パーティー結成
「これから自分の事はダークシャドウと呼ぶでござる」
常闇ノ森から第二都市に帰還して第一声、闇影がそんな事を言い出した。
「はぁ?」
思わず、俺はそう返していた。
こいつは一体何を言っているんだ?
結局硝子の勧めで闇影はパーティーに加わる事になった。
その為なのだろう。かなりテンションが高い。
これもハイテンションがなせる技。典型的な中二病を発揮しているに違いない。
「わかりました、ダークシャドウさん」
俺は真顔でそう返した硝子へと視線を向ける。
なんていうか硝子って冗談とか通じなさそうだよな。
「わかったよ、ダークシャドウ。これから頼むぞ、ダークシャドウ」
「……」
「どうした、ダークシャドウ。何故黙っているんだ、ダークシャドウ。返事をしてくれ、ダークシャドウ。何か気に障ったのか、ダークシャドウ」
まくし立てる様に連呼すると闇影は慌てて訂正する。
「じょ、冗談でござるよ。普通に呼んでくだされ」
「そうか、じゃあこれからは闇子と呼ぶ事にするよ」
「では、私も闇子さんで」
「子はどこから出てきたのでござる!?」
そんなのお前が女キャラクターだったというギャップからだよ。とは言わない。
全身黒装束に靡く銀色の髪。
なんていうか、普通にかっこいいじゃないか。
しかも物理的な忍者ではなく、忍法を意識したジャパニメーション的忍者。
少々イロモノ感はあるが、俺は好きだぞ。
「そういや、さっきは言わなかったけど、パーティー組むにしても毎時間マイナス3000を補う程の狩りを期待するなよ? 俺は解体武器だし、硝子は扇子なんだから」
「問題ないでござる。既にドレインのランクは下げたでござる」
「おい、自分のアイデンティティ失ってるぞ」
「もちろん自分はこれからもドレイン一筋で行くでござる。しかし、主君である絆殿に仕える身としては絆殿の役に立てる身になるでござるよ」
「なんだって?」
なんか突然、主君だのなんだの言われたんだが。
ていうか、こいつがコミュニケーション障害なの、なんとなく分かるわ。
自分の中でしか分からない話を突然言い出す。
それを察する方としては少々厳しいが、一度パーティーを組むと言った以上、問題がなければ一緒にいる事になる。
「そういえば、俺達って臨時パーティーに近い感じだったはずだけど、この流れは固定パーティーで行くって事でOKなのか?」
「絆さんがよろしければ私、函庭硝子はこれからも共に参りたいと考えています。どうでしょうか? 私達三人は皆、魂人です。少々の問題でしたら他種族の方より、よろしいと思うのですが」
「自分は絆殿と函庭殿に救われた身、お二方の影となるのが使命と心得ているでござる」
二人して似た様な話を、小難しい言い方で捲くし立ててくる。
ていうか、なんで二人とも和風っぽいんだよ。
「なぁ。俺が空気読めないだけなのかもしれないが、お前等って知り合いだったりしないか? 最初から仕組まれていた様に見えるのは俺だけかな?」
ほんの一日でスピリットが二人もパーティーに加わった。
どちらも何故か個性的なロールプレイとスキル構成。
いや、俺がまるで違うとは言わないが、これからやっていくのに一抹の不安が残る。
もちろん『良い意味』での不安だが。
「絆さんの言葉通り、仕組まれていた様に魂人の私達が集まりましたものね。まるで運命に呼ばれる様でした」
いや、運命って……ちょっと恥ずかしいぞ。
まあパーティーメンバー全員がスピリットなのは少し優越感に似た嬉しさがあるけどさ。
「全体人口では少ないでござるが、絶滅危惧種という程でもござらんよ」
「へぇ」
「自分は今までドレインを繰り返す日々を送っていたでござる。故に各地を転々としていたでござるが狩り場で同郷の者を何度も目撃しているでござる」
「そうなんですか? 私の周りではあまりお見かけしなかったので、てっきりとても少ない種族なのかと考えていました」
全ての人がネットの裏情報に詳しいとは限らないしな。
その中からスピリットを選んでしまった奴等がいたとしても不思議はない。
中には弱い種族だからと選ぶ奴だっている。それにスピリットの、この幽霊的な半透明感をかっこいいと思う奴は少なからずいると思う。
無論、能力だけで物事を語る奴も世の中には沢山いるが。
しかし闇影の近くで偶に見かけて、前線組の硝子の所では見かけないと聞くだけで、なんとなくスピリットの世間的状況が分かるな。
ちなみに俺が昨日までいた第一都市の海沿いでは極々稀に見かける程度だ。
「まあスピリット同士気兼ねなく付き合えるから良しとして、これからどうする?」
「これからとは?」
「う~ん、この後寝るか続けるかって意味で聞いたんだが、パーティーの今後でもいいな」
既に夜は晩い。
第二都市は個人間で持ち寄った明かりが灯され、夜景を映している。しかし一般的な就寝時間と言えば大多数が頷く0時を回っていた。
「私としては、どちらでもかまいませんよ。早寝早起きと言いますし明日がんばるのも良いと思います。後者の方は私個人では以前と同じ程度の強さには戻したいですね」
「自分は今まで夜間に行動していたので5時位まででござれば問題ないでござる。行動指針の方は特に要望はござらぬので絆殿にお任せするでござる」
そういう意見が一番困るんだよな。
というか、何故俺が決める事になっている。
他のネットゲームではギルドマスターとかやった事あるけど、それもギルドスキル目当ての弱小ギルドだしな。
まあ俺も目的とかある訳じゃないし、硝子の目標に重点を置きつつ行動する感じか。
「ちなみに硝子、前はエネルギーどんなもんだったんだ?」
「5万程でしょうか」
「す、凄いでござる!」
「これでも硝子は元々前線組だったらしいぜ」
「なるほど、函庭殿は我等が師でござったか」
「そ、そんな、師と呼ばれる程の実力ではありませんよ」
いや、プレイヤースキル的に十分だと思うぞ。
洞窟にハメていたとはいえ、時折飛んでくる、当ったら唯ではすまない攻撃をしっかりと受け流していたからな。あれはきっと普通に戦っても防いでいたはずだ。
そもそも潜伏スキルで隠れていた闇影を当然の様に見つけたとか。
こう言わせてもらいますよ。
硝子さんマジぱねぇっす。
いや、心の中でしか言わないが。
もちろんステータス的に勝利に持っていけたかは別だ。仲間としての贔屓も入っているが硝子のプレイヤースキルが高いのは今更口にするまでもない。
「じゃあ狩り場とか硝子は知っているだろうし、三人で行ける場所を選んで進むって感じでどうだ?」
「異論はございません。私の意見を汲み取っていただいでありがとうございます」
「自分も問題ないでござる。むしろ沢山の魂を早く吸収したいでござる」
「それじゃあ決まりだな」
ともあれ、ここに俺達三人のスピリットパーティーが結成した。
どうでも良い補足だが、この後俺秘蔵の最高級ニシン食材を使った飯を三人で食った。