想定されたプレイング
『なんだ?』
『何を考えろってんだよ』
『相変わらず島主たちにやられたってだけだろ。トップの連中ってのはそんなもんだって』
『島主の連中って努力してる俺達からすると遊んでいるように見えるけどやっぱ金の力って偉大なんだろう?』
この辺りはプレイヤーの主観が入るよな。
一見遊んでいるようにしか見えないとか言われるだろうとは思っていた。
現に俺は基本エンジョイでやりたいことしかしてない。
なのに好成績なのはゲームとの相性や仲間、環境に恵まれているというのは大きいだろう。
硝子が不愉快そうに異議を唱えようとしているけど俺は気にするなと首を横に振る。
「一生懸命魔物を倒している連中からしたら遊んで見えるもんだ。な? 姉さん」
「そうね。だけどこのゲームの正しい遊び方は絆たちの方法だって学ばないといけないって事、合流して痛感したわ」
「……努力の方向性という奴でござる。拙者はまだ直面していないので人伝でござるが、しっかりと目的を持った努力をしないと身につかない……受験勉強などがそうらしいでござる」
闇影の言い方が若干気になるけど、確かにと思える所はあるよな。
『だからそうじゃねえよ。みんな、前回の波の時を考えてくれ。魔王軍侵攻は無視して』
『はぁ?』
『前回も島主たちの圧勝だったじゃねか』
『察しが悪いな、お前ら。お前らもやってた事だよ。今回はやってないんだ』
『良いから単刀直入に言え!』
『三行でわかりやすく言え!』
確かにちょっと回りくどいな、この何か気づいた奴の言い方。
前回の波と今回の波の違い……俺達は勝ち馬に乗れて他のプレイヤーはあまり活躍できなかった。
で、今回の波で他のプレイヤーはしてなくて、俺達はしている?
「船」
しぇりるがポツリと呟いた。
まあ……船は陸だから使えないもんな。
『船か? 陸じゃ使えないだろ』
あ、気づいた奴がいてしぇりると同じことを言ってる。
『半分正解だけど、もう答えを言うな? 波に備えて俺達は船を用意しただろ? けど今回の波は陸だからって用意して無かった。島主パーティーはタレットを設置した……ここから考えられるのはよ。波のフィールドが決まった段階でそこでしなくちゃいけないことがあったって事だ!』
船に該当しうる陸での代物……戦車、じゃないな。
ああ……なるほど。
しぇりるは船大工だけどここで船を取ったら大工。
『おい……まさか』
『俺達はまだこのゲームの事をまるで理解してなかったんだ! 砦だよ! タレットとか設置されてたりするだろ! 何悠長に俺達は波が始まらないかなーってボケっと待機してんだよ』
『あー……確かに』
『製造系が豊富なのは伏線だったのか』
『マジかぁ……』
『運営が想定しているプレイングは待機時間内に設備の準備って事かよ』
『うわあああ……こりゃあ馬鹿丸出しじゃねえか』
『戦闘始まってから設置してたって事は島主パーティーも気付いてなかった事だよな。出し抜けるチャンスだったのにー!』
と、悔しがる声が大量に沸き始める。
つまりあれだ……ゲームとかの防衛戦で戦場を彩るギミックやオブジェクトをプレイヤーの大工とか作成系の技能持ちが戦場で事前に作ることも波に備えた仕事とカウントされる。
砦を設置することで他のプレイヤーも戦いやすい状態になる、と。
確かにどう見ても運営が想定しているパターンだよな、コレ。
『……マジだ。波のフィールドで建築関連の技能、使える。通常のフィールドじゃできないから盲点だった!』
俺も水辺でカニ籠を大量設置したりしてるので設置可能箇所の制約はある程度わかる。
どうやら建築は普通のフィールドじゃできないっぽい。
『何から何までプレイヤーにゆだねられてるのかよ。カルミラ島を開拓した島主ってのもヒントなんだよ。気づかなかったのが悪いんだ』
『つまりルールを知ってたら今回位の難易度ならかなりのヌルゲーだったって事だよな?』
『むしろあれだけLvを上げて敵が強すぎね? って思ってたけど、ギミックを設置しろって事か』
『つまりこれからは製造系のプレイヤーも抱えて行かないといけないって事だな』
『うへー!』
ってフィールドチャットが混迷を繰り広げている。
砦の建造までできるのか……船の改造やタレット設置とか考えると相当いろんな工夫を入れられる余地があるって事だな。
「ロミナさんを戦場に引き出す日が来そうね」
「そういった可能性は否定しきれないな。とは思いつつ、アップデート項目の確認をしておくか」
表示された項目をいじってアップデート情報を開く。
お? スピリットの技能拡張……何かをすることで新しい技能が解放されるっぽい。
この辺りもどこかで検証や情報収集して覚えて行かないとな。
前回のもどうにもよくわからない所があったもんな。
倒したモンスターの力ってのはどうやら見知らぬモンスターを倒すことでエネルギー上限の限界突破が出来るって事だったみたいだけど。
で、新たなスキル解放とか書いてあるけど前回のアップデートだってすべてのスキルが分かってないんだから判断のしようがない。
アイテムも追加されているっぽいけど……どれくらい増えるんだ?
アップデート内容は前回よりは少ないっぽい? まあ俺が不参加の二番目の波の時も似た感じだったし、こんなものか。
と思ったけどユニークスキルの追加実装とデカデカと表示されている。
シークレットスキル以外にユニークスキルも増えるのね。
ユニークスキルといえばフィーバールアーがそれか。
「それぞれゲーム内で一人しか習得できない12のユニークスキルを実装ですか」
「わーなんか燃える感じの要素が入ってきたー」
「普通のVRMMOとかだったら炎上モノの要素がぶっこまれるわね」
「ログアウト不可のセカンドライフプロジェクトならではの要素ということでござるか」
「どっち道、嫉妬とか凄いだろうけどな」
「……」
みんな思い思いにユニークスキル実装の項目を確認している。
「問題はシークレットスキルも多いからどれがどれなのか判断し難いのだけどね」
「全部覚えきれないよな」
「まだまだ私たちはすべてを理解しきれていませんね」
「だからこそ楽しいんじゃん。全部が分かったらお姉ちゃんに持ってかれるし、飽きる頃にお兄ちゃんにボコボコにされちゃうよ」
まあ確かにそのパターンがいつもの流れだ。
それに飽きっぽい紡からしたら新しい要素と隠されたスキルは継続力になるんだよな。
「絆さんの根気は参考にすべき所でしょうね」
「この子は極端すぎるのよ。前にやってた農業が必要なゲームなんて紡は元より私も投げだす程の面倒なシステムだったのにずーっと遊んでたし」
「お陰で農業要素でLvアップする所だけをやってもらってゲームクリアできたけどね」
「流行っている頃に絆が作った作物のリザルト画面をゲーム仲間に見せて驚かれたわよね……極めてる、頭おかしいって。農家出身の人も驚いてたわ」
硝子が俺の方をキョトンとした顔で見てくる。
「絆さん、農業もできるんですか?」
「別のゲームでだよ。今の俺のソウルライフは釣りだから」
処理落ちするまでやり込んだゲームの話などされても今は釣りをするのが目的なのだから関係ない。
「さてさてー今回もお楽しみボーナスアイテム支給ー」
「きっと絆殿はエネルギーブレイドの拡張アイテムでござる」
こら闇影! そんなお約束みたいにフラグを立てるんじゃない!
「そうはならないことを祈ってー! 報酬チェーック!」
スロットがくるくると回るー!
釣り竿と魚が気になる! 何が手に入るんだー?
なんにしても当たれ!
「ペーン!」
どこからともなくリール内にペックルが現れて止まって行く。
いや、お前らいらないから!
やがて三つ共にペックルで止まった。
ステップアップ! 何かステップアップ!
とは思ったのだけど……何も起こらず確定したようだ。
――ペックルハウス獲得!




