ゲスい提案
パッと手を離すとドウ! っと音を立てて弓となったエネルギーブレイドから光の弾が放たれて塔に命中、轟音を立てて大きなダメージエフェクトが入った。
「よし命中!」
防御低下のデバフとエネルギーブレイドの一撃を受けて大ダメージだ!
っと思ったけれど塔はまだ健在だ。
前回、塔を壊した時よりも倍のエネルギーを振り込んだけど倒壊できなかったか。
「弓になるのでござるな」
「試作可変機能を持ってるんでな。スピリット同士だしみんなで持ち替えて各々エネルギーを振り込んで攻撃すればいいだろ。次は硝子な。扇子にも出来るみたいだから使ってみてくれ」
俺は硝子にエネルギーブレイドを手渡す。
「確かにありますね。ちょっと変えてみます」
硝子にエネルギーブレイドを手渡すと、さっそく硝子は扇子へと形状を変える。
「えっと……たぶん、振るとエネルギー刃が飛んでいくタイプの扇子みたいです」
「へー」
なんかどこかで見たような武器になるのね。
むしろ普通に扇子が武器ってよく考えたらこのゲーム、変な武器が初期からあるよな。
釣り竿が変化出来る武器に無いのが惜しまれる。
「では私もやりましょう」
硝子がエネルギーを振り込むとブン! っと俺がやった時よりも大きくエネルギーがあふれ出す。
なんか古い映像でダンスする場所で見るような扇を更に大きくさせた感じだ。
もはや巨大な団扇とでもいうのだろうか。
芭蕉扇ってよく考えると扇か……。
「では行きます。絆さんを習ってスキルを使いますね。輪舞零ノ型・雪月花!」
硝子の一番の魅せ技、花びらが舞って切り刻むスキルが放たれて周辺にいるすべての敵を切り刻む。
バシュ! っと取りこぼした魔物どもはみんな消し飛び、塔にも多大なダメージエフェクトが大量発生した。
けどそれでも塔が倒壊しない。
かなりタフだな……前回の波と比べると相当だろう。
まだ始まったばかりだとしても耐久の伸びが凄い。
「ヒュー! 硝子さんやるー」
「中々硬いですね。もっとエネルギーを振り込みましょうか」
「まだ始まったばかりだ。ペース配分考えないとボスで力尽きちゃうぞ」
「そうですね。では次は闇影さんですか?」
「ああ」
と、俺が頷いたので硝子は闇影にエネルギーブレイドを手渡す。
「むしろ闇影こそエネルギーブレイドは良い武器かもしれないぞ」
「また拙者の武器が固定化されるでござるか! 嫌でござるよ! 何より燃費が悪すぎて一気に弱体化しかねないでござる」
まあ、ここぞとばかりにエネルギーを振り込んで放つ必殺武器なんだし当然か。
「確かに常用は出来る武器じゃないか。ただ、エネルギーを振り込んでドレインを使ったらどれだけ取り戻せるか気にはなるな」
「検証は大事でござるよ。拙者もその辺りを食わず嫌いする気はないでござる。拙者の場合、今回は杖辺りを使うと良さそうでござるな」
闇影はエネルギーブレイドを杖の形に変えてエネルギーを振り込む。
硝子に匹敵しかねない程に杖からエネルギーが放出されて派手な杖の形に変化していた。
「闇影さん、その杖を持つ姿は中々様になってますよ」
「ではやってみるでござる。サークルドレインでござる!」
ドン! っと闇影が放ったドレインが塔の周辺に放たれてドレインのエフェクトが発生する。
この辺りは大きな変化はないか。
と思った所で塔が倒壊した。
「おお。さすがは闇影、俺たちの中で一番の火力担当」
「褒めても何も出ないでござるよ。何より絆殿と硝子殿、他の方々が既に散々攻撃していたのもあるでござる」
「闇ちゃん私を忘れてるー」
紡がここで自己主張を始めた。
まあ、スピリット専用のエネルギーブレイドを代わる代わる使っていたから、他種族で設定した紡は入れないよな。
「もちろん紡殿も協力したでござるよ」
「で、結局闇影のドレインはどうだったんだ?」
振り込んだエネルギーとドレインでどれくらい損失を取り戻せたのかは気になる。
「計算が別なのかドレインでエネルギー吸収できないみたいでござるよ」
「じゃあ大損になるのか」
「みたいでござるな。とはいえ、塔を倒したお陰でみんな少しは取り戻せたはずでござる」
確かに俺たちも塔と周辺の魔物を倒したお陰で少しは使った分を取り戻したか。
『D3の塔を破壊!』
『早いな! こっちは全然削れてないってのに』
『島主パーティーがゴリゴリ削り落としてた』
『あー確かにアイツ等ならやっても不思議じゃねえか、どんな手を使ったかよろしく』
『スピリットたちが光る武器で各々スキルぶっぱ』
『あーエネルギーブレイドだっけ? そんな手があったのか』
『前情報で負け組種族と言われていたのにこの体たらく』
『勝ち組羨ましい。種族変更アプデ希望』
戦場内での雑談が始まっている。
『絆達、やるわね! そのまま次の所に向かいなさい』
お? これは姉さんだな。
わかりやすいけど、今なにやってんだ?
『大きなブレイブペックルさーん。手のなる方へー』
『みんなの頼れる勇者ペックル様ー』
『範囲技で美味しく頂こうぜー!』
『ありしゃーす!』
まだ追いかけっこと言うか姉さんのヘイト集め戦法は行われているらしい。
他のプレイヤーの助けになってるわけだし、貢献度は高そうだな、姉さん。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「ん?」
「ここでお兄ちゃんが被ってる帽子を取ったら面白い事になるね!」
妹からのゲスい提案。
面白さの追求をするためにそこまで閃くか、妹よ。
そんな事をしたらこのフィールド内で補佐する他プレイヤー達のペックルまで大幅な弱体化が掛かるぞ。
姉さんも防御が下がって、集めた魔物に引かれるだろう。
「紡さん……」
「紡殿……」
「思っただけだよ! やれなんて言ってないじゃん!」
「まあ……ぶっちゃけて言うと俺の頭装備が固定なのはそろそろ勘弁してほしいんだけどな」
ほかにも装備したいと思わないはずはない。
こう……釣り人なら被ってそうな帽子とかあるだろ? キャップとか。
「島主故の悩みでござるな」
「効果範囲がフィールドって相当広いですよね」
まあなー……そのせいで俺はサンタペックルこと、クリスが被っていた帽子以外の選択肢が無くなってしまっている。
何せ俺がこれを被っているだけで呼び出したペックルの性能が上がって下手なプレイヤーよりも便利なNPCに出来るわけだし。
ペックルマスターとは言ったもんだ……。
おしゃれの観点から外したい。
サンタ帽子を被って釣りはなー……。
「とにかく気持ちを切り替えて次に行きましょうよ。今度は二手に分かれますか?」
「どんな組み合わせで行くんだ?」
「相性的には私と硝子さん、お兄ちゃんと闇ちゃんで別れて行くのが良いよね」
紡の提案は割と無難な組み合わせか。
敵の攻撃を少数だけど弾く硝子と鎌による範囲技が豊富な紡のペアはそこそこ隙が無い。回復手段は心細いけど硝子が魔物を倒せばそこそこ回復するし継続戦闘能力は高めだ。
何より硝子は釣り竿を使った糸による拘束と攻撃も使えるようになったからより強力になった。
対して俺と闇影は……俺がその都度ペックルを呼び出してブレイブペックルを盾にしたり、ペックルたちに攻撃させたりできるので人員が足りないというのは起こらない。
で、我らが最大の火力担当にして回復もこなす闇影による攻撃という隙の無い編成。
しかも連携スキルで周囲の魔物に防御低下のデバフをばら撒ける。
俺自身の運動神経は三人に劣るけどそれはそれで良いのかもしれない。
「絆殿と紡殿の組み合わせはどうなのでござる? 血縁故に何か良い戦いとか出来そうでござるが」
「出来なくはないよーどうしようか? ジャンケンで別れる?」




