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固定観念

 城の広間にある椅子に姉さんを腰掛けさせる。ああ、先に入浴とかはして貰ったぞ。

 どうもして居なかったそうで、城にある風呂に入って貰った。

 かなりさっぱりしたようだ。

 しかし……奏姉さんの装備品を確認するんだけど……前見た時より質が落ちてないか?

 魔王軍侵攻の時より悪くなってるって……。


「ほう……絆くんの姉君か」


 城に戻った所で、休んでいたロミナと合流した。


「あ、どうも……」


 ロミナは前線組の装備をよく作って居る有名プレイヤーなので姉さんとも顔見知りのようだ。


「最近は店に来ないようだからどうしたのかと思って居たよ」

「え、えっと……」


 姉さんがロミナの問いに返答に困るように顔を逸らす。

 何か後ろめたい事があるって態度だな。


「あれかね? 絆くんの身内だから優遇などをされるのを嫌がって他の鍛冶師辺りに鞍替えをしたという所かね? 私は気にしないぞ?」

「ロミナ、姉さんはそんな遠慮するような人じゃないぞ。紡ほど遠慮無しじゃないし、面子は気にするけどな」


 そんな義理立てするような真面目な人だったらこんな事態になってないだろう。


「大方、ロミナの店が高いとか予約が多くて手間が掛かるとか、しょうもない理由で来なくなったんだろ。それと極貧生活している所から考えて俺達に通報されるのがわかっていたって所か」

「う……」


 図星か。

 複数の理由が絡まってって奴だ。


「絆くん達にバレないようにとな?」

「見栄っ張りな姉なんでね。現場を掴んでここに連行したんだよ。それで姉さん、なんであんな貧乏生活をしてたわけ? こう……姉さんもずっと遊ぶフレンドがいるって感じだったけどどうしたんだ?」


 現在のディメンションウェーブではギルドがあるのは元よりマイホームなんかもあるわけで、友人と冒険や魔物を倒す楽しい日々を過ごしているプレイーヤーは多い。

 姉さんも紡と同じく一緒に遊んでいた友人がいたはずだ。

 すると姉さんは拳を握りしめて震え始めた。


「ああもう……わかったわよ。アイツらはね。私を戦力外だって事で狩りに誘ってくれなくなったのよ。装備の更新が遅れただけで!」

「競争意識の強いプレイヤーだったという事ですか?」

「元々はリーダーをしていた人が色々と管理してくれていて、私もやりたい事をやっていたのよ。だけど何かクエストを達成した際に連絡が取れなくなって、別の人が引き継いだ辺りからおかしくなり始めてね」

「……聞き覚えのある話だね」


 この場にいるみんなが俺を凝視する。

 はいはい。

 カルミラ島の開拓クエストみたいにリーダー格の人物が行方知れずになって連絡出来なくなったのね。

 ……となると、その人は今、カルミラ島みたいな特殊な状況にいるのかもしれないな。


「で、後任の奴が向上心の塊で周囲に気を配らないタイプだったって事。そのシワ寄せを姉さんを含めた複数のプレイヤーが被って、競争に負けた姉さんは縁が遠くなった、と」


 なんだかんだMMOタイプのゲームは一人で遊ぶとなるとハードルが高い傾向にあるんだよな。

 多くの場合、パーティープレイが推奨される。

 その為に臨公広場などを利用する訳だけど、そこでも最低ラインの強さを求められる。


「アイツら私の攻撃力が足りないって馬鹿にして装備自慢をしてくるのよ。だから私もアイツらに負けない装備を手に入れれば別のギルドに入れると思って……」

「それで何してたの?」

「そ、装備強化を……」


 あ、これは姉さん独特のごまかしをする際の誤解を招く言い方だな。

 ロミナは何をしていたのか察したようだ。


「なるほど、過剰強化に手を出して破産したんだな?」

「そ、そうよ! 悪い!? 装備が強く無いと稼げないでしょ! 稼ぐために装備を強化しないといけないでしょ」

「装備が弱いから稼げない。稼げないから装備を強化出来ない。強い所に行けないから稼げないしLvも上がりが悪くなる……っと」

「ネットゲームあるあるでござるな」

「このゲームは戦うだけが全てじゃないんだけどねー。お金が欲しいならアルバイトも今じゃあるし」


 まあ、戦闘なんて毛頭するつもりは無いってプレイスタイルをアルトはしているもんな。

 文字通り食うに困らず商人界隈で一目置かれる存在になっている。

 ロミナは鍛冶はトッププレイヤーだけど戦闘もそこそこ出来るもんな。

 現状、装備の影響が強いのは間違いないっぽい。


「だから装備の過剰強化に挑戦し失敗……爪に火を灯す生活をして金をかき集めて過剰を繰り返していたと」

「現状の状況でそこまでこだわる必要はあるのかね?」


 過剰強化担当のロミナがそれを言ったら姉さんの立つ瀬は無いな。


「絆くんの姉君にそんなデマを押しつけた職人がいるとは……とんだ不届き者だぞ」

「職人が原因とは限らないぞ。姉さんを馬鹿にしたプレイヤーが言った装備以上の品って固定観念が出来ているって可能性も高い」

「お姉ちゃん、何が欲しかったの?」


 俺達の質問に奏姉さんは顔を逸らしてモゴモゴと小さく呟いた。


「え? ハーベンブルグのカトラス?」

「……」


 ロミナが露骨に額に手を当てて……なんか若干青筋つけてないか?


「絆くん、紡くん。君達の持っている武器を彼女に見せてやってくれないか?」

「あ、ああ……」

「わかったよ、ロミナちゃん」


 俺と紡は奏姉さんに青鮫の冷凍包丁<盗賊の罪人>と使っている鎌をとりあえずとばかりに差し出して確認させる。


「ちょっと何よこれ! 装備自慢のつもり!? そりゃあアンタ達は匹敵する位の装備を持ってるでしょうよ!」

「奏くん、君は大きな勘違いをしている。絆くんの装備は確かに希少素材を元に作っているが過剰強化など全くしていないのだよ。紡くんの装備もそこまで手が込んでいる品では無い」


 確かに紡って装備品の類いの作成はそこまで手の込んでいる品は少ない。

 むしろ俺はワンオフ装備みたいなのばかりだけど、それにしたってほぼロミナに作って貰った品ばかりだ。


「絆くん達は解体で得られた素材で作ったものばかりでボスドロップでは無い。君が狙っている海賊船長のサーベルからのカトラスの方が特殊な品なのだよ」

「お姉ちゃん、ぶっちゃけカトラスって次のアプデできっと型落ちする装備だよ? 結局は何処かで再強化する事になる程度で、ゲームの最強装備じゃないよ」

「あの程度で打ち止め扱いにされると職人プレイヤーとしてのプライドを傷つけられてしまうよ」


 ロミナも武器に関する所はこだわる訳ね。


「次のアプデで良いのが来ると思って生活を維持しつつ貯金するくらいが丁度良いと思う」


 これもオンラインゲームあるあるの話だ。

 現在最強の装備が翌週のアプデで型落ちする、なんてな。

 装備じゃなくキャラだったりして、そこはゲームによって違う訳だけどさ。


「けどみんなアレが凄いって言ってるじゃない。アレが今後の人権になるって話よ。カニ装備は頭打ちになるって」

「何処の誰がそんなデマを広げているのやら……悪徳商人かな?」


 このゲームで最も悪徳な商人が何か抜かしている。


「カトラスだけが全てじゃないよ、奏くん。君が長く愛用した装備をもっと大切にしてくれたまえ……でないと装備が泣いてしまうよ」


 姉さん、どうやら周囲のプレイヤーに恵まれなかったみたいだな。

 情報がなんか凄く狭い。

 もっと視野を広げないとダメじゃないか。

 おそらく件のリーダーをやっていたプレイヤーの舵取りが上手かったのかな?


「なんかロミナが本当の職人みたいな事を言ってる」

「間違った事など私は言っていないぞ? 愛用した装備を強化する事でより良い効果が付くのだからな」


 と、ロミナは試作品で作ったブルーシャークの短剣を奏に差し出す。


「そもそもだね。新しく行ける所で……絆くんが持ってきた材料の一部でこんな代物を私は既に作っているのだよ?」

「こ、これ……カトラスには劣るけど……」


 奏姉さんも性能の高さが一目で分かったっぽい。

 材料集めはちょっと面倒だけど、ボスドロップと比べれば簡単に作れる装備だもんな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 絆が全ての四体揃えると思ってたのに予想が外れた
[一言] 長女なのに
[一言] 硝子とデスゲームごっこやっていた紡の元PTと今回 追放が流行っているのだろうか…?
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