設置クロスファイア
「絆さん!」
「おっとこれはちょっと歯ごたえありそう!」
わらわらと魔物の出現頻度が跳ね上がり、次元ノガルーダや次元ノジンが大量に俺達やプレイヤー目掛けて襲いかかって来る。
その数は十や二十じゃない。
まさに無数と言った様子で一人のプレイヤーが何体もの魔物に囲まれる事態になって来ている。
「はあああ!」
「おりゃあああ!」
「範囲技で削ります! 紡さん! 行きますよ!」
「うん! こりゃあヤバイかも!」
「闇影、こっちも協力でデバフを振りまいて戦えるスペース確保をするぞ!」
『絆ー! そこね! 今行くから堪えなさいよー! この防具のお陰で耐え切れてるけど、ちょっときつくなってきたわね……』
『ありです! 助かりました!』
『ぐわあああああああああ!』
『いわぁああああああああっく!』
奏姉さんは俺達の場所を分かって居るのか近寄ろうとして居るけど戦闘不能になっていくプレイヤー達の声が聞こえてくる。
こりゃあ結構危険だな。
最初の波での戦闘を思い出す、あの頃はあの頃で接戦だった。
やっぱりそう簡単に波はクリアさせてなんてくれないよな。
「はぁ! 輪舞零ノ型・雪月花!」
「紅天大車輪!」
「「ブラッディボムスプラッシュ!」」
硝子の雪月花で周囲の魔物を花びらが切り刻み、紡のスキルで弾き飛ばしながらダメージを与え、俺と闇影の連携スキルで周囲の魔物達を強力なデバフを振りまく爆弾へと変えて周囲に飛び散らせる。
『今だ! 島主パーティー近くの奴らは安全確保をするために魔物共を蹴散らせろー!』
他プレイヤーの周囲に血が掛かりデバフを与える。
お陰でダメージが大幅に入り周囲の魔物は一時的に激減した。
さすがに解体とかして居る余裕は……無いな。
あ、奏姉さんが見えた!
「みんな! 姉さんがめっちゃ抱えてヤバそう!」
「行くペン!」
元祖ブレイブペックルがPTメンバーの危機を感知して姉さんの元へと掛けて行く。
ストレスゲージを確認……まだ大丈夫か。
ただ、耐えれるか怪しいラインだな。
何にしても手早く魔物の群れを抱える姉さんを助けないとヤバイ!
『ブラッディボムスプラッシュを!』
『俺は島主パーティーじゃねええ!』
『ブラッドフラワーにブラッディレインだったか! とにかく、みんな範囲技使って削ってから倒れてくれ! じゃねえとこの魔物を処理仕切れない!』
『ペックルは魔物じゃ無いペン!』
『悪いペックル! 俺達の盾となってくれ! 少しだけの辛抱だ』
『ぺーん』
ペックル達が戦闘不能になる声が周囲から聞こえて来る。
他プレイヤー達のペックルだ。
こっちは辛うじて持ちこたえているけど……まだ俺達でさえボスの所に到着して無いんだぞ!
「倒しても倒しても……」
「キリが無い。ちょっと敵の数が多いよ」
硝子と紡が範囲技、俺がブラッディボムスプラッシュを定期的に放って周囲に群がる魔物をどんどん削って行くけど沸きがきついぞ。
一体どうなってんだ?
『ボスに攻撃してる暇がねえ!』
『俺達のLvが足りねえって事かよ!』
『島主様、絆ちゃんのお兄さん、手加減せずに終わらせて下さい! 今の俺達にはきつい!』
『廃人様キャリーお願いするっすー!』
泣き言を言うプレイヤーが出てきたぞ!
おい前線組! 俺達にお株取られてどうするんだよ!
『あ、島主と思ったらロゼじゃん、サンキュー』
紡の元パーティーメンバーも善戦してるっぽいやりとりが聞こえて来る。
「絆ー紡、やっと合流出来たわね。しかっし……魔物の沸きが激しくなったわねープレイヤー全体でかなり押され気味になってきたわ」
「歯ごたえあって面白くなってきたー!」
「紡はそうでしょうよ。硝子さん、行ける?」
「なんとか……」
とはいえ、俺達もそこそこ被弾して来ている。
既に俺はシールドエネルギーが削りきられて何度かエネルギーにダメージを受けたりして居る。
まだ戦えるけど、継続して戦い続けるとそのうち装備が脱げて大幅弱体化するぞ。
奏姉さんの提案する陣形でサッサとボスの所まで行って攻撃しないとじり貧になるな。
『ぐああああああ!』
『あの地響き、近くに居るだけでダメージ受けるのかよ。運動神経良い奴がジャンプしまくって攻撃するしかねえけどきついじゃねえか』
『岩石投げをしてくるぞ!』
『弱体化ギミックとか無いのか!』
『シンプルにボス強いぞ!』
ボス戦をして居るプレイヤーがかなり手を焼いているっぽい。
これは……相当な被害が出そうだ。
「腕が鳴るねみんな」
で、追い込まれる事でワクワクするぞ! って目を輝かせる妹がここに居る。
いや、頼りになるんだけどさ。結構ヤバくないかこの流れ。
紡がこういう顔してる時って負け戦になる事がこのゲームをする前だとそこそこある。
「拙者達は戦えるでござるが……厳しそうでござる」
「ですね。自惚れるつもりは無いですがもっと倒さないと行けないかも知れないです」
「エンジョイ勢に厳しい現状だ……」
前線組が活躍所だ。頑張って戦って欲しい。と思ってしまう所だけど……俺達も最前線だって自覚を持って頑張らなきゃ行けないな。
『うわあああああああ!』
『悪い! ボス前戦闘していたPTだけど全滅した! フィールドが閉鎖してるからリスポーンで入れない!』
そうだった。ボスが出現すると死に戻りで戦場復帰出来なくなるんだった。
かなりヤバくなってきてないか?
ボス戦闘していたPT全滅ってだけで追い込まれてるぞ。
って所で俺達にPTチャットが飛んで来た。
「……そう」
この声はしぇりる! そういえば別行動してたんだった!
「しぇりる! 大丈夫か! 魔物の沸きが激しすぎて戦場は大混乱状態だが」
「しぇりるさん。無事ですか?」
「そう」
どうやらしぇりるの声音から無事ではあるっぽい。
「しぇりる殿、どこにいるでござる?」
「D……6」
そこそこ遠い挙げ句ボスから離れすぎてる! どうする?
しぇりるの身を考えたら合流するのが一番だけど、ボスを倒さないとじり貧でプレイヤーがどんどん戦場から追い出される!
挙げ句、戦場のプレイヤーが居なくなったらどうなる? 波の突破失敗となるぞ。
早く決断しないとヤバイ。
「絆、しぇりるちゃんを救助するために二手に別れるのはどう?」
「その辺りが妥当か、姉さん。誰が良いと思う?」
と、俺と姉さんがしぇりるを救助しようとPTで話をしていると。
「……問題無い」
しぇりるが平気そうに答える。いや、正確には……自信ありな感じか?
「設置が終わった。一気に行く」
「設置……? 一気に行くって――」
何を? と聞く前にしぇりるが喋る。
「fire!」
するとガシャガシャ! ドドドドド! っと音が周囲から鳴り響く。
「ギギギ!?」
「グギャアア!?」
「ギ――」
同時に周囲に矢の雨と言うしか無い代物が降り注ぎ、魔物達をハチの巣にして行く。
音の方を見渡すとそこには塔を壊す道中で見たバリスタが勝手に動いて周囲の魔物を撃ち抜いているのが確認出来る。
大砲もセットだ。
どんどんバリスタから弾が放たれて魔物の数が減っていっている。
おい! イカとかカニの残骸で作られた弾丸が混じってるぞ。
『な、なんだ!?』
『矢の雨が降ってるぞ!』
『た、助かった! じゃねえ! なんだこれ!?』
『バリスタが勝手に動いてる!』
『タレットじゃねコレ!?』
『なんか戦場で見ると思ってたけ何だコレ!? どんなギミックなんだ!?』
どうやら他のプレイヤー達も助けられたのかみんな揃って驚きの声を上げている。
『見た時使えるかと思ったけど引き金無くて弾も持ってなかったら無視してたけど、なんだ?』
『最初から設定されてたのか?』
『ユーザーに優しい運営、感謝します』
『いや、ここはユーザーにクリアさせろよ。攻略不可なのにゲーム続行の為にこんな八百長されても冷めるだろ』
……違う。
これは運営の仕組んだ代物じゃない。




