釣りギルド
「さて……じゃあこれから次の釣り場がどこにあるか俺がしっかりと確認しておくからみんな自由に見ていてくれ」
「ねえねえお兄ちゃん! イルカショーとか無いのー?」
「アルトに聞け、もしかしたら催しを設定してるかもしれないぞ」
問題はイルカはまだ寄贈されていなかったはずだ。
そもそもいるのか? イルカとか。
魔物枠なのかはたまた……。
「ペックルのショーとかならありそうだな」
「ペックルは見慣れてるけど一度は見たいような気がするね」
やはり輪っかくぐりとかするのだろうか? ボール遊びとか?
「さすがにゲームとは言えそこまで運営も想定して作っているでござるか?」
「島まで1プレイヤーに管理を任せる運営だぞ。無いと言い切れるのか?」
家庭用ゲームのシチュエーションならともかくVRMMOにこんなのをシステムを内蔵した運営だ。
何があっても不思議じゃない。
「確かにそうでござるな。ただ……館内の案内図にショーをするためのコーナーが無いでござるよ?」
「無いのか。その辺り増築できるんだったら後でさせるか、図書館の蔵書が一部こっちに移っているそうだから小さな図書コーナーはあるはずだぞ」
「休憩コーナーにあるようでござる」
「じゃあ後でそこで集合な。じゃあ各自楽しんでいてくれ」
と言う訳で俺は入り口からしっかりと第一都市周辺と第二都市周辺にあるらしき釣り場のチェックを行った。
「そういえば……」
釣り場チェックをしていた俺はついでにヌシのコーナーに行って新しいヌシが登録されていないかを確認する。
すると……。
「く……」
とあるヌシの箇所で思わず悔しさに言葉が漏れてしまった。
ヌシクロダイ
ルロロナ側のミカカゲ港に長年生息するクロダイの主。
若かりし頃は無数のメスと交尾をして子供を作り、年齢を重ねて性転換した後は無数のオスと子供を設けた港のクロダイたちの親玉である。
生息地 ミカカゲ港
なんか変な説明文というか気色悪い説明が入ってるな。
コレ、クロダイにおける本当の話なんだろうか?
ともかく……おのれ、釣れる機会があったはずなのにブルーシャークを釣った所為で浮かれていた。
そうだよな。ブルーシャークは神出鬼没のヌシでこっちは生息地固定のヌシなのだから当然だ。
できれば俺が釣り上げたかったが……他の奴に釣られてしまったのならしょうがない。
コンプリートを目指している訳じゃないけど、復活周期が判明したら釣ってやる。
決意を固めるのはこれくらいにして……そういえばクロダイって性転換する魚だったか。
「あ、あそこにいるの絆ちゃんじゃね?」
「ヌシコーナーでなんか見てるぞ」
「クロダイみたいだな、性転換……絆ちゃん、自身と重ねてみてるんじゃね?」
「なんか興奮してきた」
おい来場者、お前この前のイベントでも俺の事で気色悪い話してただろ!
ストーカーか! しかも興奮すんな!
あんまりここで絡むと碌な事にならない。
別のヌシなんかの情報も更新されていないかチェックをして……その場を去ることにした。
そうして情報収集を終えてロミナの所に行くとみんな集まっていた。
アルトもいるようだ。
「やあ絆くん。硝子くんたちから聞いていたけど第一や第二の方に戻るんだってね」
「技能向上のために色々と回ろうって話になってな。装備とか色々と潤沢だからそこまで時間はかからないと思うぞ」
「まあ指定された数をこなしていくんだろうからね。そろそろ次の波が発生するんじゃないかって噂も出ているし、ミカカゲの最前線で最終調整をするか行ってない所を回るのが無難だね」
って所でアルトが軽く咳をしてから、なんか気になる目線で尋ねてくる。
「ところで水族館のヌシコーナーで絆くんが悔し気にしていたという雑談が僕の耳に入っているのだけど」
「え? 絆さん、何かあったんですか?」
「いや、大したことない。むしろそいつら俺に謎の興奮してる変態共だから!」
「変態なのは否定しないね。君のファンなんだからさ、彼らは」
うへ……アルトに言われると嫌だなぁ。
俺に興奮する変態共め!
「迷惑プレイヤーですか?」
「そこまでの事はしてないよ。あくまで絆くんを見かけて遠目で愛でていた者たちさ」
「はぁ……」
ピンと来ないと言った様子で硝子が首を傾ける。
「私とお姉ちゃんの自慢の力作だもんね!」
「外見もあるけど絆くんのキャラクター性なんかも好感を持たれている所みたいだよ。第一都市の港でずーっと釣りをしていたとか最初の波で貢献していたとか、白鯨を釣り上げていたとか色々とね」
「絆さんが好まれているのは分かりましたが、その方々に不満で悔し気にしていたのですか?」
「違うって」
まあ俺に興奮されるのは気色悪いんだけどさ。
「では一体……」
「いや、ミカカゲの港でヌシを釣れずに他の人が釣り上げちゃって先を越されたなーって見てただけさ」
「より希少なブルーシャークのヌシを釣り上げておきながら悔しがるのはどうなんだい? おそらく絆くんが中継街で釣り上げたヌシウナギと似たり寄ったりの素材が解体で得られる位だと思うよ」
「別に素材目当てって訳じゃないって。ちょっと悔しいなーって思っただけ」
思えばヌシなんてそうポンポン釣れる相手じゃないし、チャンスはそこに釣り糸を垂らした者すべてにある。
硝子がヌシイトウを引っかけたみたいにさ。
「再出現の周期がどんなもんか次第だけど俺も釣りたいもんだなって思っただけさ」
「その辺りの情報……ちょっと時間が掛かったけど、幸い聞き出すことは出来たよ」
「おお、わかったのか?」
「まあね。同じ主を釣った事があるプレイヤーからの話だと一週間という話が出ているよ。もちろんバラツキがあるけどね。この辺りは運が左右するから確定ではないけどね。ただ、見えるタイプのヌシを元にした証言だから安心して良い」
「そうなのか。見えるタイプというとヌシナマズみたいな奴か」
釣り針に引っかかるまでわからない奴もいるけど、固定出現って感じで見えるヌシもいるんだろう。
「再出現、思ったより時間かかるんだねー。フィールドボスとか6時間周期だったりするのに」
「あくまで釣りは魔物退治と違うからなー……しかし、よくそんな情報仕入れられたな」
「とある縁で釣りギルドの者たちと話ができるようになってね」
「釣りギルド……いいな。俺も掛け持ちで釣り仲間が欲しいぞ」
俺の言葉にアルトが返答に悩むかのように眉を寄せる。
なんだ? 何か都合が悪いのか?
死の商人が何かやらかしていないか不安になってきた。
「紹介することはできるけど、絆くんは嫌がるんじゃないかなー」
「どういうことだ?」
「この前ギルド名を一新した所だそうで、その名前が『絆ちゃんとアクヴォル様ファンクラブ』というんだよ」
「おい! 何勝手に人の名前を使ってんだ!」
肖像権とかそういう前に本人が許さないぞコラ!
つーかこの前の魔王軍侵攻イベントでのチャットでの冗談を実行に移したのかよアイツ等!
「ちょっと待てアルト、まさかと思うが俺が悔しそうにしていたって情報……」
「正解だよ絆くん。彼らがその所属メンバーさ」
うへぇ……マジでお近づきになりたくない。
「とはいえ、なんだかんだ割と真面目に釣り関連のギルド活動をしているようだよ。第一回目のギルド活動は絆ちゃんの始まりの地と称した、第一都市の港でのヌシニシン釣りだったそうでメンバーで釣り場巡りに行ったそうだから」
釣りをしながら色々と情報交換をするのが目的……っと。
俺の名前を使ったスキル縛りギルドかよ。
面白い事やってるじゃないか。
というか始まりの地とか言っているけど、釣りに限らずプレイヤー全員、あそこが始まりの地だろう。
「せめてギルド名をどうにかならんのか」
「ゲームシステム的なハラスメントにはなっていないんじゃないかな」
「絆さん……嫌ですよね」
「ネットアイドル絆ちゃんだね、お兄ちゃん!」
「中身男とわかっているくせになぜそこまで……」
いや、まあ、ネット文化ってそういうノリと勢いな所があるけどさ。
俺のファンを自称する連中が出てきたことに気色悪さが……確かにそいつらと情報交換なんてしたくない。




