クエストマニア
「あ、どうも。姉さんと妹にこんなアバターと名前を付けられてINすることになった絆です」
「ははは、してやられたって奴だな。イベントの度に名を聞いたからこっちは知ってるって感じだぜ」
へー……こんな人いたんだなー。
「やー絆の嬢ちゃんの所は毎度毎度イベントで大活躍ですげーよな。近々話がしたいと思ってた所だったぜ」
「はあ……」
軽く握手をした後、親しげに肩を叩かれる。
馴れ馴れしいけど、自然と不快に思えないのは……なんか頼りになりそうな雰囲気の所為だろうか?
「そんで、ブレイブウサウニーはどうなってんだ?」
「うむ。どうも絆が呼び出したブレイブペックルと出会うことでわらわの命令を聞くようになったようじゃ」
「マジ!? あー! 見たかったその光景をよー! もっと急いで追いかけた方がよかったぜ!」
と、らるくは心底悔し気にしている。
なんだ? そこまでしてみたい光景か?
「らるくのプレイスタイルはクエストやイベント重視なんじゃ。隠されたクエストやイベントを隈なく探してゲームを満喫したいそうじゃよ」
俺が小首を傾げていると顔文字さんが事情を説明してくれた。
クエストを重視のプレイヤーか……そういったプレイスタイルもあるんだな。
世界観を知るって意味だと一番ゲームを楽しんでそうな人だな。
俺の場合は釣りメインでクエスト関連とかは人任せだし、受注は硝子や紡に任せっぱなしだった。
「ミカカゲとかクエストだらけで楽しんでそう」
「ああ、確かにたくさんあったな。お使いが多いからもっと掘り下げたイベントがやりたかったけどよ。そういや絆の嬢ちゃんが港でブルーシャークのヌシを釣ったって話だったよな。遠目で見てたぜ」
あの時の観衆に紛れていたのか……。
「何かあったら是非俺を誘ってくれよな? 絆の嬢ちゃんはワラの嬢ちゃんと同じく領地持ちだからいろんなイベントに出会ってそうだからよ」
クエストマニアって事なのかねー。
「このらるくお兄さんに頼ってくれて良いんだぜ。この開拓地に来たのは俺が先だからよ」
「そうね。ほんの少しだけ先よねー。文字通り数時間ほどね」
「奏の嬢ちゃん。そこは少し気を使ってくれていいんじゃねえか?」
ああ……俺とほぼ同時期に呼ばれたのね。
「絆、このらるくさんは紡と同じく鎌系武器の使い手で戦闘メインよ」
「腕は確かじゃな。時々一緒に臨時PTを組んだものじゃ」
「へー……良かったな。俺はネカマだけどこんな外界と隔絶された所で女性プレイヤーを囲ってハーレムだぞ」
アルトを呼んだ時に行った冗談をらるくにぶつけてみよう。
現状だと周囲のプレイヤーを見ればある意味ハーレムだ。
「おいおい。勘弁してくれよ。俺は少ない休暇を彼女と満喫するためにこのゲームに参加したんだぜ? ハーレムなんて楽しむつもりはねえよ」
「ああ、彼女いるんだ」
「ちなみに件の彼女も一緒に呼んだんじゃ」
「絆、弄ろうと思ったようだけどそううまく行かないわよ」
姉さんがしてやったりって顔をして俺を挑発している。
「まあ姉さんほど弄れないってのはわかったよ」
「ちょっと! 絆!」
ここ最近の姉さんは割と冗談でからかわれるポジにいるのは間違いないだろうに。
「場所が場所だから手に職を覚えようとは思ってるぜ。相方と一緒に細工をやるつもりだからよ。とはいっても相方の方がスキルLv高いけどな」
戦闘メインで細工をやろうって人なのか。
で、本題はクエストやイベントを体験したいと。
「つまり本来はこのらるくさんに頼んでブレイブウサウニーの世話をしてもらおうって思ってた感じ?」
「いや? そこはー……まあ、ちょっとな」
歯切れ悪い返事で、らるくは頭を掻きながら答える。
何? こういう細かいの苦手な感じだろうか?
あ、でも細工を覚えようって流れらしいから違うのか?
「頭の上がらない人に手伝いを頼まれたという事じゃったな」
「そーだよ。ワラの嬢ちゃん」
さっきから自然と流してたけどらるくはどうやら人を名前プラス嬢ちゃんと付けるスタンスらしい。
で、顔文字さんはワラの嬢ちゃん……ああ、プギャーって呼んだりノジャって呼ぶのとは別の個性を意識したのかな?
笑ってるって所からかな? Wを草生えるとかワラって言ったりするし。
「頭上がらない人?」
「直ぐに会うことになるけどー……ぶっちゃけるとリアル会社の重役、ゲーム休暇の申請を認められてて取ったらまさかまずないって招集をされちまったんだよ」
へー……そんな許可してくれる会社あるんだな。
懐が深いというのかねー。
あれかな? 休暇をやるからゲーム内で接待しろ的な。
そっちだととんだブラックに変貌するんだけどさ。
「ホワイト? ブラック?」
ちょっと気になるので聞いてみよう。
「ホワイト。圧迫じゃなく単純に協力を頼まれてるだけだっつーの」
「らるくを呼んだのはそのフレンドの提案じゃよ」
「私がアンタを呼んだのと同じリクエストでね」
へー……そうなのか。
ゲームでもリアルの知り合いに振り回されるって大変だよな。
「俺の事情は良いんだよ。ともかくブレイブウサウニーをワラの嬢ちゃんが扱えるってんならそれでいいって話だな」
「そうじゃな。色々と助かりそうじゃ」
「とりあえずよー絆の嬢ちゃんにみんなを紹介するのが良いんじゃねえのか?」
「そうじゃな。もしかしたら絆が知っておるかもしれんし」
「何が?」
なんからるくの上司って人には事情があるっぽい。
というか……人がずいぶんと多そうで間違えそうで怖いな。
「ま、いいから付いてきな。絆の嬢ちゃん……籠をオアシスに設置するのは程々にな」
らるくに注意されたのでオアシスに手持ちのカニ籠を設置するのを切り上げる。
まあ、そこそこ設置できたか。
後で全部仕掛けておかないとな。ペックルの食糧確保に必要だ。
「あーい」
「当たり前にようにドサドサと設置してたわねー……唖然としたわ」
「手際が良かったのう」
「後何人いるの?」
「三人じゃよ。そう警戒しなくてもよいのじゃ」
俺、姉さん、顔文字さんにらるく……で、ほかに三人か。
合計七人この開拓地にいるって事ね。
増えるかは様子見って話だったな。
などと思いつつ俺はペックルの管理をしながららるくの後に着いていった。
で、案内されたのは開拓地にある工房の一つだな。
ロミナの鍛冶系ではなく医療系の工房のようだ。
そこに居たのは薄茶色の髪色の錬金術師風スタイルの20代後半から30代前半くらいの男性、野性味のあるらるくとは異なり青年実業家な出で立ちかな?
「おや? みんな揃って来たという事は例の彼女が来たようだね」
青年実業家風の男性が俺達に気付いて爽やかな笑顔で近づいて来る。
「ええ、奏の嬢ちゃんの弟にしてカルミラ島の島主である絆の嬢ちゃんでさ。ブレイブウサウニーはどうやらブレイブペックルとシナジーが発生してワラの嬢ちゃんの言うことを聞くようになったそうです」
「そうかいそうかい。それは助かるね」
と、話をしている所で顔文字さんが振り返って男性に手を差し出しながら紹介をする。
「こやつはクレイさん。正式名はオルトクレイという名前なんじゃが愛称がそなたの知っている某商人と似ているという事で、後半の方を名乗るようにしているとの話じゃ」
オルト……ああ、アルトが有名で愛称がマイナスイメージがついちゃうって感じかな?
アイツ、悪い意味で有名過ぎるよな。
「商人界隈じゃ有名なんだぜ? クレイグループってな」
「はは、彼の方が手広く手段を選ばずにやっているお陰で二番手に甘んじているけどね」
ああ、顔文字さんにとってのアルトポジの商人って事かな?
「戦闘は魔法をメインにしていて、サブで商売……錬金系と機械系を浅く広くやっているよ」




