中二病を煩いそうで楽器演奏も出来る。
うん。さすがにいないわ。
そんな優等生がいたらトッププレイヤーだろ。
「そんな優等生、オタクの中に混じってたら目立つから分かると思う。引きこもりの面で宿に籠ってるとかソロプレイしてるとかだと俺じゃ出会って無いと思う」
「そうよね。人見知りしてるならこのゲームに馴染めずにソロプレイしてそうよね」
「そう考えるとソロプレイしているプレイヤーを探すのが良いよな」
「ここから出られたら狩り場で探すしかないわね」
「ああ、よろしく頼むよ」
「お願いするわ」
了解って事で俺はクレイさん達の自己紹介を聞いた。
しかし……誰かが一緒にやる相手が急用で来れなくなったとか言っていた気がするんだよな。
けど、いつの記憶だっけ?
そもそもゲーム内だっけ? リアルだっけ? そこから思い出せない。
「えっと、現在この開拓地に居て紹介されてない残りは一人になるわけだけど」
「ああ、それは俺の彼女のてりすだな。そろそろ来るんじゃねえか?」
と言っている所で件の残りの一人がやってくる。
ロミナと同じく晶人の女性だな。
ミリーさんより若いけど大人のアバターだ。
「あら、みんなこんな所でなにしてんのー? あ、件の子が来た感じー?」
「おうよ。奏の嬢ちゃんの弟で絆の嬢ちゃん。絆の嬢ちゃん。アイツが俺の連れのてりすだ」
「よろしくー絆ちゃん。いやー有名人に会えててりす感激ー! これからよろしくねー!」
キャピ! ってテンションで握手を無理矢理された。
何だろう……あーしと一緒に頑張ってこーね! みたいな……時代を感じる声音だったんだが……。
ミーハーって奴だろうか?
「ほんとーこのイベント呼ばれててりす達は良いけど困る人多いのが難点よねー絆ちゃん。ごめんなさいねーてりす達の問題に巻き込んでーノジャ子もしっかりと謝っておくのよ! 分かってるわよね? 面子は大事なんだから」
「わかっておるのじゃ!」
過去の映像とかにあるギャルって類いの人種っぽい。
こういう高いテンションを陰の世界に生きるゲーマーは恐怖を抱くのだ。
「よ、よろしく」
「ちょっとテンション変わってる人だけど気は良いわよ」
「むしろてりすくん。接客モードで相手してあげた方が良いのではないかい?」
クレイさんが笑顔で提案するとてりすは了解って態度で軽く手で合図をする。
「あーい……コホン。じゃあこれからよろしくね、絆ちゃん。色々と巻き込んでしまったけど、これから一緒に開拓しながら話が出来るのは楽しみなの」
……なんだ? さっきの軽い感じの態度は也を潜めて超絶丁寧な口調だぞ。
どうなっているんだ?
これが公私を切り替えるという奴?
完全に別キャラの清楚キャラに見えてきた位、立ち振る舞いから動きの変化を感じてしまう。
「あんまり引かねえでやってくれよな? 絆の嬢ちゃん」
「もー引くって酷いわよー折角営業モードを披露したのにー」
「彼女はあっちでは接客業をしているそうでね。親しい相手だと砕けた口調で話をするそうなんだ」
「ああ、そうなんだ」
「世代を感じて引いてるんだぜ。てりす」
「人をおばさん扱いしないでよー。さすがにそんな歳じゃないわよー」
どうなんだろ? らるくの実年齢も怪しい感じになってきたなぁ。
クレイさんより年上なのだろうか?
ほら、起業家ってイケメンの若社長みたいなイメージあるし、年上の社員とか居てもおかしくない。
じーっとクレイさんを見ていると微笑まれてしまう。
「らるく君とは六歳差だったかな? 私の方が年上だし、二人に関しても理解はしてるさ」
「ああ……そうなんだ? で、確からるくはてりすさんと一緒に細工をやるんだっけ?」
「そうそうー! てりす、リアルは宝石販売店の店員で宝石が好きなのよー。あ、高い宝石が好きとかじゃなく単純に綺麗な石が好きって意味よ? 金なんて二の次だからね」
何か念押しで宝石好きを誤解しないようにって言われてしまった。
どうやらてりすはアクセサリーを単純に楽しむ意味で宝石が好き、と。
ちなみにディメンションウェーブにおける宝石関連は結構重要度の高いスキル項目で、晶人の強化システムに深く関わっている。
このてりすさんも晶人なので相性自体は最高だ。
「自己紹介の途中だったわね。てりすは戦闘では魔法が得意で、サブで細工と掘削を専攻してるの」
「細工職人志望って事かな?」
「そうそう! 理想のアクセサリー作りをメインに置くって良いわよね。ついでに料理も一式技能は揃って持ってるわ」




