顔文字
あれだ。指を向けられて笑われているんだが?
所謂、某ネット匿名掲示板発祥のAAという奴で、顔文字とかそういう言い方もできる。
で、この『m9(^Д^)』というのは相手を嘲笑っているよって感じの意味の顔文字だったはず。
こう……どう呼べば良いんだ?
非常にコメントに悩むネタネームだ。
このゲームだと初めてのタイプだな。
「なんじゃ?」
「アレでしょ。名前。やっぱ初対面はみんな反応に困るわよねー」
姉さんが分かる、と何度も頷くようにして俺の反応を察して答える。
わかってるなら気を利かせてくれよ!
「ああ……その事かのう」
「えっと……」
「これには非常に深い理由があるんじゃ」
「深い理由とは? 俺みたいな感じ?」
アレか?
どこぞの姉妹にアバターから何まですり替えられて完全に別キャラクターでのログインをしてしまった俺みたいな感じで誰かに変な事をされてしまったとかだろうか。
「絆はともかく、ノジャ子は毎回説明から入るわよね」
「妾だってこの名前に関して思う事があるのじゃ!」
「何? もしかしてこれも姉さんが原因だとか言うの?」
俺だけならともかく、他のプレイヤーにもいたずらをしていたのか!
リア友的な間柄みたいな奴。
「違うわよ! 私だってノジャ子のリアルは知らないわよ。知ってるのはその奇怪な名前がどうしてそうなったのかって話よ」
そうなのか?
さすがに姉さんもそこまで酷くはないか。
「で、その名前の理由って?」
「うむ……実はの、懇切丁寧にこのアバターを妾は力を入れて制作していたのじゃが――」
と、m9(^Д^)さんは語り始めた。
もの凄く作り込まれた俺の姿並みにクオリティの高いアバターをこの人は日々徹夜して作り上げたらしい。
で、やっとの事満足したアバターが出来上がった後の事……完成時で深夜のテンションの時に色々と名前を付けては消してを繰り返して設定を作り上げていたそうだ。
ディメンションウェーブは参加時にプレイヤーネームを複数候補を挙げる事になっている。
同名の名前をIDで管理しても良さそうなのだけどそこは重複禁止で行われている。
俺や姉さん、紡は名前の後に†とエクシードを付けて完全に重複避けをしてるので一発で通ったけどシンプルな名前は重複しやすい。
有名なアニメやゲームのキャラクター名は間違い無く被るだろうな。
そうしてm9(^Д^)さんは名前の候補を挙げたそうだ。
「それがその名前だと」
「あの時の妾にしっかりと確認しろと殴り飛ばしたいのじゃ」
その中で謎のネタネームを入れたりして迷った挙げ句……最終的に別の素敵な感じの名前を入力した。
「さすがにこれは無いのじゃー! アハハハ! プギャーっと寝不足のハイテンション状態の妾はパソコンで名前を消して別の名前を入力したはずなのじゃ。まさか保存を忘れていたなど、微塵も思わずにの!」
つまり……自爆した訳ね。
プログラムの終了をする際は保存、大事。
俺みたいに事前のデータをすり替えられたのとは違って完全に自業自得だった。
恐れるべきは達成感と眠気、深夜のテンションなのだろう。
「大体がプギャ子とか、ノジャ子って呼ぶわね」
確かにその顔文字はプギャーと通称呼ばれる代物だもんな。
で、見た目可愛い女の子だからプギャ子って事で呼ばれてるのか。
後者は普段の口癖から着いたあだ名かな?
「この名前でINしてしまってどれだけいじられた事か! 散々なのじゃ!」
それはまあ自業自得……と切り捨てたらこの開拓業務でギラついた関係になりそうだし、黙っておこう。
こういう失敗は誰にだってあるものだしな。
しかし、なんて呼ぶか。
エムナインさんとかでも良い気がするがちょっと違うよな。
「えーっと、それじゃあ顔文字さんって呼ぶよ」
硝子だったら言葉を選びながらそう呼びそうだからな。
「ほう……おぬし、人格は良さそうじゃな。さすがはカルミラ島の島主じゃ」
「……はぁ」
別に島主だからって人格が良いとは限らないと思うけどな。
「ともかく、改めて自己紹介としようか。俺は絆。姉さんのリアル弟で、知っての通りカルミラ島の島主だ」
「うむ。妾はおぬしの呼び方で顔文字じゃ。このプラド砂漠の主という事になり、一応はとあるギルドのマスターじゃった」
「確か奏姉さんの話だと上位ギルドだったんだっけ」
なんかそう言った話を聞いた気がする。
俺達が島で開拓している間はトップ勢のリーダーだったとかそう言った話のはず。
「そういう自負はギルドメンバー達にはあったじゃろうな。妾も高難易度の狩り場などでみんなと共に強力なボスを倒したりしておった」
まあディメンションウェーブイベント時の指揮や伝達能力、作戦行動とか考えるとかなり真面目に取り組んでいる人って印象がある。
こういうコミュ強って現実でも強いけど、多人数が有利に働くMMOだと尚の事強いんだよな。
そう考えると……初対面の相手に自分の酷いプレイヤーネームを話のネタにしつつコミュニケーションを図れるという意味で、実は悪くないネタネームなのかもしれない。
「話は聞いているかもしれんが妾が専攻としているのは回復とバフ系のヒーラーじゃ」
ああ、姉さんが言ってたな。凄腕のヒーラーの話。
パーティーでの連携って話だと俺達のパーティーで致命的に欠けている人材にして、オンラインゲームで欠かせない回復役だ。
スピリットは媒介石分の効果しか回復魔法は掛からないけど効果は大きいだろうなぁ。
ガチ戦闘組って感じだろう。
「とはいえゲーム開始前にやりたいと思っていたのは農業じゃ。建築も多少囓っておる」
おや? そこそこ趣味人みたいな感じだろうか?
そういえば顔文字さん、全体的に和風狐耳魔法使いぽいけど、農夫みたいな装備をしている。
一流戦闘ギルドのマスターがそんな考えとは意外だ。
いや、むしろこのゲームのシステムに理解が深いって事かも知れない。
ステータス画面に表示される部分以外にも隠しステータスや経験が影響している所があるしな。
姉さんを見ると……。
「誰も彼もアンタみたいに最初からネタプレイなんてしないのよ。しっかりと戦って稼げるようになってからサブ要素に手を付けたりするものでしょ」
まあ、この手のゲームでいきなり釣り専門で遊ぶなんてせず、魔物相手に戦ってそれなりに強くなって稼げる様になってからサブ要素に取り組むってプレイはわからなくもない。
俺の場合は姉さんや紡が稼いで強くなった後に引き上げて貰う予定だったし、二人もその予定だった。
「田舎で1から開拓するというのは夢じゃったんじゃが色々と忙しくてのう……」
どうやら最初からエンジョイ気質のある人だったみたいだ。
ただ、円滑にゲームをプレイする軍資金が欲しくて戦闘を優先した感じか。
そうこうしている内にパーティー、ギルドが大規模化していって農業をやっている余裕が無かったとかだろう。
「じゃあ開拓イベントはモロ好みって所だった訳か」
「そうじゃな。隠されたイベントを見つけて開拓地を得た時はとても嬉しかったものじゃ」
と、顔文字さんは背後に広がる……砂漠のオアシスとその周囲にある建物を見せる。
オアシスの近くには畑が沢山あるようだ。
「そんな一流の人がなんで俺に? 姉さん経由なのはわかるけど……親しい友人から優先して呼んでいったりするもんじゃない?」
効率主義で使えそうな人材を呼んでいった結果、姉さんが最終的に後回しになったとかじゃないのか?
「こう……姉さんって闇影枠だったんだーとか紡が言ってたし」
「ちょっと絆。闇ちゃんの噂は知ってるけど私をその枠扱いしないでよね!」
見知らぬギルドの人たちとの開拓生活といっても俺が出来る事なんて釣りくらいなもんだ。
いや、開拓を促進するために効率の良い人材で俺が呼ばれたとか……か?
姉さんがいると言ってもな……アルトもいる感じか?
「あ、そうそう。ならアルトも呼ばれてる感じ?」
「お主のギルド専属をしておる商人じゃな。呼んでおらんぞ? 奏にも聞かれたの」




