姉加入
「職人である私が断言しよう。カトラスが絶対では無い。もうカトラスに並ぶ装備が既に入手出来る段階にある。君の周囲は視野が狭すぎるのではないかね?」
「どっちにしてもそんな面倒な連中を見返すとか馬鹿な事を考えて無いで、一緒に来るように。しばらくは養生して臨公広場の使用は禁止」
姉さんって変な所で凝り性だからゲーム終了まであんなホームレス生活をやりかねない。
ゲームって言うのは楽しんでなんぼだ。
ゲームは遊びじゃないんだよ! なんてのに付き合っていたら馬鹿を見る。
「装備は私が見繕ってあげよう。城の倉庫に大量に作ってある品がある」
「そんな……悪いわよ。絆や紡ならともかく……」
ここに来て遠慮を姉さんはしているけど、その対象に俺達を入れないのはどうなんだ?
「じゃあ装備の支給代金として僕が雇用しよう。しばらく僕の指示に従ってくれれば良い。なーに、魔物と戦えなんて言わないから安心してくれたまえ。なんと罠に関する技能が大きく伸びるし、絆くんほどじゃないが釣り技能も上がる。給金は……」
と、アルトが姉さんに交渉を持ちかけている。
何をさせる気だ?
いや、アルトがさせようとしている仕事が何であるのかこの場にいる連中はみんな揃って理解した。
「そ、そんなにくれるの? それならLv上げが滞るけど……少しの間なら……」
「奏さん! アルトさんの誘惑に乗ってはいけません」
「お姉ちゃん、タダで貰っちゃダメだよ。しっかりと働いて装備を買わなきゃ!」
硝子と紡がここで反対の事を言ってきた。
硝子は素直に良心による説得で紡は仲間を求めてだな。
なんて酷い妹なんだ。
「アルト殿の仕事は素晴らしいでござるよ。拙者、その仕事のお陰でこの前のイベントで大活躍したでござる。臨公では得られない貴重な経験値が手に入るでござる」
目が曇った闇影までもが紡側に立っている。
お前もか、闇影。
そんなにも仲間が欲しいのかお前達は!
「闇影さんも嘘ではないけど推奨しちゃいけませんよ。奏さんは大変な生活をしていたんですよ!」
「まあ、奏姉さんが面倒なプライドがあって甘えられないようだし、死の商人に一度痛い目をみせられてからの方がやりやすくなるんじゃない?」
なんか面倒になってきたし、奏姉さんが納得する形で一度労働させてからで良いか。
本来姉さんは実際に試してみて検証するタイプのプレイヤーでもあるしな。
「な、なんかよくわからないけどわかったわ。どんな仕事でもやってやるわよ!」
「彼女がそれで納得するというのなら私は止めないがね。どちらにしても君を利用してカトラスを作ろうとしている職人とは一度距離を取る様に」
ロミナが念押しをしている。
まあ、姉さんを使って過剰品、技術の練習台にするような奴はな。
金は掛かるけど腕は良いロミナと格安でやってくれるけど腕は信用がおけない職人だったらな。
俺の身内でこれから迎え入れるって事でロミナも快く武具を作ってくれるのだから良いよな。
「奏くんの装備はシンプルに剣だったね」
「ええ、それと盾を使っているわよ」
って奏姉さんは自身の装備を見せる。
辛うじて過剰されているカニ装備という格安汎用装備一覧って感じだ。
剣も供給過多で投げ売りとなっている品の過剰品で盾を見た所でロミナは声を漏らした。
「ふむ……盾は唯一愛用しているようだね。これなら強化に使えそうだ。正統派のタンクを彼女にして貰えば戦いも安定するだろうね」
「正統派?」
硝子がポツリと呟く、どうしたんだ?
「絆くんが使役しているブレイブペックルはともかく、硝子くんのスタイルは癖がとても強いのでね。少人数戦闘なら良いが数に来られると厄介だろう?」
まあ、硝子って敵の攻撃を文字通り弾いて無効化して耐えるスタイルで今まで戦って来たもんな。
いざって時は俺や硝子、闇影が文字通りスピリットの性質をそのままにダメージを受けてごり押ししていたんだし。
最近じゃブレイブペックルに耐えさせていたけど、ブレイブペックルを長時間運用は出来ない。
「注意を引きつけるスキルは持ってるわよ。弾くのもね」
奏姉さんはその点で言えば確かに正統派か。
曲芸回避じゃなく、しっかりと前衛を任せられる頼れる盾って事で。
なんだかんだ安定はして居るんだけどな。
さて……ここで念のために確認して置いた方が良いよな。
「姉さん、他に何か手に職みたいなスキルで育ててるのある?」
「そうね……採取と料理技能のLvが高いかしらね」
「……採取?」
「ええ、回復薬の節約用に薬草採取してたら上がったのよ。料理は自炊もして食費を浮かせられるからね。元々得意だから良いでしょ?」
まあ、我が家で料理が出来ないのは紡だけで基本は姉さんがやっていたからゲーム内でもなんとなくで料理はしていたって事で良さそうだな。
「魚料理以外が出来るでござるか?」
なんか闇影の目が輝いている。
魚ばかりで悪かったな。
「出来るけど……絆? あなた彼女達に毎日何を食べさせて居たのかしら?」
「何って釣った魚を料理して振る舞っていたけど?」
「お姉ちゃん、バリエーションは豊富だったからそこまで飽きる程は食べてないよー」
「ほぼ毎日魚料理でしたからね……」
硝子までもがなんか不満がありそうな同意をしている?
何か問題があるか?
「たまには魚以外の料理も食べたくなってくる頃だよね」
「はぁ……しょうがないわね。明日は私が作るわよ。後で食材を見せるのよ。それと絆、料理が出来るなら一緒に料理するわよ。連携技が出来るから手伝いなさい」
「あ、姉さん連携技知ってるんだ? 俺達よくわからなくて使ってないんだよね」
そう言うとなんか姉さんが呆れた様に頭に手を当てる。
「どうしてこんなにも成功しているアンタが知らないのよ。情報の偏りを指摘されたその場で言い返したくなるわ」
俺はアルトとロミナの方へ顔を向ける。
「鍛冶は職人仲間やペックルを指揮すれば連携技が出来るのでそこまで気にはしなかったのだが……」
「聞かれなかったし、君達は出来るだろうと思っていたよ?」
わかっているつもりで何もわかっていなかったって言いたいのか?
「固定パーティーを組んでいると連携技の発動率が上がるって話があるのよ。戦闘だと魔法とスキルのコンビネーションね」
「へー」
システムとして知ってはいたけど具体的な発動方法はよくわかってなかったなぁ。
「戦闘スキルの方は今の所発動に必要な技能が高くて数が限られて居るわね。あなたたちの武器種は……」
「扇子です」
「解体武器と釣り、それと弓」
「魔法でござる」
「鎌だって知ってるよね」
しぇりるは工房に籠っているのでここでは答えられないけど銛だな。
「戦闘なら……闇影ちゃん」
「何でござる?」
「詠唱を終えた所で即座に発動させず、仲間がスキルを使う呼吸に合わせて発動させるの。ターゲットサークルに仲間の攻撃を重ねる様にね。みんなの大技が対象だと思うわ。咄嗟に発動させるのは難しいけどね」
魔王四天王戦の時にみんながそれらしいスキルをあんまり使って居るように見えなかったのは上手く発動させられなかったってのがあったのか。
罠塗れで戦いづらかったみたいだったもんなー。個人プレイでもどうにかなったし。
大技……クレーバーとかは基礎スキルだから対象じゃないって事か。
「フィーバールアーが闇影の魔法で連携技になるのか!?」
「絆殿、よりによってそのスキルでござるか!?」
「確かに気になりますね」
闇影のドレインでフィーバールアーがどうなるんだ?
……吸収するフィーバールアー?
「対象のスキルなのかしら?」
「うーん……」
どうなんだろうか? 出来たら良いと思うけど。
「そもそもチャージ系のスキルが大半よ? じゃないと連携し辛いでしょ?」
「となると俺の場合はブラッドフラワーか。硝子の場合は……」
「基礎スキルでは無く大技となると輪舞零ノ型・雪月花でしょうかね」
「私の場合は死の舞踏かなー?」
なるほど、その辺りが対象な訳ね。
「そもそも絆、戦闘で釣りってどうなのよ?」
「使いこなせてますよね」
「ルアーが良い感じに命中しているみたいだよお姉ちゃん」
「よく魔物の口に引っかけて釣り上げるでござる」
「……絆、あなたは相変わらずマイペースにやっているのね」
そりゃあ俺のソウルスタイルだからなぁ。
「とにかく、明日は料理の連携技を絆、やるわよ」
「えー……」
「あなただけじゃ作成出来ない魚料理を作れるわよ」
「よし、がんばるぞー!」
なんかやる気が出てきたー!
「現金ですね」
「そうでござるな」
「お兄ちゃんらしいね」
明日から姉さんと一緒にみんなに料理を作ることになるのか。
スキルが被っても問題無いって事なんだなー。
俺の方が魚料理の経験は豊富だと思うけど!
「まあ、これから奏姉さんをよろしく頼むよ」
「ええ、奏さん。絆さんにはとてもよくして頂いて居ます。どうぞよろしくお願いしますね」
「わかったわ。みんな。どれくらい一緒に行動するか分からないけど、これからよろしく頼むわね」
こうして姉さんが俺達のギルドに入る事になるのだった。




