クリティカル・ワイヤー
『待てお前等、冷静に考えるんだ。今回の魔物は人型に近い要素を持っていて群がっている。実に彼女らしい末路に思えないか?』
『なるほど、姫という事か! モンスターサークルの姫ざまぁ』
『群がるのは魔物ばかりだな。同類になってしまってはいけない』
『この場合のモンスターとはペアレントと、本物のモンスターを絡めた――』
『解説オツ』
『3行でよろしく』
『つまり良い子のみんなと絆ちゃんファンクラブのみんなは真似をしちゃだめだぞ? 遠くでご本尊を眺めるのが大事』
『ネカマ疑惑のお兄さんと絡むよりも闇影ちゃんとか硝子ちゃんと絡んでる方が良いよなー』
だーかーらー!
「……ちょっとみんな、私アイツ等MPKしてくるわ。好きにしてて頂戴」
あー……姉さんの堪忍袋がブちぎれてラースペングー化しちゃったか。
ドタドタと姉さんは魔物をかき集めながら何処へと走って行ってしまった。
こういう大規模イベント内の悪ノリってイジメとの境界線が曖昧な事があるんだよな。
まあ雰囲気的にヘラヘラやっているし、マジでやっている奴はいない。
悪ふざけの範疇なので気にしたら負けだ。
むしろ美味しいネタを提供出来た位に考えるのがイベントを楽しむ秘訣と言える。
明日にはほとんどの人が『ああ、そんな事あったなぁ』としか考えていない。
とはいえ、大丈夫だろうか……とは思うけど姉さんは別にやられてもデスペナはそこまでないし大丈夫だろう。
「えーっと……奏さんを追いかけなくて大丈夫でしょうか?」
『待ってください、お兄さん! これは誤解なんですよ!』
『ギャー! 親ブレイブペックルが魔物を引き連れてきやがった! 引かれるー!』
『お前等早くお兄さんに謝れ! な? ぎゃあああ!?』
『嫌だ! 俺達は間違ったことを言ってない!』
『絆ちゃんとずっとお話をしていたのが羨ましいから謝んない!』
『経験値持って来てくれてありがとうございます!』
「……まあ、首謀者をMPKしてきたら戻ってくるんじゃない?」
「アハハハ! お姉ちゃんも面白い役所を得たねー! 闇ちゃんみたいだね」
「全く嬉しくないでござるよ!」
緊張感のないまま波の戦いが進んでいくなー。
「とにかく、みんな思い思いに行くか。姉さんの勧める戦いもいずれは求められる大事な連携だって心に刻んでさ」
「そうですね。絆さんと闇影さんの連携スキルがとても強力でした。私たちも負けていられませんね。絆さんと戦闘でも連携したいものです」
硝子との連携で何か組み合わせられるスキルあると面白いんだけどな。
やっぱり単純に魔法とか覚えるのが良いのか?
「連携するだけならルアーダブルニードルからの大技とかで良いとは思うのだけどな」
「もっとちゃんと連携してるってスキルが良いですよ」
うーん……あったらいい組み合わせってのはわかるんだけどな。
要検証って所か。
「まあ、姉さんが俺たちから離れて行ってしまったのでペックルたちに抜けた穴を塞いで貰いながら最寄りの塔まで行こう」
「ええ」
「拙者も畳みかけるでござるよ! サークルドレインでござる」
っと周囲に湧き出す魔物相手に闇影が恒例のドレインを施していく。
バシィ! っと良い感じにダメージは入るけど仕留めきるには足りないようだ。
超火力のドレイン攻撃でも削りきる事は出来ずにいるか。
「私もやるよー! 覚えたての新スキル! ハァアアア!」
っと紡が掛け声を上げると、紡を囲うように何やらエネルギーの膜みたいなモノが精製され、手足がモサモサの毛が生える。
「いっくよー! 紅天大車輪!」
「シャアアア!」
闇影がダメージを与えた次元ノナーガやガルーダに向けて紡がスキルを放って仕留めきる。
「どんどん行くよー」
「で、紡、そのスキルが亜人の獣化スキルなのか?」
「うん。まだ熟練度が足りなくて攻撃力アップ効果しかないみたい何だけどね」
「熟練度が上がるともっと獣化していく感じなのかね?」
「どうなんだろ? アバター作成時のキットにはモーションに内包されてなかった所だからわかんないかなー」
あ、そうなのか。
なんか種族とか設定とかで色々と初期に仕込むことが出来るっぽい。
スピリットにはそんな要素は無かったはず。
「このスキルを発動させるには攻撃してゲージ貯めないといけないから初手から使えないのが面倒な所だよねー」
自力でブーストするスキルだけど攻撃してゲージを貯めて発動か、面倒と見るか決め技と見るかは個人の自由か。
っと近づいてくる次元ノナーガに冷凍包丁で切っていたらオートスティールが作動してナーガの鱗をスティールしてしまった。
後でロミナに提出だな。
「でさ、このスキル……謎のチャージが可能なんだよね」
「連携スキルにもなるって所なんじゃないか? 組み合わせはわからないけど」
「かな? 闇ちゃん、後で検証しようよ。それとイベント中に使っている人いないか探さないとね」
こういった場は強い人や見慣れぬスキルを確認する場としては最適だ。
俺達は他のプレイヤーに興味を持たれて見られるように、俺たちも戦っているプレイヤーたちを観察できる。
我が道を行くけど、学べるところは多々存在するのだ。
姉さんが俺たちに色々と教えてくれたように。
『ネカマ姉さん。ゴチです!』
『耐えてくれてありしゃーす!』
『魔物の追加ありでーす!』
『お兄さん、これからファンになります!』
『アンタらいい加減にしなさいよー!』
……その姉さんは現在MPKの旅に出ているけど。
魔物の群れに向かって大技や魔法を放てる訳だから来るとわかっていたら腕に覚えがあったら美味しいカモだよな。
黙っていても沢山来るんだしさ。
姉さんがあの連中をMPK出来ることを祈ろう。
「そ、そこの島主パーティー! 助けてー!」
するとそこで助けを求める声が聞こえて来た。
姉さんのMPK被害者かと思ったけれど、どうやら違うようで無数の次元ノガルーダと次元ノジンに襲われて半壊してしまったパーティーがこっちに助けを求めている。
「OK、急いで助けに行こう!」
俺は急いで釣り竿に持ち替えてヘイト&ルアーでコツンコツンとルアーを飛ばしてターゲットをこっちに向けさせる。
「いくペン!」
「こいペーン!」
ここでペックルのクリスとブレイブペックルが上手い事動き出し、クリスは水を纏って突撃、ブレイブペックルはリザードマン召喚で俺がターゲットを奪った魔物に向かって攻撃して弱らせた。
「ここは私が……絆さんとクリス達がやってくれたのですから新技をやりますよ。見てくださいね!」
と、硝子がなんか負けじと俺と同じく釣竿を取り出した。
いや……硝子の場合、扇子でスキルを放った方が良いんじゃない? と思ったのだけど距離があったからこその攻撃だと判断して見守る。
ヘイト&ルアーを使うんだろう……そう俺は思っていた。
硝子のルアーは次元ノガルーダと次元ノジンをぐるぐると縛り上げるように近くを器用に飛び……首に巻き付いたかと思うと、硝子はキュっと釣竿を上げ、近くの岩場に糸をひっかけて釣り上げる。
「クリティカル・ワイヤー」
と、リールから伸びる糸をピン、っと弾くとバシュ! っと次元ノガルーダ達の首元にクリティカルエフェクトが発生して絶命した。
人型故に……こう、必殺! って感じでポロっと首が落ちて怖いぞ。
「おお! 硝子殿! 凄いでござる!」
「仕事人な感じだね! 私も首は狙って仕留めるけど、手際が良くて凄いね」
「どんどん行きます! はぁ! バインドロープ! からの乱舞一ノ型・連撃!」
硝子は助けを求めるパーティーの近くを飛ぶ魔物をルアーではなく糸で縛り上げてから近くに寄せて扇子で動けない相手に扇子で攻撃して仕留めた。
「絆さん程ではありませんが私だってこういった戦い方が出来ます!」
いやぁ……それって釣り竿の戦い方じゃないだろうと思うんだけどルアーで魔物の口に引っかけたりして無理やり一本釣りをする俺が言えるかと言うと怪しい。




