分業作業
『現在この方の電源が切れているか電波の届かない所にいるため、お繋ぎできません』
姉さんの姿が見当たらないのでチャットを送ったらこんなメッセージが帰ってきた。
「大きなブレイブペックルが召喚出来ない……姉さん、色々と気にかけてあげたのに恩を忘れて高跳びとはとんでもない奴だー」
「そうだそうだーお姉ちゃん酷いよー!」
俺と紡は姉さんが朝食を用意するはずなのにいない状況でそう発言する。
もちろん、違うことはわかっている前提でのネタ発言だ。
「えーっと……さすがに違うのではないでしょうか?」
「奏殿はそんな恩知らずじゃないでござる」
「……そう?」
しぇりるは工房に籠り切りだったから姉さんのことはあんまり知らないので反応に困る顔をしている。
挨拶はしたけどさ。
「まあ、絆君達の様子から考えてネタで言ってるように見えるから本気で答えなくても良いと思うよ」
「まあねー」
食堂で起きてくるはずの姉さんがいないために今朝は俺が料理をすることになった。
もちろん俺は昨日の夜に釣り上げた魚を焼いた焼き魚定食としてみんなに振舞ったぞ。
それと姉さんが作り置きしておいた品を数品。
「マジレスすると、アルトみたいに姉さんもついに昔のフレンドに呼ばれたって所かな?」
「だろうね。元々彼女には行方知れずのリーダーがいた訳だしね……おそらく彼女に呼ばれたのだろう」
「あ、その人と知り合い?」
「ああ、人柄は良いと思う」
ロミナの知り合いでもあるっぽい。
まあ、俺たちの中だとこの場にいないアルト以外で顔が広いのはロミナだもんな。
「絆くんも声くらいは聴いたことのある人物だよ」
「へー……」
「考えてみれば、どことのなく絆くんと似ている所があるかな」
誰だろ? パッと出てくる気がしない。
何にしても姉さんは行方知れずになったって事で、どこかでまた連絡してくるだろう。
後々アップデートで追加される場所にいるんだろうしな。
「それで絆くん。昨夜の放送で流れたユニークスキルは絆くんが取得したという話だったね」
「ああ、唯一スキルで狩猟具って名前だった。武器としてはこんな感じ」
と、俺は武器を取り出してみんなに動きを実践して見せる。
「武器チェンジの隙がほとんどないね。いろんな武器をコロコロ変えるお兄ちゃん向けって感じだね」
「確かにそうですね」
「武器の形状変更は硝子くんが持っている大鯰の扇子も似たような力は持っているけどね」
「より変化に特化した武器って感じかな。とりあえず初心者用って事だから強化なり強い武器に乗り換えとかできると思うんだけど、とりあえずロミナ、見てみてくれないか?」
俺はロミナに狩猟具のコアを差し出して見て貰う。
どうやら受け渡しは不可な装備品らしいけど、確認はできる。
「ふむ……なるほど、こんな独自ギミックのある武器が存在するのだね。唯一って事は絆くん専用の武器という事になるのだろうけど」
「アップデートを繰り返す内に廉価版みたいなのが出るんじゃない?」
「そんな元も子もない。ロマンに水を差してどうするんだい」
ロミナに注意されてしまった。
ノリに合わせないのは無粋かな、やっぱり。
「ちょっと羨ましいでござる」
「ほかに無いかみんなで探して取得すればいいんじゃないか? いろんなスキルを取ってたら見つかるかもしれないぞ」
「条件がかなり厳しそうだけどね。そこまで手広く器用貧乏と呼べるくらい取っていたのなんてお兄ちゃんみたいな人だけだと思うな」
「そうでござるな。やっぱりゲームの方向的に色々と手広くするのが大事そうでござる」
まだまだ考察の余地はあるって事かね。
運営的にはセカンドライフを売りにしているからプレイヤーが様々な経験をする事で有利になるかもしれない、みたいな感じなんだろう。
「お? どうやらこの狩猟具という武器の要となる器の部分も生産することが出来そうだ」
ロミナが色々と調べている間にわかったようだ。
「作れるって事は武器の量産ができるって事?」
作れるならほかのプレイヤーにも渡せそうだ。
唯一スキルとはなんだったのか? って疑問が脳裏を過るがロミナは首を横に振る。
「いや、ヘルプに追加されたのだけどどうやら該当スキルを所持した人物が依頼をした時のみ鍛冶画面に作成項目が出現するようだ。出来上がった武器も絆くんしか使えないという事だね」
うわ……他のプレイヤーを介しても俺にしか所持させない武器種って厄介だな。
カニ装備じゃないけど、完成品が簡単に手に入るのは金銭的に楽なんだ。
それに比べると必要な素材を集めて作ってもらうって作業は結構しんどい可能性が高い。
う~ん、ユニーク武器の難点って事かね。
「作成難易度も相当だね」
「厳しそう?」
「いや、これは非常にありがたい話で、私の鍛冶経験値が大きく稼げそうだ。願ったり叶ったりだよ」
おお……それは助かる。
「差し当たって……難易度が恐ろしく高いけれど一番強そうな狩猟具は魔王四天王素材で作る奴だね。ギリギリ絆くんと闇影くんが持ち帰った素材で作れそうかな。要にアクアジュエルがあってよかった」
「魔王軍侵攻イベントは硝子の方も快勝だったけど?」
「……」
しぇりるがここで沈黙しながら見つめてくる。
波で活躍したんだから気にしないでくれ!
しばらくはドヤ顔で固定でも良いからさ。
「生憎ドロップ品がギリギリ足りない。またどこかで素材を手に入れる機会があったら作ろう」
「私たちも色々と品は手に入れていましたけれど、足りないのですね」
「ここは運の問題だからしょうがないよ。四天王の再戦とか楽しみだね」
「そもそもの問題として四天王素材はそれぞれが権利を持ってるだろうしな……闇影、良いのか?」
俺と闇影が持ち帰ったとすると水の四天王素材だろう。
「拙者は問題ないでござるよ。絆殿の強化に使って下され」
「そうか?」
「激レア装備やスキルの試しと言ったら一種のイベントみたいなものでござるよ」
「あー、確かに」
滅多に手に入らない装備をギルドメンバーが手に入れたら見せてもらう的な奴だ。
狩猟具とか、まさにそのパターンだよな。
「作れるのは蒼海の狩猟具という武器のようだ。早速作るとしよう。子飼いにしている鍛冶仲間と連携してすぐに作るので待っていてくれたまえ」
という訳でロミナは工房に行き、知り合いの職人を集めて早速武器作りを始めてくれた。
「よーしみんな! 今回は非常に珍しく難しい武器作りだ。一緒に連携して作り上げよう!」
「何を作るか見当もつかねえけどすげぇ予測が出てるのわかるぜ」
「声を掛けてくれてありがたい!」
「ユニークスキル獲得者って島主だったんだな」
「よし! 行くぞー!」
鍛冶職人としてトッププレイヤーであるロミナが声を掛けて職人が集まり、カンカンと鍛冶仲間同士での連携ミニゲームが始まって行く。
俺達は技能持ちじゃないのでどんなことが行われているのかよくわからないけれど、各々担当で何かを打ち込んでいる。
凄い集中力でロミナが持ち込んだ素材が形となっていき、並列で別の職人がパーツを作りだしていく。
「そういえば日本でも昔、分業作業で鍛冶は行われていたそうですよ」
「鋳造に始まり、鍛冶、刃付け、柄、組み立てから銘を付ける作業とかでござるな。生憎拙者もそこまで詳しくはないでござるが」
「へー」
「……みんなで作ると作成難易度が下がって失敗のリスクが減る。専門じゃなくても作れるものが増える」
しぇりるがそんな補足をしてくれる。
この辺りも連携スキルの凄い所なんだろうな。
人間一人でできることは色々と限界があるって事なんだと思う。
やがてロミナたちは鍛冶を終えて武器が完成したようだ。




