親子
えっと、なんかこのメッセージ、覚えがある。
とはいえ微妙に表現が違う様な気もするんだ。
結構前だから細かい所は思い出せないな。
でもまあ、カルミラ島に閉じ込められた時、こんな感じだったはず。
しかし、『この者』って表現は初めてな気がするんだが……。
「どうしました?」
ロミナとチャットをしていると硝子が近寄って来た。
「ああ、ロミナがアルトの行方が知れなくてチャットを俺に送ってくれって言うから送ったらさ」
「え?」
硝子も俺に倣うようにアルトへと個人チャットを送った所でメッセージが帰って来たようだ。
「カルミラ島に閉じ込められていた絆さんにチャットを送った時と同じようなメッセージですね」
「だよな」
「やっぱり絆くん達もそうか……」
アルトの奴、もしかしてカルミラ島と同じくどこかへ呼び出されたのか?
この波が今にも起こるって忙しい時期に。
いや、呼んだ事のある俺が愚痴る資格は無いんだけどさ。
「ブロックリスト入りだとどうなるんだ?」
「私はブロックをする側でされた事は無いので確認したわけではないが、『現在この相手にチャットを送ることはできません』と出るそうだ」
無難なブロック対象への返事だよな。
だけど、俺が確認したアルトへのチャットは少し違う。
電源が切れているか、電波の届かない所にいます、だもんな。
みんなを片っ端からブロックして逃げたにしては色々とおかしいか。
そもそもゲームの世界だぞ。どこに逃げるんだよ。
「ちょっと彼の取引先に片っ端から連絡が来るんだけど誰も居場所が分かっていなくてね。私が代理で相手をしている所だよ」
商売人って所でロミナも鍛冶師だから少しは代理で出来るよな。
「ペックルカウンターはどうなってる?」
俺以外で個人所持設定をしていないギルド所属のペックルはペックルカウンターで指示が出せる。
個数が限られている代物で、アルトにとって大事なアイテムであったはずだ。
「アルトくんが持っていたのは城の倉庫に収められていたよ」
ペックルカウンターさえも手放してどこかに行った?
ますます不安になってくるぞ。
「一体どこに行った、というか呼び出されたのか……」
「おそらくどこかのイベントに巻き込まれたのだと思うがね」
「困りましたね……」
「事業に失敗したとかじゃないなら……まあロミナ、しばらく頼む」
「ああ、彼ほどじゃないし手広くする事はしないけど、代理でやっておくよ」
という訳でアルトと連絡を取ることが出来なくなった。
それをみんなに伝える。
「アルト殿は顔が広いでござるからな。フレンド登録も多かったのでござろう」
「腕を買われて開拓地召喚されたとなるとアルトさん、引く手数多だね」
まあなー……そういう意味では頼りになる商人様だな。
しかし次に会った時、アルトが俺と新しく呼んだ奴のどっちを利用するかで天秤に掛けたりするのだろうか?
……アルトの事だからどっちとも上手く付き合うだろうけど。
「こんな風にみんなも減って行ったのよね?」
奏姉さんが聞くとみんな頷く。
「拙者、無視されて散々だったでござるよ」
「噂は聞いたことあるわよー。闇影ちゃんの話をね。死神ってくどいくらい言ってる人がいたわ」
いたなー……硝子の元仲間達、あれから俺達の周辺じゃ見なくなったからどうなったか知らない。
「嘆かわしい方々です」
「思う所があるのは分かるわよ。まあ……何処かで反省してくれる事を祈るばかりよね」
「何はともあれしばらくアルトは居ないって事ね。とりあえず……俺達が出来るのは波を乗り越えられるようにするだけだな」
できる限りの準備……割と好きな事をずっとやっていたような気がするけど、準備は大分進んだ。
今までの狩り場の魔物を倒してエネルギーの上限突破を済ませて居るし、当面はやらなくて良いだろう。
むしろ波が来なければミカカゲのクエストに集中してたよな。
「明日か明後日には波が始まるわ。アルトが居ないけど、やっていくわよみんな!」
「おー!」
そんな訳でアルトが抜けたまま、俺達は準備を終えた。
翌日。
ディメンションウェーブが発生するフィールドで待機している。
「そろそろ始まりそうだよな」
「もうみんな馴れた感じでフィールドで待機してるね」
「物資運搬組も手慣れてるよな。ロミナ、アルトが居ないけどどうにかなりそうか?」
ロミナにチャットを飛ばして尋ねる。
「問題無いよ。ペックル達にも任せているからね。しぇりるくんがペックルカウンターを一つ使いたがっていたから渡してある。何かあったら彼女か絆くん、君が物資運搬でフィールドへの搬入をしたまえ」
「はいはい」
俺としぇりるがアルトがしていた物資搬入の合図班な訳ね。
「みんな強いのは分かってるけど、ちゃんと連携して行くのよ? 今までは装備とかLvのごり押しで行けたけど今度は失敗だってあり得るんだからね」
奏姉さんの注意に俺達は頷く。
まあ……一番恐いのは俺と硝子と闇影だもんな。
スピリットは媒介石のシールドエネルギーを超過するとどんどんエネルギーが減っていって、弱体化して行く。
下手にエネルギーが無くなって死んだら取り戻すのに大幅に時間が掛かる。
少なくとも戦線復帰は不可能、物資補充とかが関の山になる。
幾らやりがいのあるメインイベントとは言っても後先考えずに突撃して、後に響いたら目も当てられない。
強力な分、死んだら恐いのがスピリットだ。
連携技なんて概念もある訳だし、敵の攻撃も苛烈になるのは想像に容易い。
「今回も良い順位を狙うでござるよ」
「そうだな」
前回のディメンションウェーブでは1位を取れたけど今回も同様の結果になるなんて自惚れてはいけない。
現に魔王軍侵攻イベントで俺は思ったよりも活躍出来なかった。
今度こそとは思うけどなんだかんだ硝子や闇影みたいなプレイヤースキルは無いからな。
「闇影ちゃんは何時も良い成績を残すわよね。私も羨ましいと思うわ」
……ブレイブペックル着ぐるみを着用している奏姉さんが抜かしている。
周辺にいるプレイヤー達が奇異な目を向けてるぞ。
「親子ブレイブペックルだ」
「島主パーティー、一体何処で二匹目のブレイブペックル出したんだ? というかでかい」
「ちげーって、アレ、ペックル着ぐるみの派生装備だ。強化のキー素材は何だろ? 使い込んだ盾が素材だってのは分かってるけど他は知らないんだよな」
「カッパッパ!」
ネタに走ったプレイヤーの一部に河童着ぐるみを着用している奴が混じっている。
一部販売した着ぐるみがプレイヤーを汚染し始めている。
これが標準になると非常にシュールな光景になるぞ。
ネトゲではよくある光景だけどさ。
ちなみに奏姉さんは宣言通りスパイクシールドを装備している。
装備はカニ装備の盾でクラブスパイクシールドというらしい。
「そ、そうでござるか」
闇影が物怖じしてる。人見知りするという自称は相変わらずなんだよな。
「波のランキングって耐えるとかも貢献度あがるの?」
「そりゃあ上がるわよ。まあ、さすがに今の私じゃ1番は難しいとは思ってるわよ。新入りだし今回は捨てて次こそトップを狙うだけよ」
計画的な運用を目的にしてるのね。
「よく闇影ちゃんは話題になっていたのよねー波の戦績で必ずトップ帯に居るアタッカーだもん。魔法使い系はみんな一度は真似をしようとするのよね」
「この辺りは模倣と研究をするのがゲーマーの性だよね」
「その割に闇影みたいなドレイン忍者って波での戦闘で見ない気がするけど、どうなの?」
奏姉さんは臨時パーティーとか色々とやっていた訳だから詳しそう。
アルトが情報屋をしていたけど戦闘スタイルに関しては俺達も聞かなかったから知らない。




