ジビエハンバーグ
翌日。
朝、姉さんが俺達の所で厄介になると決まった後、俺は自室で化石のクリーニングをしてから寝た。
全く、つくづく第二都市で釣りをする機会が無い。
一応硝子と一緒に俺が戦って居ない魔物を探して倒して行くって事で決まってはいるんだけどな。
で、朝起きた所で奏姉さんが俺に声を掛けてきて厨房で調理する事になった。
「本当……絆の所は海鮮食材は沢山あるわね。蟹とか山の様にあるし」
「まあ……」
「みんな飽きてるみたいだし、私も昨日は蟹をコレでもかって食べていたから今日は肉とか食べたいわね」
「朝から重くない?」
「ゲームなんだからそんなの気にしてどうするのよ」
こういう所って気持ち的な問題があるんじゃないのか?
「城の食料庫にある食材は……っと肉もあるじゃない」
「ああ、狩猟で毎日少しずつ狩っている奴な。後は魔物とか解体して得た土産とか……」
「じゃあこの辺りで作るのが無難ね。安直にステーキってのも良いけど、今日は絆に連携技……料理関連でやってみようかしらね」
「料理の連携技ねー」
一体どうやって料理で連携ってやるんだろうか?
ロミナはどうやら工房でやっているらしいけど、そんなの知らなかった。
「技能によるけど、料理の場合は当然だけど料理技能が高い人物が必要ね。今回は私と絆、あなたね。話によるとここじゃあなたが料理担当で他は外注なんでしょ?」
「硝子達も少しは持ってるはずだけどな」
蟹の加工業務で料理に関する熟練度は稼いで居るとは思う。
「ちょっと技能系の連携をするのに人手が足りないわね……ペックルで代用したとしてギリギリかしらね」
「一応ブレイブペックルが料理能力が高いな。他に料理が得意なコック帽子装備のペックルで良いか?」
「ペックルで代用すると相応に出来る代物が下がるけど、今回は絆がやり方を掴む形で良いかしらね」
奏姉さんは厨房で肉をドンとまな板において包丁を手慣れた感じで取り出して握る。
「連携技を使う場合は呼吸を合わせないと行けないわ。絆、陣形を組むのを意識して私の指定した所に立って調理器具を持ちなさい」
「はいはい」
「後はペックル達も同様よ」
奏姉さんに言われるまま、俺はペックル達を厨房に配置する。
ブレイブペックルは鍋の前に、コック帽子は皮剥きと担当を決めるかのような配置だ。
「それじゃ料理をするから、絆……私に合わせてミニゲームに参加するのよ」
そう言って奏姉さんは肉を前に料理技能を使用させてミニゲームモードに突入した。
合わせて俺も料理技能を起動させると視界にCooperation! って表示が出て姉さんの作成しようとしている作業の一部に参加する事になった。
姉さんが大きな肉を切り分けたかと思うと、器用に俺の前に切り分けた肉を出したのでその肉を……挽肉にすれば良いみたいだ。
「絆、手抜きしてミートチョッパーとか持ち出しちゃダメよ。ちゃんと包丁で挽肉にするように」
「わかってるよ」
手持ちの包丁……向いているのは無難に魔法鉄の熱牛刀で俺は肉を細かく切って行くミニゲームに集中する。
その間に姉さんは肉を別の形に切り分けてブレイブペックルやコック帽子ペックルに指示を出して行く。
「出来たよ」
「ええ、作業を継続しなさいよ」
無事挽肉にする作業をしていると姉さんは挽肉を受け取りボウルに投入して卵に塩こしょうを入れてこね始める。
その間に……切り分けた野菜と肉をブレイブペックルとコック帽子ペックルが煮込んで行く……火の通りが早いな。
「こっちは簡易のルーも用意されていて過程を省略出来て良いわよね。実にゲームらしいわね。絆」
「ま、まあ……」
ブレイブペックルに煮させている鍋に姉さんはインスタントらしきルーを投入する。
醤油とか調味料はゲーム内で購入出来るからこう言うのもあるんだよな。
匂いからしてカレーじゃないな。色は焦げ茶色なんだけど……ビーフシチューかな?
「調合技能持ちが居るともっと精度があげれるそうなんだけどね」
「随分と戦闘一直線だったのに詳しいんだな」
「又聞きな所も多いわよ。私個人で出来る環境がなかったってだけで」
っと手頃に肉を捏ねた後に小判型にした種を熱したフライパンに入れてフランベしながら火を通して蓋をする。
その間にビーフシチューらしき料理の鍋を二つに分け、一つは具がない形で煮込んでいる。
こりゃあ相当アレンジ効かせたレシピで作ってるな。
姉さんの料理技能……結構高めのようだ。
「それだけ料理出来る位にはスキルLv上げてるのに何でカニバイキングで食べてたんだよ」
「うるさいわね! 自分で作るよりも楽だったからよ! 良いからアンタは鍋を煮込んで目を離さないようにしなさいよ。それと余計な物を投入したら殺すわよ」
俺のクレームを怒鳴って言い返した姉さんだったけどその手はまるで止まらない。
く……俺がここで具材に魚介類を入れようとしていたのがバレた。
「なんか凄く良い匂いがしますね」
「良い匂いーお腹が減っちゃうね」
「今までの料理も悪く無かったでござるが匂いだけで凄く良いモノが出てくる気がするでござる」
匂いに釣られて硝子と紡、闇影が城の食堂にやってきた。
のぞき込むとロミナやアルトも既に待っているようだ。
しぇりるは……相変わらず工房に籠りきりか、後で差し入れをするとしよう。
やがて……。
「はい完成。絆、これが連携技で作られた料理よ」
とん……っと、出来上がった料理の説明が俺の視界に表示される。
上級・デミグラスジビエハンバーグ+9
野生の肉を職人達が力を合わせて調理した珠玉の逸品。デミグラスソースが食材の味を引き立て食した物に活力を与える。
食事効果 HP60%回復(クールタイム6時間) 腕力向上120 体力向上1000
く……なんか眩しくて目が眩みそうな料理が出てきやがった。
姉さんめ、ここぞとばかりに俺に自分こそが凄いとアピールしてくる。
昨日までホームレスをしていた癖に!
「他にビーフシチューも作ったから良ければ食べて頂戴。ご飯もパンも用意してるわよ」
と、コック帽子ペックルが米とパンの両方を持ってきてみんなの前に置いた。
「お姉ちゃん凄い! 回復量も凄いね! 狩りをしている時の回復剤に使えそう!」
「クールタイムが問題なのよね。丁度お腹が減ってないと回復効果は見込めないし、回復目当てにすると今度は食事効果が無い状態になりかねないし」
ゲーマーの性だなぁ。
食事効果は効果時間中は背伸びが出来るので利用しない手はない。回復目当てにも使えそうだけど、って悩みだ。
「絆殿の料理も中々悪くはないと思っていたでござるが、これは凄いでござる。奏殿の方が何倍も料理技能が高いのでござるか?」
「私一人で出来た事じゃ無くてこれが連携技って事ね。まあ私も本業の人には劣るわ。絆や参加させたペックルの技能のお陰ね」
俺も一応奏姉さんの補佐的な感覚で料理を手伝って居たもんな。
「ロミナさんクラスになると一人でもこの辺りは出来たりするけど、連携技を使うと安易にここまで出来るって話な訳、それじゃ頂こうかしらね」
「わーい!」
「いただきまーす!」
「いただきます」
と、俺達は出来上がった料理を口に入れる。
おお……俺の作った料理よりも数倍、深みがあって味わい深い。
米が幾らでも入りそうな位、ハンバーグから肉汁があふれてくるし、デミグラスソースの味もコクがあるように感じる。




