姉の分析
「それがね。ドレインの威力が想像より低いし癖が強すぎて真似するより他の属性魔法を使った方が良いってなるのよね。なんかダメでおかしいとか言われてるし」
まあ……闇影が使っている装備にはドレイン特化のアクセサリーに始まり、他の装備も付与効果を山盛りにしてるもんな。
俺と硝子が不参加だった二度目の波だって、海で戦って居た差があって伸びは十分だったし、カルミラ島の波……三度目の時から能力値はおかしい訳で。
「他の追随を許さないドレイン忍者だな闇影」
「ふ……拙者に追いつけるでござるか?」
別にお前のドレインを全く羨ましいとは思わないけどな。
「スピリットが元々負け種族って前情報の噂があった所為でスピリットのプレイヤーは全体で言えば少ないのも理由かも知れないわね。ドレインとの相性が良いって考察の進みが悪いのよ」
「その理屈だとお兄ちゃんと硝子さんも同様の事が出来る事になるね」
「俺と硝子は魔法は使って無いからなー」
俺、硝子、闇影は揃って戦闘スタイルがバラバラだ。最近、硝子が釣りを一緒にしてくれるようになったけど、使う武器が違うのだから当然だろう。
「サブウェポンでドレインを覚えて見るのはどうなの? 普通に魔物を倒すよりエネルギーを稼げる事になるはずよね?」
姉さんが俺と硝子に提案してきた。
うーん……。
「ゲーム開始当初ならともかく、アップデートまでエネルギー上限が決まっていて、しかも上限が近い俺達からするとなー」
今は条件を満たして上限突破させるのが、ゲーム開始直後は上限が遠くてコツコツエネルギーを貯めて運用してたもんだ。
硝子なんて貯めていたエネルギーをみんなの為に壁となって攻撃を耐えて都市解放のボスを倒したのにパーティーから追放されたんだしな。
「あんまりスキルを覚えると時間消費のエネルギーがなー」
付け替えするとマナが相対的に減ってしまうから高頻度での付け替えや上げ下げは結果的にマイナスになる。
エネルギー生産関連も上げて居る状況なんだけど、それもまた上限がある。
で、ドレインを俺が覚える場合、コスト面でかなり重い。
「そもそもカルミラ島で開拓中に俺や硝子が魔法を覚える案もあったけど、重いし習得条件もあって先送りにした問題なんだよな」
「アレもコレも覚えるには厳しいのが難点なんですよね」
「もうちょっと覚える幅が欲しいでござるな」
俺達がそれぞれスピリット故の悩みを共感していると奏姉さんを初めとした紡、しぇりる……チャット中のロミナまでもが眉を寄せて見てくる。
「他種族だと何でもこなしている様に見えるのだけどね」
「そうよねーかなりサクサクとスキルを付け替えして型を切り替えて見えるわ」
「ねー」
「隣の芝生は青いだけですよ」
だよなー他の種族の方が羨ましいってのはあるし。
マナ生産力を向上させては居るけど、上位スキルともなると常時消費するエネルギー以外にマナも減るんだよな。
「そもそもそれを言ったら他の種族の人だって型を変えたりするもんだろ?」
俺達だけに強制されても困る話だ。
「そりゃあ、色々とやって型を大幅に変えようってする人は居るわね。そういう人はカルミラ島のインスタンスダンジョンで時間短縮図るわ」
ああ……熟練度の関係で型を変えるためにインスタンスダンジョンが使われるのね。
「ま、絆達はみんな好き勝手で楽しむスタイルなんだし、あんまり型を押しつけて良い事は無いわよね。じゃなきゃアンタたちがみんなの憧れパーティーになるはずないもの」
「あ、あこがれでござるか?」
「そりゃあね。闇影ちゃんの真似をするのも当然でしょ」
「硝子ちゃんや紡は素の運動神経が凄いのもあるわね」
確かに……エンジョイが俺達のモットーで遊んで居るけど硝子達は揃って腕は一流だもんな。
そもそも紡も奏姉さんもゲーマーとしての腕前は一流だ。
格闘ゲームの大会で優勝商品でこのゲームの参加権を得た訳だし。
「……」
しぇりるがここで黙ってこちらを見つめて居る。
なんか恐いな。嫌な予感とでも言うのだろうか。
「しぇりるちゃんも槍系を武器に使う人が名前を言うくらいには有名人よ。木工職人なのか槍使いなのか本業談義を良くされてたけど」
「アレか、どっちなのか本人が居ない所で談義される奴」
アイツはこうだ、いや、こうに違いない。
スキル構成のメインはこっちでサブはこっちだ! みたいな明確な答えがあるけど推測で白熱する議論がされる奴。
「……そう。どっちだと思われてる?」
あ、しぇりるも気になるのね。
「槍って言う人が6割、船専門の木工職人ってのが3割」
「残りはなんでござる?」
「海賊って人と捕鯨船長って人がいたわ」
他プレイヤーから見たしぇりるの内情予想か。
「……」
なんとなくしぇりるが照れる様に俯いているような気がする。
「実際はどうなのかしら? 絆わかる?」
「海女」
「……そう」
あ、この発音は間違いじゃ無いけど正解じゃないって感じだ。
「絆殿、しぇりる殿は探検家でござるよ。エクスプローラーでござる。船造りも新大陸を目指してでござる」
闇影の言葉にしぇりるは頷く。
そういやしぇりるは新大陸を目指して船造りしてたもんな。
漁師関連で海女と覚えてしまっていた。
「色々と私たちの噂があるのですね」
「ちなみに俺は?」
「萌えるネカマ、絆ちゃんって」
「あー! あー! 聞こえなーい!」
くっそ、奏姉さんの耳にも聞こえてんのかよ。
俺に萌えるとか、これも全て姉さんと紡の所為だろ!
「ま、絆の場合は釣りマスターとか良く言われてたわよ。当然のことながらね」
「前回の波での事が印象的だからでござるな」
「ええ。風の噂で地底湖でおかしいくらい長期滞在する神経をしてるから釣りを誘われても行かないのが身のためだとも噂されて、私に聞いてきた人がいたわよ」
「ど、どう答えたわけ?」
硝子や闇影の目が冷たい気がする。
「そりゃあ、あの子はコレと決めたらとんでもない根気を持ってるからやるでしょって答えといたわよ? 一月は地底湖生活しても不思議じゃないわってね」
「あ、実際は半分ですね」
硝子、ここでホッとするように言ってるけど姉さんには逆効果だから!
「様子見で十五日って所でしょ。波が終わったあとに地底湖で三十日釣りしてなさいって言ったらするでしょ、あなた」
「そ、そこまでやらないよ」
「嘘おっしゃい! あれだけのカニ籠を設置するあなたがしないはず無いわ」
「よく分かってるでござる」
「さすがは姉君という事だね」
闇影とロミナ! 納得しないでくれ!
「ま、釣りなんてあなたみたいな根気が無いと安易に出来る要素じゃないとは思ってるから感心してるわよ」
「ゲームを始めた当初とは全然違う結果になってるのは間違い無いよねー」
「そこそこ強くなったらお兄ちゃんを連れて底上げする手はずだったのに、お兄ちゃんが想像以上の速度で強くお金持ちになっちゃったもんね」
「ヌシニシンを釣って私たちを爆笑させた時が懐かしいわね」
う……随分と前の事を未だに覚えてるのかよ。
「空き缶商法を閃いたのがアンタって聞いたわよ。本当、上手くやったわよね」
「逆にお姉ちゃんを私たちが引き上げる事になっちゃったもんねー」
「うるさいわねー。アンタも絆の所に行くのが早すぎるわよ。もう少しゲーマーとしてのプライドが無いの?」
「勝ち馬に乗るのもゲーマーとして大事な事だよ、お姉ちゃん」
見栄を張らずに面白そうと俺達に合流した紡と、姉としての見栄と信じた方法を突き進んだ奏姉さんの違いか。




