砂漠
「とりあえずお兄ちゃんが強くなったみたいだし、街で受注できるかなり難しい類の討伐クエストをやって先に行っちゃおうか」
「そうだな。歯ごたえって意味で行くと良いかもしれない」
「了解ー」
「絆さんがとても立派になって……私も負けていられませんね」
「システムに助けられてるんだけどな」
「インフレが激しいでござるよ。早く負けないほど強力な武具を見つけるべきでござる」
「この感じだと今回のアプデで色々追加されてるだろうしね」
「そう」
俺だけ性能が伸びすぎてるのは同意する。
とんでもない能力差だ。ユニークスキル様々だな。
とはいえ、こういうのって割とすぐに同等の装備やスキル、アイテムが出てくるんだよな。
職業のあるゲームとかだと派生職業が出てきて賑わうんだけど、追加装備を付けると結局既存の職業の方が無難、とかな。
だから最強感を体験出来るうちに体験して、クエストクリアや素材集めしておこう。
って事でミカカゲの湿地帯周辺で出来る討伐クエストを受けて高速で魔物を見つけては即座に倒して達成して行った。
「次はインスタンスダンジョンと鉱山にいるボスを倒して来いってやつだね。ただ……日も暮れてきたし今夜は一泊しようか」
「了解。じゃあ俺は設置していたカニ籠も採取して再設置してくる。宿に泊まるのとペックルハウスだったらどっちが良い?」
「温泉に入りたいし、キャンプは明日で良いでしょ」
「紡殿に賛成でござるな。今日は宿が良いでござる」
「そう」
「了解ー硝子もカニ籠の再設置ついてくるかー?」
「ご一緒します」
って事で俺達は湿地帯に設置したカニ籠の中身を回収したぞ。
お? ドジョウが入ってる。ほかにカタツムリ……タニシもあるな。
そのままゆでて食べるのは難しそうだ。
カニ籠を回収したおかげでフィッシングマスタリーが2まで再取得できるようになったぞ。
「今日の絆さんは驚きの連続でしたね」
「俺も驚きだよ。まさかここまで能力が上がるなんて、問題として人型魔物が出てきたら完全に足手まといなんだけどな」
99%マイナスなんて完全に足手まといだ。
「ダークネスリザードマンとかでしょうか?」
あー……確かにその辺りは狩猟具のマイナス補正でダメージが入らなくなってそうだ。
トカゲなのか人なのか判断が怪しい……検証はすべきだとは思う。
「仮に攻撃が通じなかったらルアーダブルニードルでデバフをばら撒いて硝子達の援護をするさ」
「そうですね。私たちは一人じゃありませんものね」
「後は……ハイディング・ハント」
隠蔽スキルを使うと俺と硝子がフッと半透明になりこっちに気づいて近づいてきていた魔物が俺たちを見失った。
武器を釣り竿に変えてルアーをぶつけてみる。
ブシュ! っと派手なエフェクトが発生して魔物を仕留めた。
「会心の一撃が出る一撃が出せるみたいですね」
「みたいだな」
あれだ。ゲームとかだと暗殺者とかが使う攻撃みたいなやつ。
バニシングアタックとかアサシンキルみたいな感じ。
ハントって所から狩猟する際の奇襲攻撃って意味でのスキルなんだと思う。
隠蔽状態で行動できるってのも無意味な戦闘を避けれるから便利だ。
「大体狩猟具ってスキルの全容がわかって来た感じだな」
戦闘補正がぶっ壊れで狩猟関連、釣りや罠なんかも据え置きで新しくスキルを取得して重複可能。
ゲーム内で一人しか習得できないのに納得の性能だ。
バランスがぶっ壊れているので下手な所で他プレイヤーに見られたら嫉妬の粘着されそう。
「私も会心の一撃が出せるのでしょうか?」
「どうだろ? ちょっとやってみようか」
「はい」
って事でクールタイムが過ぎたのでハイディング・ハントを使用して隠蔽状態になった所で硝子が魔物に近づいて攻撃をする。
すると俺を含めて隠蔽状態が解除されてしまったけれど、派手なエフェクトは発生して魔物に大ダメージが入って仕留めることができた。
「中々強力ですね」
「ルアーダブルニードルと組み合わせられたらいいのだけど……別スキルを使ったら解除されるっぽい」
攻撃行動や別スキルを使うと隠蔽が解除されてしまうようだ。
「どちらかが掛かっているだけで十分ですよ」
確かに……これ以上の火力を検証してもキリがないか。
「それじゃあ帰りましょう」
「ああ」
って事でカニ籠を再設置した俺達は宿に戻り、温泉に入ってゆっくりした。
「それじゃあ絆さん。おやすみなさい」
硝子と温泉を一緒に入って前回と同じく景色を堪能しながら何気ない雑談をした。
しっかりと温泉につかって本日の疲れ……新スキルの興奮で全然俺は疲れてなかった。
「おやすみ。明日もクエストだし、頑張ろうー」
「ええ、ではまた明日」
硝子はカニ籠の設置に付き合ってくれたから夜釣りに付き合わせちゃ悪いよな。
このまま寝るって形で俺は硝子が部屋に入って行くのを見届けた。
「さーて! 今日も今日とて夜釣りー」
で、寝る前の日課となっている夜釣りに俺は出かけて湿地帯で釣り竿を垂らす。
いやーこの辺りの魔物が雑魚なので接近したら釣り竿を振りかぶってぶつけるだけで良い。
前回できなかった場所での釣りができるぞ。
「ふんふんふーん」
って感じで鼻歌交じりに釣り竿を垂らしていると……ズモモっと音がして少し離れたところに……なんか地面から水で構築された大きな手みたいなものが生えてきた!
……おん?
なんだあれ?
「な、なんだ?」
ズイっと高速で手みたいな物が俺に向かって高速で接近してくる。
咄嗟に戦闘モードに入って周囲がスローに感じる中で手を避けて冷凍包丁で斬りつける。
が、手応えが無く手が俺を捕まえようとのし掛かってきた。
「あぶね!」
咄嗟に覆い被さる大きな手を避けて大きく後ろに下がる。
「なんだこの魔物――」
って思った所で三本ほど大きな手が俺の背後に生えてきてのし掛かってきた。
「こ、これって……」
思うにこれって回避のしようが無いギミックだったんだろうなぁ。
だってあのアクロバットが出来る程のプレイヤースキルのある硝子や紡、闇影が避けられずに捕らえられたんだし……。
と、俺はよく分からない水で構築された大きな手みたいな物に覆い被された――。
「う……」
気付いた時、俺は周囲の明るさに何度も瞬きをした。
だって俺の意識では先ほどまで夜だった訳で、突然の日差しという変化に意識が追いつかずにいる。
なんか砂地に寝転がっているような感覚。
咄嗟に手を伸ばす。
「ほ!」
何か近くで避けるような歩調が聞こえる。
この感覚……覚えがあるぞ。
「気付いたわね、絆。いきなり呼びつけて悪いわね。ちょっと手伝ってほしいのよ」
ぶんぶんと頭を振りながら俺は……周囲を見渡す。
そこはサンサンとした日差しとどこまでも続く砂と青空、そして目の前に……奏姉さんが俺に手を差し出して謝罪混じりにお願いをしている状況だった。
「はぁ……もしかしなくても姉さん、これって開拓イベントへの勧誘?」
「そうなるわね。私も呼ばれた側よ」
「なるほどな。で、ここは一体どこなんだ?」
まだちょっと意識がぼんやりする。
体感的には先程まで夜だったので意識の切り替えが出来ていない。
「プラド砂漠だそうよ」
砂漠ってそんなイベントがあるのか。
多分カルミラ島と似た様な感じの場所なんだろうけど。
「いきなり呼びつけて申し訳ない。事前にお願いできれば良かったんじゃが……」
と、何処かで聞いた様な声がする。
声の方を見ると、俺とほぼ変わらない背格好の……身長の小さい女の子が立っていた。
種族は紡と同じ亜人種で……キツネっぽい。
尻尾もふわふわのそれっぽい感じのキャラクターデザインだ。
和服を着ていて中々の見た目をしている。
おー、口調がのじゃでロリ風のキャラデザなだけに、かなりステレオタイプな狐娘って感じ。
のじゃロリ狐耳ババァって奴?
結構色んなゲームをやってきたつもりなので、こういうキャラデザも見た事がある。
人気の属性、デザインって奴だな。
「お主が奏の血縁者でカルミラ島の島主をしておる絆さんじゃな」
「ああ。まさか俺が呼ばれるとは思いもしなかったよ」
まあ、自分でも信じられないが俺も有名プレイヤーって話で、呼ばれる可能性がゼロだった訳じゃない。
カルミラ島のイベントをクリアしたプレイヤーでもある訳だしな。
「そこは……」
「私が指名したのよ」
姉さんが胸を張っている。
やっぱり姉さんの所為かよ。
まあ、このイベントの理不尽さを知らない訳じゃない。
硝子達を散々呼びつけて巻き込んでしまったんだ。
俺の番が来たと思って納得しよう。
「じゃあ島主……この砂漠の所有者はアンタで良いのか?」
「そうじゃ。妾がお主を呼んだ。悪いとは思っておるがどうか力を貸してくれんかの?」
「話はわかった。それで、え~っと……」
俺はそう言って、この人の名前を確認する。
俺の名前は絆†エクシードって結構恥ずかしいプレイヤーネームでみんなは絆って呼んでくれる訳だけど、目の前にいるキツネ娘は……知っている人だ。
いや、実際に話をした事がある訳じゃないけど、知っていたというかなんというか。
声と口調からして最初の波からカルミラ島の波まで戦場指揮をしていた人の声なんだ。
なるほど……ロミナが俺も声を聞いた事があるってこの人だったのか。
で、直接話をするのは初めてだけど……この人の名前がとんでもなかった。
プレイヤーネーム m9(^Д^)




