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裏技

 俺は洞窟の入り口に立っていた。

 手には釣竿。釣り針の部分に錘を付けている。


「じゃあ行くぞ?」


 最終確認を取り、二人が無言で頷くのを確認した後、俺は釣竿を大きく振った。

 フィッシングマスタリーⅣから来るコントロールから錘の付いた糸はリザードマンダークナイトにコツンと命中する。

 単純ダメージで言えば1か2か。

 少なくとも、まともな攻撃とは言えない。

 しかしターゲットを取る分には十分な効果を発揮する。


「来るぞ! 全員、もしもに備えろ!」


 リザードマンダークナイトは俺の攻撃を受けるや否や、疾風の様な速度で俺達の方向へ駆け抜けてくる。

 普通に相手すれば出会った瞬間ズバっとやられる所だが……。


 ――ドーンッ!


 大きな爆音と共にリザードマンダークナイトは洞窟の入り口にぶつかった。

 そう、リザードマンダークナイトは洞窟の全高よりも大きい。

 昔から多くのゲームでモンスターを設置モニュメントに引っ掛けるという手段が存在する。いわゆるありがちで簡単レベル上げ法なんかで使われる事が多い。オンラインゲームでは修正の対象だったりする、そんな手法だ。

 しかし幸いにも、この手段は現状のディメンションウェーブで適応する。当然、失敗する可能性もあったが、三人で相談した結果試すだけは試そう、という事になった。


「後は全員で死ぬまで殴り続けるぞ!」

「わかりました!」

「了解でござる!」


 後は単純作業だ。

 自分達の所持している武器とスキルをフルに活用してハメた敵を攻撃し続けるだけ。

 俺は勇魚ノ太刀を取り出し、洞窟に引っかかっているリザードマンダークナイトに切り掛かる。


 ガンッ! という鈍い音が響き、生憎とダメージは少なそうだ。

 遠目だったので分からなかったが鎧以外の箇所は鱗で覆われていて防御力は相当高い。

 横に視線を向けると硝子が突きや打撃を繰り返している。

 そして闇影は巻物の形をした魔法系スキル用武器の一つ、魔導書を口元に当てて魔法を詠唱している。数秒後、黒いエフィクトと共に緑色の粒子がリザードマンダークナイトから闇影に吸い込まれていった。


 これが闇魔法のドレインという奴だろう。

 尚、俺と硝子は攻撃スキルを使用しない。

 HPがどれ位あるのか分からないボスモンスター相手にエネルギーを消耗するスキルを、それもこんな状況で使うのは時間節約以外の効果を期待できないからだ。


「それにしても硬いな。普通に戦って本当に勝てるのか? こいつ」

「どこかのパーティーが倒したという話を聞いた事がありますよ」


 手を止めずにともかく攻撃しながら会話をする。


「噂に聞いた程度でござるが、複数の盾役が抑えながら、遠距離から光魔法で攻撃するそうでござる」

「なるほど、外見通り物理防御が高いのか」


 多分だが、俺達とリザードマンダークナイトの相性は最悪だ。

 まず攻撃力の低い解体武器と扇子、そして相手と同じ闇属性の魔法、ドレイン。

 こんな裏技でも使わなければ勝率0の敗北フラグMAXだ。

 何せ俺の攻撃なんかカンとか嫌な音を発ててやがる。

 これでも俺が持っている最強の武器なんだぞ。

 ちなみにこの手の金属などを持つ物理防御系モンスターは斧や鈍器などがダメージを良く通すらしい。


「ともかく、敵に変な動きが無ければこのまま殴り続けるぞ」

「はい!」

「了解ござる!」


 千里の道も一歩から、俺達は無限に続く一方的な攻撃を繰り返した。


 ――三十分経過。


「ま、まだ倒れない。どんだけHPあるんだ、こいつは……」


 近付きすぎると攻撃が飛んでくるので、ギリギリの距離で攻撃を繰り返す。

 特に硝子は扇子の射程が短いので偶に防御して受け流している。

 しかもAIの関係か離脱しようとしてくる。

 無論、その都度釣竿を使って攻撃範囲内に呼び戻しているが。

 しかし、そういう面を含めてもAIの頭は良く無さそうだな。


「治癒能力でもあるのでしょうか?」

「否、自分達の攻撃力が低いだけでござろう」


 まあそうなんだろうけどさ。自分で言うか普通。

 既に無限とも言える量の攻撃を三人で繰り返していた。

 その為、攻撃箇所の鎧は壊れ、鱗も割れている。

 そこを重点的に攻撃する事でカンという音からズバという音に変わった。なので最初よりはダメージが入っていると思う。

 だが、ボスとは言え一匹のモンスターに一時間も掛けるのは精神的に厳しい。


「我が魂の糧となるでござる。ドレイン!」


 この三十分休みなしにドレインを使い続けた闇影はエネルギー量が硝子を越えた。

 つまり2万7000程ある。

 それだけリザードマンダークナイトはHPが高い。


「おおおお?」


 闇影のドレインが発動して既に見慣れた緑色の吸収エフィクトが発生した直後、リザードマンダークナイトが普段と違う動きを見せた。

 大きな、とても耳に響く咆哮と共に『ズーン……』という音と共に倒れる。

 洞窟に何度もぶつかって地震を立てる事も無い。


「殺ったでござるか?」

「おまっ! それ死亡フラグだぞ」

「むむ、そうでござる。自分には里に残した妹が……まだ死にたくないでござるー!」


 ……やべぇ。

 俺、こいつのこのノリ好きだわ。


「何をやっているんですか……もう」


 硝子の冷たいジト目を受けながら倒したかを確認する。

 この手のボスは死んだふりを使う事もある。注意を払って近付いた。


「死んだふりかもしれぬ故、気をつけるでござるよ」

「おう」

「いえ、それは無いのでは?」

「なんでだ?」

「曲がりにも騎士を名乗っているのですから、その様な卑劣な行いをするとは思えません」


 ふむ、一理あるな。

 死んだふりをするボスは大抵悪魔系や蛮族みたいのが多いと思う。

 まあリザードマン自体が蛮族みたいな気もするが、一応こいつもナイトなのだろう。そこ等辺の礼節は守っているのかもしれない。

 実際は礼節を守って正々堂々挑んできたリザードマンダークナイトを卑劣な手を使って罠に貶めたのは俺達なのだが、そこはあえて無視する。


「ドロップ品は……闇ノ破片と闇槍欠片でござる」

「高額で取引されている素材ですね」


 金には困っていないが高値で売れるらしい。

 まああって困る物でも無いし、いいか。

 尚、闇影の話では両手槍の材料だそうだ。

 闇属性付与が付くので槍スキル取得者は手に入れたい一品らしい。


「しかし、さすがは解体武器でござる。噂と同じくアイテムが出るのでござるな」


 さて、ここからが本題なのだが、どうするか。

 硝子の方は『どうしましょう?』という顔で見詰めてくる。

 正直言えば解体したい。

 というかこんなボスモンスターを解体する機会などそう無いだろう。おそらくだが、解体で手に入ったアイテムは武器防具として相当活用できるはずだ。

 心の天秤に隠し続けるメリットと、ボスモンスターの解体アイテムを秤に掛ける。


「一緒にボスを倒した仲だし、教えるか……」


 ボスドロップに勝る物なし。


「絆さんがよろしいのでしたら、それが最善かと」

「むむ? どういう意味でござるか?」

「まあ見ていろ。高速解体……」


 俺はスキルを唱えると倒れている、大きなリザードマンダークナイトを勇魚ノ太刀で解体を始める。壊れている鎧や割れている鱗は無理だが、鱗、骨、肉、牙、瞳、皮、尻尾、血などが解体できる。

 しかし、戦闘で破壊した箇所は解体できないんだな……。

 あれか、某狩猟ゲームとは真逆の設定か?

 破壊した部位はアイテムにならない。普通に割れている鱗を使用はできないよな。


「なんと……」


 闇影が驚きの声をあげる。

 ボスモンスターだからか解体で手に入る量が巨大ニシンと同じ位多かった。

 きっと巨大ニシンは釣りに分類されるボスなのだろう。


「これは一体どういう事なのでござる? アイテムが増える? 解体武器はドロップ品が増えるのでなかったのでござるか?」

「あれは武器解説の説明不足です。真実の力は解体武器を化け物に使う事で道具が手に入るのです」

「自分、今日程驚いたのはこの世界で初めてでござる!」


 余程驚いているのか、あるいは演技過剰なのか、闇影は興奮気味な言葉を吐く。

 まあ世間に公表されたとしても、これ等のボス解体アイテムを早めに売ったなら十分稼げるさ。


「では、自分はこの事実を秘匿すれば良いのでござるな?」

「は?」

「見た所、絆殿も函庭殿もそれを秘匿しているご様子。命を救ってもらったという恩を返す為、自分墓場まで持っていく所存でござる」

「ま、まあそうしてくれるなら嬉しいが……」


 そういえばこいつは俺達を殺しかけたんだった。本人は反省しているみたいだがな。

 実際隠してくれるというのなら問題ない。


「それで物は相談なのでござるが」

「なんだ?」

「自分をパーティーに加えてはもらえぬでござるか?」

「……理由は?」

「自分、これまで一人でやってきたのでござる」

「そうなんですか?」


 不思議そうに話を聞いている硝子。

 そりゃ、あんな特殊なスキル構成だったらパーティーに入れないだろうよ。

 思わず突っ込みたい衝動をグッと堪えながら話を聞く。


「己で口にするのは憚られるでござるが、自分、コミュニケーション障害なのでござる」

「…………?」


 ……なんだって?

 残念ながら、とてもそうは見えない。

 少々ロールプレイがきついので嫌いな人は嫌いだと思う。だが、そういうプレイが好きな人も沢山いる。少なくとも俺が出会ったアルトやロミナなどは問題なかった。


「今まで幾度とパーティーに入ろうかと考えたでござるが、結局話しかけられなかったのでござる」

「それは……大変でしたね」


 なんか硝子が丸め込まれ始めている。

 言ってはアレだが、その頭では現実で詐欺に遭いそうだぞ。


「質問良いか?」

「どうぞでござる」

「コミュ障害な割に俺達と普通に話しているが、そこはどうなんだ?」

「忍者言葉を話す事でどうにか話せているのでござる」


 どんな理屈だ。

 もう少し上手い言い訳をしてくれ。


「内心では今ですらビクビクなのでござる」

「まあ! 絆さん、彼女と共に参りましょう。私達は魂人同士なのですから!」


 なんだろうな。この感覚。

 あれだ。詐欺に遭った友人に高額な壷を売られている気分だ。

 ま、まあパーティーを組むのはこの際良いが……ん?


「今なんて言った?」

「私達は魂人同士なのですから!」

「その前だ」

「彼女と共にしましょう、ですか?」

「そうだ、それだ。彼女?」


 全身黒装束で、忍者みたいな格好をしている。なので今一外見が分からない。

 口元も黒い布地で覆われているので声も判断し辛いし、どうなんだ?


「人前で素顔を出すのは恥ずかしいでござるが、共に戦うかもしれぬ身。自分の顔を見て欲しいでござる」


 そういって頭まですっぽりと覆っていた布地を取ると……。


 ――銀髪美少女がそこにいた。



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