……そう
「……フルハープン」
銛の攻撃スキルがトレントに命中し、禍々しい顔を浮かべたままトレントは倒れた。
しぇりるの武器は銛。
いわゆる海でスピアフィッシング的な戦闘に適した武器だ。一応槍に分類される武器らしいが、銛の様な形状の武器を使っていたら派生したらしい。
そしてしぇりるのレベルは俺達とパーティーを組んでから4上がり、10になっていた。
「トレントの木は……一応500個そろったか」
「粗悪品を含めていますから、もう少し必要ですけどね」
俺やしぇりるを始めパーティー全員の考えが一致して、船に使う材料は可能な限り良い物にしようという事になった。なので俺達は材料が少々高額になっても高品質の品を選んでいる。
「一応布の方はアルト……知り合いに頼んでおいたけど、数が数だからな」
丈夫な布は裁縫スキルのアイテムだ。だから100個となると手間も費用も嵩む。
それを100個売ってくれというと時間をくれるかな、と言われた。
断らないのが商人たるアルトの凄い所か。
「鉄の方は気を付けて選ばないとな。現状、粗悪品の方が圧倒的に多い」
「何か知っているのでござるか?」
空き缶が原材料だからな。
あんなの序盤だけで鉄鉱石が見付かったらゴミ以外の何物でもない。
「べ、別に。ともかく俺達で集められる材料は大体揃ったか?」
「……うん」
しぇりるが頷く。
あれから丸々一日が経過している。
トレントの方は硝子を始め、俺ですら余裕に倒せた。お世辞にもあまりランクの高いモンスターとは言えない。ともあれ合計500個ともなると戦闘数は多くなる。
何よりも現状、トレントの木を素材に使う製造スキルは少ないので、露店でもあまり並んでいない。これはアルトからの情報だ。
尚、しぇりるは今までの二週間、時間に余裕を見つければコツコツとトレント狩りをしていたらしい。相性の良い武器でもなければ、レベルも足りていないので一匹倒すのも時間が掛かっていたそうだが。
「ともかく後何個か木を手に入れたら一度第一に帰ろうぜ」
「そう」
「思ってたんだが、その『そう』っていうのは口癖か?」
「そう」
「……わざとか?」
「別に」
「いいけどさ」
「そう」
こんな感じだ。言葉足らずというか、話ベタというか、闇影とは別の意味でコミュニケーション障害の気質がある。
一応話してみれば普通というか、趣旨は理解できるけど、その努力が必要というか。
まあプレイヤーのほとんどが第三都市を見つけようと躍起になっている時に海を目指そうなんて、考えている奴等だから少し他より変なのはしょうがないか。
いや……俺も類友だが。
「……なに?」
おっと、しぇりるを眺めていたのがバレた。
俺は誤魔化す様に言い訳を口にする。
「なんでもない」
「そう」
「ともかく、後少しだな」
「うん。絆、ありがと」
「俺だけの協力じゃないだろう? 皆のおかげだ。もちろんしぇりるもな」
「……そう」
なんだ? そのしらけた、みたいな『そう』は。
なんだかんだで、ああいうセリフは結構恥ずかしいんだぞ。
硝子と闇影は何か春の陽光の如くニコニコこっちを見ているし、確実に俺をからかう環境が生まれつつある。そこだけは早急に改善したい。
ともかく、それからアイテムが全て揃ったのは二日後の事だった。
鉄は態々ロミナから程度の良い物を購入し、丈夫な布はアルト以外からも第一第二を駆け回って高品質の奴を捜し歩いた。
そうした甲斐もあって全部の材料が揃った訳だが、俺の貯金はほとんどなくなっていた。
名前/絆†エクシード。
種族/魂人。
エネルギー/26430。
マナ/4300。
セリン/16040。
スキル/エネルギー生産力Ⅷ。
マナ生産力Ⅴ。
フィッシングマスタリーⅣ。
解体マスタリーⅢ。
クレーバーⅠ。
高速解体Ⅰ。
夜目Ⅰ。
元素変換Ⅰ。
未取得スキル/エネルギー生産力Ⅸ、マナ生産力Ⅵ、フィッシングマスタリーⅤ、クレーバーⅡ、舵マスタリーⅠ、船上戦闘Ⅰ、都市歩行術Ⅰ。
若干未取得スキルが増えている気もするが、日々行動の賜物だろう。
現状取得する気はないけどな。
ともかく、俺が第一と第二を走っていた間、三人には狩りをしていてもらった。
しぇりるのレベル上げもそうだが、海のモンスターは結構強い。
硝子や闇影の様な戦闘スキル型と製造スキル型とはいえ海のモンスターに相性が良いしぇりるのレベルが上がるのは後々の事を考えても必須と言えたからだ。
それに解体武器の俺がいなければ、例のアレの条件が無くなる。
三人は珍しい構成の珍パーティーって風にしか見えない。
「……絆。それから皆も、これにサインして」
スキル構成に想いを馳せているとしぇりるが集まった材料を前に一枚の紙切れアイテムを俺達三人に向けてきた。
なんとなく詐欺の匂いを感じなくも無いが、現実とは違う。
「なんだ、これ?」
「複数所有権ですね」
「なんでござるか? それは」
さすがは元前線組と言った所か、硝子は詳しく知っていた。
複数所有権。
所謂高価な一つの道具に設定できる権利書の事、らしい。
これに記入されているメンバーは均等に特定のアイテム、今回の場合『船』の所有権を得る事ができる。
所有者以外がアイテム欄に収納できなくなるという便利システムといった所だ。
そして、この効果は船を何らかの理由で売却する場合、記入者全員の許可が必要となり、獲得した金銭も四人で均等にシステムが分配する、現実の権利書みたいな物だ。
「へぇ~、こんなのもあるんだな」
まあ確かに高い金出し合って購入した品を持ち逃げされるのは不注意だとは思うが、むかつくからな。
そこ等辺製作会社も解っているみたいだ。
もしかしたら似た様な問題があったのかもしれないな。
それは置いておくとして、無知そうな俺達三人に自分から言うって事はしぇりるの海への気持ちは本当なのだと思う。
なんて言うか、胸が高鳴るな。
これからどうなるかなんて解らないけど、この四人なら大海原でもやっていける気がしてきた。
「とりあえず俺から書くな」
受け取った紙の名前欄にはしぇりると書かれており、触れるとオートで絆†エクシードと記入されて、OKの欄を押した。文字を自分で入力するのかと思っていたよ。
そして隣にいた硝子に渡し、硝子は記入後、闇影に渡して所有権は全員に行き渡る。
「じゃ、船、作り始める。できたら連絡する。それまで自由にしてて」
そう言うとしぇりるは大量のアイテムを前にスキルを唱えて船製作に入った。
時間はそんなに掛からないと思うが、話によれば個人ホーム、要するに住居などの製作には数時間要したって話をアルトから聞いた。
四人の人間が自由に動ける規模の船という事は同じ理論が適応する可能性が高いので、自由時間という事なのだろう。
見ているだけというのは辛いが、船製作に必要なスキルを所持していない俺が近くにいても邪魔なだけだ。今はしぇりるを信じて我慢しよう。
「絆さん、闇子さん、これからどうしますか?」
「先日装備を新調したばかりでござるので、自分は特に用事はないでござるよ」
「俺は船の製作工程を見てようかと」
「良いですね! では、皆でしぇりるさんを応援しましょう」
邪魔にならない距離で製作工程に入ったしぇりるを凝視する俺達。
「…………」
相変わらず表情は無表情だが、一瞬しぇりるが微妙そうにこちらをチラリと見た。
いや……原因は俺だが、精神的に邪魔しているよな。普通に。
ま、まあ仲間想いのパーティーという事で納得してくれると信じている。
ちょっと馴れ馴れしいだけだから、うん。
とりあえず俺は祈った。
俺達が邪魔した所為で船の出来に影響が出ません様に……。