ダンボル
「そもそも気になったのですけど釣れる魚って潜って確認とかできないのでしょうか?」
「素潜り漁はあるから出来ない話ではないがな……」
しぇりるが素潜り担当だし、俺も技能の条件を満たしているからそこそこ素潜りは可能だ。
先ほど話していたペックル着ぐるみとか装備すればよりやりやすいだろう。
「ただ、条件によって増える可能性だってある」
少なくともブルーシャークの時は港にあんなの居たら一発でわかったはずだし。
「フィッシングコンボが発生したらどうなるかわからないな」
「奥深い話ですね。カニ籠では得られない魚もいるという事ですね」
「そうなる……ま、今はその確認は後回しにするさ」
「お兄ちゃんも義理堅いね」
「言ってろ」
「では狩場に行くでござるな」
そんな訳で第一都市を通り抜けてフィールドの方に出る。
「戦った事の無い魔物を重点的に巡ろうと思っているのですがまずは何と戦いましょうか?」
「そういわれると漠然としてるな」
「フィールドは広いでござるからなー」
「硝子さん。お兄ちゃんがいるんだよ? ここは確認の為に聞かなきゃいけないことがあるよ」
なんだ? 紡が俺がいるからこそ聞かなきゃいけない話なんてのを聞いてきやがる。
「え? 何か問題が? 確か絆さんは私と出会うまで海方面以外で第一都市を出たことが無いとおっしゃってましたけど……」
「となると……お兄ちゃん。硝子さんに会うまでに戦ったのは?」
「ラファニア草原でコモンウルフを狩って、行けそうだとそのまま進んでった」
「ゴブリンアサルトと私が戦っているときに出会いましたね」
懐かしいなー。
「ちょっと待つでござる。絆殿……もしやダンボルを知らない訳ではないでござる?」
「ダンボル?」
「ここからかー……となるとクローラーも知らないね」
紡と闇影が俺の知らない魔物名を言ってきた。
「トレントは拙者たちも戦ったでござるな」
「常闇の森で闇影と出会ったな」
「となると……うん。お兄ちゃん本当、第一と第二都市近隣の魔物を知らないみたいだね。硝子さんや闇ちゃん。ダンボルから狩っていった方が良いよ」
なんか俺の引き上げみたいになってないか?
エネルギーの限界突破の条件稼ぎだけどさ。
「そうでござるな。とはいえ今の拙者たちなら騎乗ペットであっという間に必要数を倒せると思うでござるよ」
今の俺達は騎乗ペットという早い移動手段を持っている。
目当ての魔物を探す索敵等、お手のものだろう。
「ま……ダンボル草原に行った方が良いかな? あそこなら運が良ければラブリーダンボルとか、エンジェルダンボルとかボス系も時間湧きするし」
「なんだその妙なフレーズ……そんなフィールド無いぞ」
「プレイヤー間で言われている俗称の狩場だよお兄ちゃん」
ああ……オンラインゲームだとわかりやすい名称とかあるもんな。
「ちなみにクローラーのドロップには糸があるでござる。これを布に加工する事ができるのでござった。あの頃はみんな勝手がわからずクローラーは無数に狩られたでござるよ」
「今は?」
「カルミラ島でも農業の一部で産出される植物由来の布にシフトしたでござる。クローラーの糸の性能はそこまで高くないでござるからな」
なんか色々と複雑みたいだ。
「糸ならジャイアントスパイダー辺りがもっと落とすし性能が上らしいからねーお兄ちゃんが居れば解体でスパイダーからもっと採取できるんじゃないかな? 」
うわ……蜘蛛の解体とかもあるのか……カニを解体する感じでできるかな?
しかし、蜘蛛を解体して糸を得るって何か間違っているような気がしなくもない。
「蜘蛛山脈のドロップ品で私は装備を揃えましたよ。着物が肌に合うので」
「あー初期ドロップで着物はその辺りのだったね。お兄ちゃんに貸してた羽織りもそこの中ボスがドロップする奴だったよね」
「はい」
うーむ……硝子たちの軌跡を聞くのもなかなか興味深いな。
硝子に借りてた羽織りはそこの中ボスから得た物だったのか。
「とにかく、まずはダンボル島から巡って行くのが無難だね。倒せる相手は全部倒していこう」
って感じで紡が先頭に立って騎乗ペットの犬に跨って走って行く。
そのあとを俺たちもすかさず追いかけて行った先の草原に到着した。
「ここからがダンボル草原、ダンボルの生息地だからしっかりと確認してね」
「確認って……なんかいるな」
四角い箱みたいなのがピョンピョンと跳ねている姿が確認できる。
箱の上にはダンボルと書かれていて……というか段ボールにしか見えない。
「段ボールの魔物だからダンボルってか?」
「そんな感じのネーミングなんじゃないの?」
「安直な……」
「これがこのゲームで最弱の魔物の一種類のダンボルって魔物ね。ほかにコモンウルフにクローラーがゲーム開始当初にプレイヤーが戦う相手なんだよ」
「そ、そうか」
跳ねまわるダンボル達を俺は見つめ続ける。
あれがこのゲームのマスコット的な魔物なんだろうか?
どちらかと言えばまだペックルの方がマシに見えてしまうんだが……。
「ダンボルマニアなんてプレイヤーもいるらしいでござるな」
「みたいだね。ダンボルのドロップ品である段ボールを集めて段ボール装備なんてのを初期にやっていた人がいたよ」
「見た感じ子供の作った装備と言った出で立ちだったでござるなー……」
なんか思い出に浸るように闇影がつぶやいている。
硝子も見覚えがあるって感じで苦笑してるぞ。
俺はその話を聞いた瞬間、謎の外国人がロボットの名前の書かれたダンボールを付けている姿を想像したがな。
「あんなの見たこともなかったぞ」
「海の方じゃ全然いないからこの大陸限定の魔物なのかもしれないね。とにかく、ここは大体のダンボルを網羅した狩場だからお兄ちゃんは突っ走って片っ端から倒して回ると良いよ」
「わ、わかった。って俺一人で大丈夫なのか?」
「お兄ちゃん……今の装備でダンボルに負けるなんてありえないから、刃先を当てるだけで勝てるし、お兄ちゃんならルアーを当てるだけで即死させれると思うよ」
なんかすごく面倒くさそうに紡に言われてしまった。
「そうでござるな……正直に言えば騎乗ペットで跳ね飛ばすだけでも倒せると思うでござる」
「そこまで?」
硝子に念のために確認すると頷かれてしまった。
「あまり無意味な虐殺を私は好まないのですが絆さんが強くなるためですからね……一通り回ってみてください。どうやらプレイヤーもほとんどいないみたいですので大丈夫でしょう」
「昔はここも賑わっていたのか?」
「絆さんと出会った頃はそれはもう……人気狩場の一つでしたよ?」
「効率の良いパープルダンボルが居たからねー最初期だと鉄鉱石を極々稀に落としたからみんなこぞって狩ってたよ。お兄ちゃんが空き缶でインゴットを売り出すまでだけどね」
狩場に歴史ありか……なんとも物悲しいな。
「それじゃあ絆さんの討伐カウントを稼ぐためにみんな分かれて狩りましょう。絆さん。ここにいるダンボルの討伐を殆ど満たせたら連絡をお願いしますね」
「はーい」
なんかみんなにパワーレベリングしてもらいに来たような感じがしてきた。
「ま……30分あれば十分だと思うけどねー」
って紡がつぶやき、俺達は通称ダンボル草原を駆けまわった。
俺の騎乗ペットは俺を片手で支えながら風のように駆けて行き……ダンボル達を跳ねまわしていく。
ピョンピョン跳ね回るダンボルは騎乗ペットに蹴られて目をバツ印に変えて転がったり、砕けていた。
硝子たちの話だとダンボルは別に解体とかするほどの物はないとの話だ。
「ペン」
あ、ブレイブペックルを連れてたの忘れていた。
頭と腕、背中にダンボルが器用に噛みついているけどケロッとしている。




