補佐コンボ
「ていていペン!」
クリスが張り付きからの攻撃を続けてくれていた。
「私も絆さんのように……はあ!」
今度が硝子がサポートをするとばかりに……ルアーを付けなおして、ヌシの体に絡みつかせる。
俺が付けている糸に絡むか心配だったが逆方向から主へと巻き込みを行って動きを封じる考えの様だ。
なんていうか器用だな。
「ダブルで電気ショックを掛けるぞ!」
「はい!」
「いっせーのせ!」
バチバチとダブルの電気ショックが発生し、水面が光る。
が、主の奴……まだ抵抗をする。
どんだけ体力があるんだよ。
「はああああ! 一本釣り!」
グイっと引き上げにかかるがフィニッシュには至らない。
って所で俺を支えるライブラリ・ラビットが懐からなんか札っぽい物を出して主に投げつけた。
ズーン……と、主の動きが遅くなる。
鈍足の状態異常攻撃? 結構便利なオート攻撃できるのな。
「体力に自信があるようだが、これはどうだ!」
竿を素早く上下させてルアーに衝撃を与える。
するとザシュっと血のエフェクトが発生した。
どうやら攻撃性能のあるルアーはこういう時に効果を発揮してくれるみたいだな。
「もう一度行くぞ!」
ギュイイインっと電動リールが高速回転を行い、糸を巻き上げに入る。
そこから電気ショックをお見舞いしつつクリスの突撃が掛かる。
硝子の巻き込みはまだ効果がある状態で、一気に仕掛けた。
一本釣り!
ザバァっと主が俺たちの力に負けて岸へと文字通り引き上げられた。
ビチビチと岸に上げられていながらもまだ抵抗するかのように跳ねている。
「逃がすかってな!」
そのまま硝子と一緒に湿原の沼へと入らないように岸側に引き上げ終えると、やっと主は大人しくなった。
「よし! 釣り上げ完了っと」
主の口から硝子が逃しそうになったルアーを外して俺もルアーを取る。
「一時はどうなるかと思いましたがやりましたね!」
「ああ……どうにかな」
俺達は釣り上げた主へと視線を向ける。
その主は……3メートル半くらいある、大きな……イトウ。ヌシイトウだった。
「これが主を釣るという事なんですね……絆さんが夢中になっている理由がわかりました」
「そうなのか?」
「ええ、今まで私は単純にすごいと客観的な目線で見ていたんです。それが自ら引っかけ、攻防を経験したおかげでわかりました。ヌシとは魔物との戦闘をする私からすると……文字通りボス魔物だったんです」
「いや、それは至極当然の事なのでは?」
釣りオンリーってぐらい釣りをしている俺からすると何か違いがあるのだろうか?
「絆さんからすると最初からそうだったという事なのは今になってわかったに過ぎないんです……ただ、今まで私は見てただけで何も知らなかったんだと実感したという事です」
硝子が自らの手を見つめている。
「絆さんが釣り上げたお陰で逃がすことはありませんでしたが……私の負けであるのは事実ですね。ですが、次こそ負けられないです。なんとも面白いです」
なんか硝子が釣りの楽しさを理解してくれたようで何よりだ。
「さて、じゃあ早速魚拓を取っておこう」
ヌシイトウの魚拓……写真を手で形作って撮影っと。
お? 騎乗ペットが撮影に反応してヌシイトウを持ってくれる。
「ペーン!」
クリスと……一緒に居たブレイブペックルもカメラワークに入ってくるぞ。
撮影に反応するAIか……まあ……良いか。
「あとで紡達に見せてやらないとな。硝子がヌシを引っかけたって」
「絆さんが釣り上げたんじゃないですか」
「引っかけたのは硝子さ、俺は補佐したまで、何せ師匠なんだから、弟子の尻拭いや後悔が無いようにするのは当然だろ?」
「なるほど……そういう考えもありますか……ふふ、優しい師匠ですね」
なんとでも言ってくれれば良いさ。
「さて、このヌシはみんなに見せるから置いておくとして、今日の分のアメマスを釣るぞー」
「一旦ここで休憩とかせずにやり遂げるんですね」
「休憩を取るとかは良いけど、先にやっておいてみんなが来るまで休みたいだろ? 何なら硝子は休んでてくれても良い」
「いえいえ、なら私も続けますよ。ただ、主を釣る余韻をもう少し味わって居たかっただけですから」
「もちろんやることを終えたら楽しむさ」
みんなが来るまでニヤニヤすれば良いのだ。この勝利の美酒を味わいながらの釣りもなかなか楽しいってもんだよ。
なんて思いながらクエストと今晩食べる分のアメマスの確保を俺達は行ったのだった。
「またお兄ちゃんが釣り上げちゃったね」
「随分と頻度が高いんじゃないでござるか?」
「グッドラック」
紡達が目標数のターゲットを倒して帰ってきたので釣り上げたヌシを見せてやると呆れた調子で言ってきた。
「よく釣れるのは否定しないけど今回は違うぞ!」
「違うって何?」
「そうでござるよ」
紡と闇影が怪訝な様子で尋ねる。
どうせ碌でもない誤差みたいな差でしょ? って言いたいのがヒシヒシと伝わってくるぞ。
「引っかけたのは硝子だ」
「え!? 硝子さんが釣ったの!?」
「驚きでござる!」
「そう」
意外と言った様子で紡たちは硝子に顔を向ける。
硝子はそこで手をブンブンと振って違うとばかりに答える。
「いえいえ、違いますよ。確かに最初に引っかけたのは私ですが、力及ばず糸が切れちゃったんです。ですがすかさず絆さんが上手く針を引っかけて引き継いでくださったんです」
「そんな事できるの?」
「神業でござるよ」
「咄嗟にルアーを口に引っかけたらできただけだって」
「そういえば絆殿……魔王軍の水の四天王の口にルアーを引っかけようとしていたでござるな」
闇影が納得したとばかりにため息を漏らす。
「お兄ちゃん、集中力だけはあるからね。おかしいってくらいのやりこみというか妙な技が出来たりするんだよ。きっとその延長線上の技だね」
「結構思い通りにルアーが動くんだぞ? きっとゲームだからできる事なんじゃないか?」
何となくでやって上手く行くことがあるので間違いないと思う。
「確かにそうですね。私も驚くくらいルアーを思った場所に入れることができますから……フィッシングマスタリーの効果である程度できるようになるのかもしれません」
「そういわれると言い返せないでござるな」
「だからって普通はそんなことができるって思いもしないと思うよ」
「そう……でも、出来たら良い」
しぇりるが肯定的な意見を述べる。
そうだな、逃がした魚は大きいし悔しいもんだ。引継ぎでミスを解消できるなら良いに越したことはない。
「でもこの方法って悪用すると大物が引っかかった時に他の釣り人が掠め取りが出来ちゃうって事なんじゃないの?」
「どうなんだろうな? それこそ検証が必要だとは思う事だ」
よし、大物が引っかかったって所で横取りされるのは嫌だ。
「そもそも複数の釣り針が一匹の魚に掛かったら、ものすごく釣り辛い状況になるだろうし……、逆にこういうやり方が当然である難易度になって行く可能性も否定できないな。硝子、今度実験してみるか」
「あ、はい……確かにやってみた方が良いかもしれないですね」
そうして後に実験してわかる事なのだが、二つの針を引っかけた場合、二人目の針はすぐに外れてしまうことが分かった。
リールを巻くことに関しても同様だ。
しかもパーティーの設定をしていないと引っかける事すらできない。
仲間だからこそできる補佐的なコンボ何だろう。
狙ってそう何度もできるもんじゃないな。タイミングもかなりシビアだ。
「紡さん、私もヌシ釣りを経験してわかりましたがこれはボス戦闘と同じですね。釣り人にとって醍醐味なんですよ」




