魚鬼の釣り糸
「大きくて派手だねー大剣って言っても過言じゃないかも」
「持ち手を伸ばせば長柄武器、長刀とかになりそうな代物ですね」
紡と硝子が各々評価を下す。
まあ……俺が使う解体武器の中でも一際大きな一振りだもんな。
「これで同じ解体武器カテゴリーだというのだから不思議なもんだ」
「同じ武器種でも大きさが異なるのはありますからね」
「そうだね。私は鎌でも大鎌を好むけど鎖鎌とか小さな鎌を使う人もいるよ。小さい奴だと投げて使うらしいんだ」
へー……同じ武器でも使い方が違うのがあるのか。
そういやしぇりるも銛を投げたり刺したりしてるもんな。硝子の扇子も扇とか使ってるし。
「復讐の力ってなんだろう?」
「ダメージを受けるとしばらく攻撃力が上がる効果だね」
アルトが説明してくれる。こういう所は詳しくて助かる。鑑定とかで詳しく載っているのかな?
「かなりお兄ちゃん向けだね」
「ダメージを受けつつ殴りに行くってか? 俺は脳筋じゃないんだが……」
これだけ積んでも紡や硝子、闇影よりも火力が出せる自信はない。
「しかもボス特化という曲者武器だぞこれ……」
しぇりるは確か白鯨素材で手にした武器は雷属性を宿したって感じだったのに俺のはボス特化とか……同じ素材でも系統が全然違うんだな。
「絆さんもこれで大活躍ですよ」
「どうだろうな……元々解体武器って全武器中でも攻撃力は低めの方だし、まあ期待に応えられるよう頑張るけどさ」
一応、俺が手に入れた素材を集めて作られた変わり者武器だし。
「思えば絆くんは最初から変わった素材を持って来てくれていたね。おそらく同様の武器も何処かで手に入りはするのだろうけど絆くんが初めて所持しているだろうと私は思っているよ」
MMOの世界はなんだかんだ広いからなー……どこかで同等の武器をドロップする奴がいても不思議じゃない。
とはいえ、ロミナが作った白鯨の太刀はこの一振りが最初で、ここまで強化されているのはこの一振りしかないだろう。
しっかりと使いこなせるようにならないとな。
勇魚の太刀……またお前の出番だぞ。と硝子と出会った頃に使い、途中で攻撃力不足から持ち替えてしまった勇魚の太刀が進化した白鯨の太刀の柄を強く握る。
このゲームは武器を使い込めば使い込むほど、強化に補正が掛かる。
また強化する事が出来るようにしっかりと使うとしよう……大物を捌くときにな。
「あとは武奈伎骨の釣り竿とか釣り具だね」
そうして渡された釣り竿を確認する。
大鯰の釣り竿に比べると……確かに力強くしなるが……柔らかいわけでもない。
方向性の違いがあるけど問題なく使いこなせそうだ。
「後は釣り糸だね。魚鬼の釣り糸をルアーを作ってくれた知人に頼んで作成してもらったよ」
と……釣り糸も受け取り確認する。
魚鬼の釣り糸
武器系統 釣り具・アクセサリー
装備条件 フィッシングマスタリーⅨ以上
切断耐性(弱) 強度強化(中) 伸縮強化(中)
ヌシイトウの力を抽出して糸へと付与した強靭な糸。柔軟にしてピアノ線を超える強度を誇る。
なんとも頼もしい説明文のある釣り糸だこと……ピアノ線を超えるとかとんでもないな。
現実に存在したらだけどさ。
ゲームだから誇張表現にはならないか。
「じゃあこの釣り糸を硝子と一緒に使わせてもらうよ」
「お揃いですね」
「そうだな」
なんかちょっとうれしい。
ちなみに釣り糸も修理をお願いすると補充されるというゲーム独自の仕様だ。
餌以外は案外使いまわせる。
ついでに釣り針を貰った。
釣り針に関してはルアーにも付け替えることができるけど、まあ……ルアーの攻撃力というか性能を少し上げる程度の代物だな。
釣り関連は端材で作れる品々ばかりだから目に見えた高性能な代物にもなり辛いのだろう。
俺の装備はこうして新調することができた。
ロミナはそれぞれ注文した新装備をそれぞれ渡してくれる。
闇影がミラカ系の特化忍び装束から別の魚鬼の忍び装束に着替えていた。
鬼っぽい角が付いた頭巾が印象的だろうか?
何処かの和風系の探索ゲームみたいな恰好になったような……そうでもないような。
あとは足とか手甲の手前辺りに鱗が付いている。そういう装飾何だろう。
ウロコと忍び装束のハイブリットみたいな装備だな。
「どうでござる? 魚鱗が良い感じにアクセントとなっているでござるな」
「生憎一点ずつしか作ってないからボーナスは闇影くん好みとなりそうな代物は着いていないけどね」
装備の品質が良い時に追加でボーナスとかついている。今まで闇影が装備していたミラカ系の忍び装束は魔法系特化のかなり拘った代物だ。
ボーナスを気にせず作ったのだから実のところ、性能的には毛が生えた程度というやや悲しい代物となっている。
「これで良いでござる! 何時までも古い装備で拙者だけ置いてきぼりにされるのが嫌なのでござるから!」
「まー闇ちゃんの場合はカニ素材装備で厳選した方が性能は良いのに交換できそうだよねー」
「やるかい?」
ここでアルトがニヤニヤしながら闇影に尋ねる。
「それでもいいぞ闇影」
俺もここでニヤニヤしているとしよう。
何せ闇影はアタッカーとしてはゲーム内でもトッププレイヤーな訳だし、入手しやすい素材で厳選できるならやって悪い話じゃない。
「そこまでしなくていいでござる! 作りやすい装備が見つかるまでまた置いてきぼりになるより一緒に好き勝手装備したいでござる!」
「効率的な装備も良いけど変わった装備を使うのも楽しいよねー」
「じゃあ紡は河童着ぐるみでも着てろ」
「ひどーい! まあネタで使うのは良いけどー」
良いのかよ。
「まあ……あの装備群は派生強化がそこそこあるから使うのも手なのだけどね。ペックル着ぐるみも別の強化ができるようだし、使い込んでくれたらやってあげても良いよ」
ロミナが言葉を選びながら俺達に言ってきた。
「僕が見たところ今の所最強という装備ではなく、ネタにしては強い性能という所なんだけど、そっち方面で突き抜けるのも悪くはないかもしれないね」
アルトが援護射撃をしてくる。
「今確認した所だと、闇影くん好みになるかわからないけど忍び河童着ぐるみというのがあるね。おそらく職業系の河童装備になるんじゃないかな?」
「ちなみにどんな感じになるんだ?」
「忍びのコスプレをしたデフォルメ河童の着ぐるみさ。条件素材は……もう少し河童を狩ってきて貰う必要があるけどね。ほかにもおそらく河童を狩ることで得られる素材から作れるよ」
「性能は?」
「回避系の装備効果があるよ。闇影くんは忍者スタイルを好むけど魔法使い系だからちょっと系統が違うね」
ちなみに今、闇影が装備している魚鬼の忍び装束も魔法系ではなく素早さが上がる系のボーナスが多いそうだ。
「闇ちゃん性能に拘るなら忍者は実は方向性が違うからねー」
「それでいいんでござる! 拙者、性能は大事でござるがこのスタイルを変える気は無いでござる!」
「手甲と巻物がどうにか魔法向けという所だからしょうがないね。でどうするんだい?」
「河童は勘弁してほしいでござる!」
闇影も大変だな。
「ちなみに絆くんが着用するクリスマスペックル帽を込みで強化したペックル着ぐるみを着用すれば……わかるね」
アルトが性能談義で踏んではならない話をしてきた。
「こっちは型落ちしているペックル着ぐるみを強化発展させた代物になるよ。同じく職業に派生するみたいだよ」
「戦士ペックル着ぐるみとかか?」
俺の質問にロミナは頷く。
「かなり使い込んだ上位の盾が材料に必要になるのだけどブレイブペックル着ぐるみなんてのもあるね。攻撃力は大きく下がるけど防御力だけなら……相当な代物になるよ。帽子と組み合わせれば絆くんたち限定でものすごく硬くなれるだろうね」
「だって、お兄ちゃん。作って貰ったら?」
く……紡、お前という奴は闇影だけに飽き足らず俺もネタ枠にする気か!
タダでさえ特に戦闘とかしないときはサンタ帽子を着用させられている方の身になれ!




