農薬
「なんで?」
「さあ……既に開拓イベントに呼ばれたからフラグが立たなかったとかの推測になったわね」
あー……ありそうだな。考えて見ると俺は呼ぶ側で呼ばれた事は無かった。
コスト高くても俺は呼べるって事か。
まあいいや。事情はある程度分かった。
ギスギスもメンバー一新で無いならある程度は安心か。
……いや、そのフラグ理論が正しい場合、アルトはどこに行った?
まあいいか。
行方不明の理由が開拓イベントとは限らないしな。
アイツならどこでもそれなりに上手くやっているだろう。
「なんか他に良さそうな子いない? 呼んで無い子」
「姉さん、俺の様なコミュ障ボッチに何を期待しているんだよ」
闇影じゃないけど、思えば俺って繋がり少ないよな。
謎のファンクラブ会員程度しか後は知らん。
「本当……アンタはなんでそんなに活躍出来るのか不思議でしょうがないわ」
「それは自分でもそう思うよ。プレイヤースキルの必要なゲームで活躍出来たのは珍しいしな」
事実ではある。
しかしホームレスしてた人にそんな事言われたくないぞ。
「とにかく農業しなさい! 詳しいのはアンタだけなんだから!」
「俺は釣りをしたくて――あ……嫌じゃ! 野菜なんて摘みとうない! 農業なんてやりto night!」
「それは妾の口調じゃろ!」
俺が今やりたいのは釣りなのだアピール。
「あ……ってなによ。言う程嫌だと思ってないでしょ。アンタ、ウケ狙いで言ってるでしょ!」
まあ実はそうなんだよね。
基本的には釣りがメインだけど、硝子達との狩りもやっていた訳で……こういう場面で農業やろうぜって求められたら、別にやっても良いって思っている。
そもそも農業ならカニ籠と同じで、そこまで張り付いてなくても大丈夫だろうし。
「ウケ狙い……これこれよさぬか、ビッグブレイブペックル」
あ、顔文字さん、乗りが良いな。
俺の悪ふざけに便乗して姉さんを注意している。
せめてからかってやろうとしたのにネタを取られちゃったな。
う~ん、さすが大規模ギルドのマスターをしていただけはある。
ノリが良いというか、楽しそうな人だ。
「誰がビッグブレイブペックルよ!」
「姉さん、そこは『よさぬペン』だよ」
「あんた等、初対面の割に息が合ってるじゃないの……私で遊ぶんじゃないわよ。良いからやりなさい! ノジャ子も絆に教わって覚えなさい!」
「ラジャーなのじゃ! やりたかったから教わるのじゃ」
「しっかりと仕事したら絆。アンタは好きに釣りでもしてれば良いから。ここにライバル居ないし、何処かで釣りでもしてヌシでも釣って遊んでなさい」
「うぇーい」
しょうがないな。最低限顔文字さんに農業をたたき込もう。
まあ、やる気はありそうだし、戦闘ギルドのマスターやっていたくらいだ。覚えるのも早いだろう。
そしてこの地域に釣りのライバルは居ないので……少なくともオアシスとやらのヌシも狙える。
なので悪くない提案ではある。
「人員は様子を見つつ呼ばんと同じミスをしかねないのでな。呼べても今は様子見じゃ」
「わかったよ。とは言いつつ、植えてある作物が全滅に近いってのも逆に凄いよなぁ。まずは原因を特定しないといけないな」
畑を入念に確認……こう、パソコンが苦手な人みたいな色々と弄くった癖に勝手に壊れたとかぶちかまされるようなイラッとする要素を探すみたいな空気感がある。
顔文字さん、農業好きみたいだけど基礎知識が無さそうだ。
まあ、これが一般的な農業系のゲームに対する認識なのだからしょうがないんだけどさ。
んー……しかし、ここまで畑が壊滅してるってどういうことだ?
何処もレッドゾーンって感じでメチャクチャだ。
うどんこ病に根こぶ病、青枯病に発育不全……大豆畑もあるけど、こっちはダイズリゾクトニア根腐病とダイズ黒根腐病。
「何なのこの開拓地……汚染された土地で難易度マックス設定なの?」
「そんなに酷いの、絆?」
「酷いなんてもんじゃないよ。ぱっと見のゲーム性的に大豆畑なんて土地ひっくり返して全部滅却処理した方が早いんじゃないかな。病に感染した畑になってる」
「うはー……そりゃ凄いわね」
姉さん、よくわかってないな。
「むしろ絆。アンタ随分詳しいわね。想像以上だわ」
「そりゃあ色々とゲーム情報を調べてたらついでに覚えた感じだよ」
「アンタさ……大学、農業系行きなさいよ」
「嫌だよ。うちは農家じゃないじゃん」
そもそもな話、土地が無いでしょうが。
しかも儲からないって話で有名じゃん。
ちょっとリアルよりのゲームに詳しい程度で調子に乗って農家とかアホ過ぎでしょう。
「ともかく……ここまで畑の状態悪い原因って……顔文字さん、ここの作物、前は何植えてた?」
「ん? そりゃあ大豆畑は大豆じゃな。どれも収穫後に同じ物を植えるぞ。あ、ちゃんと肥料をやるのを知っておるぞ」
「となると連作障害が設定されてそうかな……後、ここまで細かい設定だと多分、植えてる距離が近い。肥料の件も肥料だけが全てじゃないと思う」
追肥とかあるけどさ。
肥料は一応農業系スキルであるもんな。
魚とか肥料に使えたし、オアシスで釣って支援って流れもありか。
更に肥料を入れる量とか、撒く水の量とか、作物によって設定されてそう。
……この辺りの面倒そうな要素をちょっと面白そうだと思ってしまうのはこの手のゲームをやりこんだ経験故か。
「それと農薬は? 確かあったよね」
俺でも知っているこのゲームにおける農業スキル関連の情報だ。
「妾の畑は完全無農薬と決めているのじゃ」
うわぁ……まあ気持ちはわかる。
緩くて楽しいスローライフ系農場ゲームではその方が正解である事が多いしな。
むしろゲームという媒体的にはこっちの方が珍しいだろう。
安全性どうこうがある現実的にも農薬に頼った農業をゲームで推奨するのはどうかと思うしな。
あるいは……なんとかして農薬を使わなくても良い状況を作り出して最高級食材を作る~~的な農家プレイが想定されているのかもしれない。
そこまでやったら面白いだろうし。
まあ、今は農薬を使った方が良いだろう。
「それで上手く行くのは簡単な牧場系のゲームだけなんだよ。リアルよりだと肥料と同じ位重要なんだよね」
「ええええ!? のじゃあああ!?」
思い出したみたいにのじゃを付けたな。
やはりキャラ作りか。わかりやすくて良いけどな。
やっぱり闇影みたいな子だ。
「農薬無しで作物を育てるというのは農家に初期装備。Lv1でラスボスを倒そうとしている様な、死ねって言ってるぐらいの暴言なんだよ」
俺は色々と学んだ結果、完全無農薬が如何に面倒で愚かな幻想であるのかを知ったのだ。
リアル農家の皆さんがどんだけ苦労しているのか……しかも無農薬だからと言って超美味しい訳でもない。
安全な食物を得るのはそれだけ大変だという事だ。
RPGで例えるなら肥料が武器なら農薬は防具みたいな存在だ。
「そ、そんなにもなのかの?」
「ああ。これはリアルの話だけど、作物に虫が付いた時に市販の殺虫剤を使っただけでもアウトなんだってさ。それも薬だからな」
「な、なんと……だからウサウニーは農薬を使おうと提案するのじゃな」
ウサウニーが提案するヘルプには従おうぜ……。
いや、俺も城を作る事を放置していた事があるので人の事は言えないが。
「牛乳を霧吹きで掛けて殺すという方法もあるんだけど、根本的な解決にはならないんだ。安全な農薬が使えるなら使おう。戦闘組だったなら効率的な装備をするのと同じ事だよ」
農薬って言うのは装備品みたいなもんだ。
無農薬というのはそれだけ難しいって事だな。
「じゃが無農薬とは聞くぞ。何より新しい畑じゃと上手く行くのじゃ」
「アレは有名な話だけど、実は完全無農薬じゃないんだよ。何より、こんな汚染で詰んでいる状態で無農薬はもう無理だと思う。新しい農地で上手く作物が育つのは連作障害がないお陰かな」
収穫出来る訳ないわな。
つまり最初から汚染地域だった訳じゃなくて、汚染地域にしたんだな?
「わ、わかったのじゃ」
元ギルドメンバーは顔文字さんの畑とか見て気付かなかったのか?
水やってれば良いとか思ってたのかも知れない。
俺も普通のゲームだったらそう思うだろうし、ゲーム的にはそっちの方が良いと思う。
「農薬解禁になったって事ね。なら試してみたい事があるのよね」
「なんじゃ?」
「ほら、さすがに現実だと安全性とか……そうじゃなくても気分的なモノがあるじゃない? ゲームだからこそ試してみたいというか?」
「姉さん、前置きは良いからさっさと言いなよ」
きっと碌でもない事を言うんだろうけど聞くしかない。
「この際、遺伝子組み換え済み農薬ジャブジャブ食材を作って食べてみましょうよ」




