寄贈
「良いでござるか?」
「闇影さんもそろそろ装備を切り替えたいですよね。私は問題ないですよ」
「ありがとうでござる」
「了解。強化派生とは別系統だからミラカ装備はそのまま着ていてくれて良いからね」
「じゃあ硝子くんはどんな装備が欲しいんだい?」
「そうですねー……強度の強い糸……を作ってくれないでしょうか?」
「糸かい?」
「はい。絆さんと一緒に使える釣り糸を作ってくれると助かります」
ああ、硝子はヌシ釣りの時に糸が切れちゃった事を気にしているのか。
「絆くんの分も合わせた釣り糸だね。丁度良いから絆くんの釣り竿も一緒に作ってみるとしようか……釣り竿はヌシウナギ、武奈伎骨の釣り竿という名前になるようだよ。糸は……魚鬼で作れそうだ。釣り針も一緒に作るとしようか」
「よろしくお願いします。となると絆さんの今使ってる釣り竿はどうなるのでしょうか?」
「ああ、大鯰の釣り竿だね。素材に使わないから大丈夫だよ」
「絆さん。まだ大鯰の釣り竿を使いますか?」
「仕掛けや性能次第としか言いようがないけど……」
「なら私に貸していただけないでしょうか?」
そういや硝子が使っているのは俺のお古の釣り具で特に目立った性能の無い奴だ。
ここで俺が愛用していた大鯰の釣り竿を使いたいと……。
まあ、硝子になら貸しても良いよな。新しい釣り竿を用意してもらえるわけだし。
「良いよ。これで良いの?」
「ええ」
「ロミナ、要石の扇子が強化出来たんだからこっちも強化とかできない?」
「魚鬼の端材でできるよ」
「じゃあついでに頼む」
「わかったよ。それじゃあ作業に取り掛かるから出来上がったら呼ぶから来てくれ」
「了解」
という訳でロミナは俺達の装備作成に入ったのだった。
「強化したら私の持っている方が強力になってしまうのでは?」
「そこは竿の性質に差があるようだよ。絆くん用に作る竿はしなりが良くて、大鯰の釣り竿は力強さと素直さがあるっぽい」
「甲乙つけがたいのですね」
「硝子用にするなら素直なタイプの竿が良いと俺は思うな」
まだ硝子は釣り竿に関しちゃ入門したばかりなんだし、癖の強い釣り竿を使って妙な癖を持っては元も子もないだろう。
そもそも硝子には大鯰装備を使って貰っている手前、竿も大鯰だと一式そろえている感じがして良いだろう。
「ついでに白鯨骨のルアーも貸そう」
「何から何までありがとうございます」
「良いの良いの、硝子は俺に付き合ってくれているんだから」
他の連中は全然興味を持ってくれないけど硝子は俺の釣りに関して興味を持って一緒にやってくれているんだし、初心者には丁寧にしないとこの手の界隈は衰退しかねない。
「はい」
そんな訳で俺の釣り竿とルアーを一部硝子に貸した。
「ところでお兄ちゃん。そろそろ私の装備もお兄ちゃんが釣ったヌシでほしいなー」
「ロミナに色々と作って貰っておきながらまだ欲するか妹よ」
「だって闇ちゃんも作って貰うとなると、この中でヌシ由来の装備持ってないの私だけじゃん」
「自分で色々と強化して回っているくせに言うなー……」
「紡くんの場合は作成した鎌が十分高性能だからね……あまり性能に差がないよ。精々絆くんと同じく白鯨素材の鎌を作れるけどその前提である勇魚鎌をしばらく使って馴染ませないといけないね」
ああ、お祭りをやっている中継街の金魚釣りで手に入れた素材でも作れる鎌かな?
「少しばかり性能が頼りないが使いこむのを前提にやるかい?」
「うーん……」
「紡の場合、鎌で草刈とかすれば使い込んだって条件は満たせそうだよな」
「えーやだよー! 私戦いたいもん」
草刈りを否定するとは何たる不届きものか……。
「絆くんに化石のクリーニングを頑張って貰って恐竜の化石から作れる恐竜骨の鎌なんてのもあるよ。もしくはエンシェントシックルとかも手だね。攻撃力は近い鎌になる」
「じゃあそっちで、お兄ちゃんおねがーい」
ヌシ素材製の武器が欲しいんじゃなかったのかよ。
全く……単純な妹だ。
「絆さんに甘えているんですよ。かわいいじゃないですか」
「そうかー?」
妹なんて面倒くさいだけだぞ。
「まあ……また化石を掘って行けばできなくはないか……」
いろんな化石が出てくるしコレクションするなら少なくとも1個はキープしておきたい。
素材として使っちゃうわけだしな。観賞用に欲しい。
紡には戦闘面で活躍してほしいから……まあ、良いか。
「じゃあロミナが武器を完成させるまで何をするかね。無難に俺は島主クエストと設置したカニ籠の回収と設置でもしてくるか……?」
「随分と続けるでござるな……」
「まあなーとは言っても加工業務はアルトが子飼いにしている知り合いに丸投げもしてるぞ」
カニポーションに始まり、カニ料理、カニ装備とこの辺りの品々は副産物だ。
「ただ、必須でやる事でもないな」
アルトに在庫を聞いてからでも良いだろう。
この前の漁で在庫はまだ十分確保されているはずだ。
「武器が出来たら第一と第二都市へのエネルギー上限突破、条件解除巡りですね」
「そうだなー釣り場のチェックも忘れないぞ。水族館もチェックしておくか」
元々硝子も言っていたし、あっちの釣り場の確認もしたい。
「水族館ですか、話には聞いてましたが行ってませんでしたね。皆さんで行きませんか?」
「絆殿が確保した魚が網羅されているのでござるな」
「俺だけじゃねえよ。確かに俺が寄付した魚とか多いけど」
「寄付をプレイヤーができるんだったね。見に行ってみよー」
そんな訳で俺達は作業場にロミナとしぇりるを置いて、アルトと合流前に水族館へと向かった。
水族館は島主である俺達はフリーパスで入場できるのでそのまま中に入って色々と見て回る。
そういや硝子と一緒に水族館を回りたかったと思っていたっけ。
「魚がいっぱいーこれって全部プレイヤーが寄贈した奴なの?」
「一応そうなっているな」
「凄いですね。私も新しい魚を釣ってこの中に名を入れたくなってきます」
硝子が水槽の魚に目を向けながらつぶやく。
「新しい釣り場で釣った魚を寄贈したから……淡水魚なら出来ると思うぞ」
「そうなのですか?」
「ああ、入り口にいるペックルに寄贈出来るそうだぞ。一応城の玉座からでもできるな。だから硝子、アメマス辺りを寄贈したら名前が載るんじゃないか?」
少なくともアメマスはあの湿原が初めて釣れる場所だろう。となれば今寄贈すれば寄贈第一号として硝子の名前が載るのは間違いないはずだ。
「なるほど……ですが絆さんはよろしいのですか?」
アメマスを硝子に渡すと硝子は申し訳なさそうに答える。
「ああ、別に俺は名前を載せることに拘っている訳じゃないから、硝子がやりたいなら譲るさ」
「ありがとうございます。では記念に寄贈させていただきますね」
「あ、お兄ちゃん硝子さんにだけずるーい」
ここで妹が抗議をしてきた。
うるさい。お前はずっと狩りばかりしてて釣りなんて微塵もしてないだろうが。
「紡殿、拙者たちは釣りをしてないでござるから我慢でござるよ」
「カニなら寄贈しても良いぞ。名前は載らないと思うが」
「ぶーぶー!」
「あの……」
硝子が気を使って紡と俺を交互に見ている。
「気にしなくて良いからほら、早めにな」
「はい」
そうして硝子が入り口のペックルにアメマスを寄贈しに行き、無事アメマスが登録されたので淡水魚のコーナーに確認しに行った。
するとアメマスがしっかりと水槽で泳いでおり、寄贈者に硝子の名前が記されている。
「これは……なかなか素敵な事ですね」
「硝子が喜んでくれるなら嬉しいな。俺の知らない釣り場とか見つけて釣った魚を登録とかしても良いからなー」
釣り人仲間であると同時にライバルを俺は求めている。
硝子は俺に合わせて釣りを覚えてくれたのだから高め合いたいのだ。




