必要最低限のマナー
「硝子さん、今夜ヌシ釣ったって話だもんね」
「おや、絆くんは元より硝子くんも釣りにハマって来ているのかい?」
「否定はしませんよ。中々楽しめています。ただ……絆さんには敵わないとは思っていますけどね」
「割と硝子は釣り運良いと思うぞ」
ヌシを引っかける運で言えば硝子も負けてないと思う。
俺より先にヌシと遭遇する事が多いし。
何より敵わないというよりは、スキル構成的に俺の方は釣り特化だしな。
「それで、アイツらは戦闘特化でLv上げに励んでいるカニ装備集団って事で良いんだな?」
後衛とかはカルミラ島の鉱石装備などで身を固めているっぽい。
なんて言うか示し合わせた装備をしている所から、どこかの部隊基地にも見えなくない。
「そう言ってあげないでくれよ。彼らも強さとレアドロップ……一攫千金を狙って日々鍛錬の続けている者達で、彼等ががんばっているからこそ僕達はお金を得られるんだ」
まあ、消費者って意味だと良い客なのか?
通常ドロップだって沢山必要とする素材は多いからな。
いっぱいある宿に泊まらず、持ち家を持たずにこんな所でキャンプをしている連中だけどさ。
何だろう……こう、浮浪者のたまり場って感じに見えてきてしまった。
これからはこんな野良パーティー会場を純粋な気持ちで見れなくなってしまうかもしれない。
いや……これはこれで非日常っぽいし、ゲームを楽しんでいると言えるのか?
テント張ってるし、キャンプ的な楽しさがある可能性もある。
「拙者、コミュ障でござるから近寄らない場所でござる」
ああ、そうだな。闇影は近寄らないだろうさ。
知らない人には話をしたがらないもんな。
そんな奴には無縁の場所なのは間違い無い。
ソロプレイヤーは来ないだろうなー……。
「前回の魔王軍侵攻イベントで人との繋がりなどが出来そうですけど……」
「常時一期一会だったり、ここから固定パーティーが出来たりギルドを作っていたりするんだけどね」
第二の人生を楽しむこのゲームでは持ち家がシステム的にある。
人によってはもう持ち家で過ごしているらしい。
カルミラ島に限らず、第一にも第二にも家はあるし、何なら一部の休憩マップにも少数だが設置可能なんだとか。
「カルミラ島の家だってさ……こんなキャンプ地で過ごさないといけない理由がそこまであるのか?」
「まあ……酒場やカニバイキング会場でパーティー募集している人もいるね。食事をしながらパーティー募集だ。あっちはあっちで楽しんでいるプレイヤーが多いからここにいる人達とはそりが合わないんだろうさ」
職人プレイヤーとかもいるだろうし、楽しみ方は人それぞれ、か。
色々と広場があるのな。
この辺りはVRらしいと言えるのか。
「ちなみに僕はその人に適したパーティー募集の場所の紹介とかもしていたんだよ。正直ここは……まあ、彼らはなるべくしてここで集まっている感じだね」
「……」
「それと募集する彼らだけど装備の最低ラインなんか色々と聞かれるし、見られるね。カニ装備以上じゃないと蹴られるよ」
蹴られるってのは断られるって意味だ。
まあ固定の知り合いじゃない、他人とゲームで遊ぶんだ。
必要最低限のLvや装備、スキル構成はあるよな。
この辺りは極普通の感性だし、よくある話だ。
ある意味、マナーの様なモノと考えた方が良い。
「俺みたいに釣り装備でいる奴とか門前払いになる奴だな」
「そうだね。「ふざけんな。釣りでもやってろ」とか断ってくるのは間違い無いね」
「絆さんの装備……かなり強力ですよ?」
「彼らからすると純粋な性能以外に付与された効果も戦闘向けじゃないと許されないのさ。もちろん絆くんは有名人でもあるから期待して招く人はいるかも知れないけどね」
「上手い人を真似するって事をせずに他のゲーム経験を参考にしてるんだよ、きっと」
紡が無慈悲な事を言うなー……否定できないけどさ。
少なくとも一般的にゲームで最も簡単に強くなる方法は上手い人のやり方を真似する、だ。
ディメンションウェーブでは外部サイトを見る事が出来ないので不可能だが、普通のゲームなら攻略サイトでも見て、効率の良い方法をそっくりそのまま真似するだけで時間さえ掛ければ上位に行くのは難しくない。
とはいえ、ここ最近はある程度情報も広まってきた訳で……それ等を試しもせずに上手く行っていないのは、ゲーマー的にちょっとどうなんだと思わないでもないな。
ああ……アルトのなるべくししてここに集まっている、というのはそういう事か。
たまに普通のゲームでも、ちょっと調べればわかりそうな情報を知らない、教えられてもやらないプレイヤーっているんだ。
別に個人のプレイスタイルだし、文句を言うつもりはないが、他人とゲームをするなら最低限自覚しておかないと、色々と面倒な事に巻き込まれる。
「今はお金が欲しいなら島の雑務とか募集してるから戦闘せずとも結構稼げる状況なんだよ」
「へー、まあスローライフ系の要素も充実したゲームだしな」
「仮に好みじゃないとしても現在、金銭を稼ぎつつゲーム内で稼ぎやすいスキルの習熟法も複数あるんだ」
ゲーム内の豆知識というか最近の傾向分析って奴をアルトは説明してくれた。
「代表的なモノの一つは釣り関連。フィッシングマスタリーとかはある一定のラインまで稼ぎやすいのは……君達なら分かるんじゃないかい?」
ここに来てみんながなぜか顔を逸らす。
おい。どうしてみんな顔を逸らした。
「確かに……そんな日を掛けずに私もフィッシングマスタリーはⅩになりましたね」
「拙者も実は出来るけどやらないだけでござる」
「私もね」
「当然僕も習熟はしてるよ」
「にも関わらずやってくれるのは硝子だけだけどな」
「それは絆殿達が無理矢理拙者達に叩き込んだからでござるよ」
要するにカニ籠の回収作業時に経験値を貰えるのが原因だ。
ちなみに設置する時にも少しはもらえる。
その所為でここにいるみんなはフィッシングマスタリーを習得条件を満たしているのだ。
漁に関する基礎知識って奴だな。
「同じ理由でトラップ系も高レベルの習熟を得ているね」
「四天王戦でも役だったでござる。何が幸いするかわからないでござるよ」
「お兄ちゃん、このゲームに愛されてるよね。運営のお気に入りと言われるのも時間の問題じゃない?」
「その皮肉は島に取り残された身からすると言い返したくなるぞ」
どれだけ俺が島での生活を余儀なくされたと思っているんだ。
「その四天王戦で俺は貢献こそしたけど1位は取ってないだろ」
「そうでござるな」
「俺は硝子や紡、闇影みたいに反射神経はそこまで良くないからな」
「紡さんのお兄さんなんですから才能はあると思うのですけどね……稽古をすると時々光るモノはありますし」
硝子の分析は専門故に感じる事なのか。
よくしてくれているからの期待なのか……。
「戦闘中に色々と考えすぎているのが動きが良くない原因かも知れませんが、考えているからこその発想もありますし、性格的な適性で良いかと思いますよ」
「絆殿はもっと積極的に攻撃して近接は解体武器、遠距離はルアーで攻撃していれば拙者を超える成績をたたき出せる可能性もあるでござるよ」
「急がしくてヘトヘトになりそうだな、その戦闘。俺はそこまで器用じゃないぞ」
せわしなく動いて疲れそうだ。
「え? 出来てませんか?」
ここに来て硝子さんの一言……。
「お兄ちゃん、その辺りは出来てると思うけどね。その頻度を上げていけば良いだけだよ」
「うーん……」
FPSとかのゲームでスナイパーライフルでヘッドショットが得意なら、何度もやれば良いよ、と言われている様な気分だ。
一回や二回出来ても、それを連続してやり続けるのは別の技術が必要なんだよな。
こういうのをプレイヤースキルの高い奴は理解していなかったりする。




