電気ショック
「釣れたペン!」
クリスとブレイブペックルにも釣りを指示していた訳なんだが……各々ドジョウやコイ、ウグイにスナヤツメを釣っているのを確認している。
硝子が釣ってすぐに俺もアメマスを釣り上げたぞ。
確かに竿にかかる手ごたえはなかなかのものだ。
それなりに良い釣り具とマスタリーを取ってないとすぐに針が外れる位には難易度がある。
「ちなみに硝子、絶対に負けたくない場合は電気ショック……リールに付けてあるボタンを押すと良いぞ」
「わかりました。けど……良いんですかね」
「邪道なのは認めるけど使わないと釣れそうにないのも引っかかったりするからあるに越したことはないんだ」
「なるほどです」
なんて感じでいざって時の予防線の説明をしながら俺達はアメマス釣りを続行する。
一度釣れる場所がわかれば後は粘ればいいだけだ。
俺も硝子もだんだんと手馴れてきたぞ。
「ちなみに硝子はアメマスでムニエル以外だと何が食べたい?」
「え? そうですねー闇影さんの話では水っぽいそうですから、何か問題を解決する方法は無いのでしょうか?」
ふむ……。
「水気を抜くって事で塩漬けとかすると良いかもしれない。ただ、ちょっと設備が必要になるな」
干物を作る感じになるからどこかで機材を作るべきだろう。その辺りは細工が必要か……罠技能で代用できればいいんだが。
天日干しにするか……一夜だけ漬ける一夜漬けも試してみるのが良いかもしれない。
ちなみに川魚だから刺身はするべきじゃない。
なんでも刺身にすれば良いって訳じゃないんだ。
「色々と調理方法がありますね」
「そうだなーま、最近は色々と高級食材を食べ過ぎてるし、アメマスだと物足りなく感じちゃうかもな。そうならないように工夫するよ」
「絆さんに任せっぱなしですね」
「料理は俺より上手な人はいると思うけどね。魚料理は譲らないようにしておくよ」
ブレイブペックルのアシストなんかもあって料理はそれなりに出来ている自覚はある。
けどそれは俺自身の実力で出来ている訳じゃない。
専門の人には劣るだろう。そもそも俺は釣りがメインでサブが解体って感じなんだし……さらに料理までとなるとちょっと手が広くなりすぎてしまっている。
釣ったアメマスで何か良い料理を作れれば良いんだがなー……。
作れる料理レシピなんかも素材の応用とか効いたりするから絶対の信用とかはできないんだ。
ロミナはあっさりと見極めて作るけどさ。
「絆さんは本当に魚が好きなんですね」
「そうなるのかな?」
なんかマイブームって感じで釣り特化をしちゃってるんだけどね。
「!?」
なんて話していた所で、ガクっと硝子が体勢を崩した後、急いで竿を引き上げる。
竿が思いっきりしなっている。
この曲がり具合は相当の大物だ。少なくともアメマスの比じゃない。
「な、なんかとてつもなく強い引きが来てます! ど、どうしたら!」
「釣る時の動き自体は普段通り……これまで教えた通りにやって行けば良い」
こりゃあ硝子の竿にヌシが掛かったとみて良いかもしれない。
そうじゃなくても相当の大物であるのは間違いないぞ。
「は、はい」
リールを回しながら硝子がファイトを始めた。
俺が教えた釣り方を忠実に再現しながら水しぶきを上げる大物との戦いだ。
主との戦いを俺以外の奴が行っているのを初めて見た。
ここは素直に成り行きを見守るべきか? いや……このディメンションウェーブというゲームにおいて主相手にまともに釣り上げるのはそう簡単な事ではない。
「く……なんていう力強さでしょう……」
「硝子、電気ショックを使うんだ!」
「は、はい!」
現実の釣りだったら風上にも置けない電気ショックであるがこのゲームじゃ魔物も釣れる訳だからやらねば釣れるものも釣れない事だってある。
バチバチと釣り糸から電気が走って水面の影に電気が通る……が、屁でも無いかのように主は暴れているように感じる。
く……何かできることは無いか。
出来ることはある! 今までの主釣りの時だってやってたじゃないか。
「行け! クリス!」
「ぺーん!」
前にもやったようにペックルを使って主のスタミナを直接削るサポートを俺は指示した。
ついでに弓矢を取り出して硝子が釣ろうとしている主へと狙いを定める。
「くううう……はあああ……」
キリキリと硝子がリールを巻き取りを行う。
その間にもクリスが主の影に攻撃を仕掛け弱らせる。
くっそ……引っかけたのが硝子だからかこの主、水面に姿を現さないぞ。
なめてんのか?
いや……それだけ力が強いって事か。
なんだかんだ言ってここは最前線ともいえる釣り場なんだ。
何より硝子はフィッシングマスタリーの技能は高くても他の技なんかは未収得だろう。
まだまだ経験が足りない中での主との戦闘なんだ、上手く行かなくて当然かもしれない。
どちらにしても俺がサポートをしなくちゃな。
「あ! 硝子! あの主、流木に糸を引っかけようとしている! 絶対に引っかけさせるな! そのためなら逆に振らなくても良い! 糸を切られるのが一番の敗北だからな!」
「は、はい! なるほど、地形もしっかりと把握しないといけないのですね!」
主が流木らしきものの影に回り込んで糸へのダメージを狙っているのがわかったので硝子に注意する。
俺の注意を聞いた硝子が糸が引っかからないように竿を振るってその抜群な運動神経で跳躍して回り込んだ。
おお……凄い安定の動き。
って見とれている暇はない。
電気ショックを定期的に与えつつ、クリスが主へと攻撃を続け、俺が弓矢で攻撃をサポートする。
く……しぇりるの銛とかの方が効果的な攻撃だったか?
右へ行ったら右へ、左へ行ったら左へと硝子は回り込んで主の抵抗をいなし続ける。
「喰らうペン!」
水竜巻を起こしたクリスが主へと攻撃を当てる。
良い感じにダメージは入っているのはわかる。
現にさっきよりも水面に近いくらいに主が浮上してきている。
「うううう……」
ギリギリギリ……っとリールが音を立て、思い切り竿がしなり続ける。
これが醍醐味って奴だ。
よし! 水面に顔を出させられるぞ!
バシャっ! っと主が水面から飛び出して姿を見せる。
その姿はパッと見だけどアメマスに似ている。
けど何か違うのがわかるな。まずは釣り上げなきゃ始まらない。
「あ!」
まるで勝利を確信したかのような飛び出しをした主が空中でクニっと体をくねらせて糸へと攻撃をする。
するとバチっと糸がキレイに切れ、硝子が体勢を崩してしまう。
「このまま逃がすか!」
ほぼ無意識に俺は弓矢を落として釣り竿に武器を変え、ルアーを……勝利を確信したであろう主の顔……硝子が引っかけた口にルアーをぶつけていた。
ガクンと俺の竿がしなる。
「き、絆さん!?」
おっと、予想外に上手く行ったぞ。
ある意味、これもフィッシングコンボって奴かもしれない。
まさか主を逃しそうになった直後に他の釣り人が掠め取りができるなんてな。
「後は任せろ!」
「は、はい!」
「くぬぬぬぬ……」
電動リールで急いで巻き取りを行う。
く……この主、やっぱり硝子の時は手加減でもしていたんだな。
俺が引き継いだ途端、正体を現したとばかりに水面で暴れだす。
バシャバシャと水面に顔を出しては糸を尾びれ等で攻撃するし、流木に引っかけようとする。
ナマズ並みに性格が悪いぞこいつ!
なので俺も騎乗ペットに乗り込んで小舟で回り込んでやった。
このウサギ……俺を支える力が凄いぞ! 座ったままだけどめちゃくちゃ安定する。
食らえ電気ショック!
バチバチっと水面がスパークした。




