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オオキンブナ


「それで絆さん、今回は……ルアー釣りのようですね」

「ああ、まあ見ててくれ。まずは手本をやるぞ」

「前はその手本でいきなり主が引っかかっちゃったんでしたね」


 苦い経験だな。カルミラ島の池で釣りをした出来事が思い出される。

 今でのその時に遭遇した主の装備を俺と硝子は各々使っている訳だし。


「……騎乗ペットに乗ったまま釣りができるっぽいな」


 片手で俺を支えていた騎乗ペットが両手で支え始める。

 なんか踏ん張りが効くのはゲーム独自の仕様か……小舟に乗ってもバランスよくルアーを投げることは出来そう。


「よっと」


 スナップを掛けてルアーを湿原の水辺に投げ入れる。

 リールをリズムよくキリキリと回して魚を演出するのを意識しながら竿を小刻みに動かしながら巻いていく。

 手元まで巻いてしまったら再度キャスティング。

 そうしているとクイクイっと手ごたえが来たので竿を上にあげると、魚がヒットしたのかぶるぶると手ごたえが来た。


「よし!」


 右へ左へと逃げる方向とは反対に竿を動かしながらリールを巻き取る。

 今回かかった獲物はそんな引きが強くないみたいだ。


「フィッシュー!」


 一気に引き寄せて釣り上げる。

 すると……ビチビチと40センチくらいのカエルが釣れていた。

 確認するとジャイアントパープルトードと出ている。


「ジャイアントパープルトードも釣れるみたいだな」

「そのようですね」

「まあボーンフィッシュとか釣れたりするわけだし、よくあることだ。こうして釣り上げたのは収納できるのは覚えてるよな」

「はい。前にも釣ってましたもんね」


 そうそうアイスヘローンだったな。かすめ取りをしようとしてそのまま釣られた奴。


「とまあ……こんな感じ、ルアーを地面に引っかけて大地を釣らないように色々と試していけば良いさ」

「分かりました。じゃあやって行きましょう」


 硝子が俺から教わった通りに釣り竿を振りかぶってルアーを飛ばして着水させる。


「絆さんみたいに静かに落ちませんね。ドボンって感じで落ちちゃいました」

「そこは馴れだ。マスタリーはしっかりと取っているんだし、すぐにできるようになる」


 キリキリっと硝子も俺がやった手つきを見よう見まねで若干ぎこちないけど糸を巻いていく。

 が、ピクッと引き上げてしまった。


「あれ……感触から何かが掛かったような気がしたんですが……」

「早すぎだったんじゃないかな? こう、軽く突いているって時もあるんだ」

「魚さんも侮れないって事ですね……しっかりと間合いを図り、引っかけるタイミングを見極めなければいけません」


 なんか硝子が燃えているような感じだ。

 それから硝子が釣り竿を何度か振るっていくと、どうやら魚が近づいて来たようで巻き方がゆっくりになる。

 今度は失敗しないとばかりにタイミングを見極めながら巻いていた硝子が、確かな手ごたえと共に竿を振り上げる。

 竿がしなって魚がヒットしたことを伝えてくれる。


「いきます!」


 キリキリキリとリールを巻きながら右へ左と硝子は魚との攻防を始めた。まあ魚の引きが弱いのか一方的に引き寄せられているんだけどさ。

 そうして近くまで手繰り寄せてからスッと水面から魚を引き上げる。

 えーっと……大きさが15cmあるジャイアントパープルオタマジャクシ……トードの前のオタマが釣れたようだ。


「釣れました!」

「あ、うん。釣れたね」

「オタマジャクシが釣れるんですね」

「そうだね。とりあえずこれが硝子の初魚って事だね」

「は、はい……なんか少し気になりますけど……」

「まー……魚としてカウントしなくても良いかもね。魔物枠なんだし」

「確かにそうです。じゃあどんどん釣って行きましょう」


 って感じで硝子もやり方をしっかりと覚えてくれたので一緒に釣りを始める。

 俺もヒョイッと釣り竿を振るってルアーを落とす。

 リールを巻いていくと……ヒットの手ごたえ。

 ビクッと竿がしなったのでそのままリールを巻く、釣り具の性能が良いからかあっさりと魚が顔を出す。


「オオキンブナ……」


 30センチほどのフナが釣れた。

 なんか水族館で見た覚えがあるぞ。コイと生息域が被る魚だ。

 となるとコイもここでは釣れるかもしれないな。


「やりましたね」

「ああ。色々と釣って行こう」

「はい。あ、何か引っかかりました……手ごたえが弱いですね?」


 ザバァっと硝子が竿を上げると……長靴が釣れた。


「……」


 硝子が切ない目をして長靴を見つめる。


「虚しくなる必要はないぞ? 俺なんてしばらく空き缶を釣り続けていたんだからな」


 今でも結構ゴミが釣れることはある。

 カニ籠にも混じっていたりするしな。なんだかんだ人間の環境汚染はゲームにも反映しているのかもしれない。


「ゴム長靴だから、ゴム素材としてアルトやロミナが回収してくれるぞ」

「そうなんですね。どんどんやって行きます」


 こうして釣り場をちょこちょこと移動して流れのある所にルアーを投げ込む。

 するとフナとは別の魚が釣れた。


「ウグイ……かな?」


 ミカカゲウグイというどうやらこの国固有のオリジナル魚が釣れた。

 見た感じ大きめのウグイだ。大きさは30センチ。

 どうも30センチ代の魚ばかり釣れるなー……アメマスは一体どこで釣れるんだ?


「あ、き、絆さん! 引きが強い魚が来ました!」

「お?」


 硝子の方を見るとバシャバシャと水音を立てながら魚との攻防が行われていた。

 とはいえ、硝子の引っ張る力の方が強い。


「そこは右、うん。良い感じ、そのまま巻いてー」


 助言を聞きながら硝子はリールを適切に巻いていった所で魚が抵抗とばかりに水面から飛び出した。


「あ、巻くのはストップ!」


 水面から出た直後に巻くと糸が切れたり針が外れたりすることがあるんだ。

 ただ、硝子が引っかけている魚は大きかった。ウグイよりは大きいので別の魚なのは間違いないはずだ。

 確かに引きがかなり強い魚の様だ。こうパワーのある魚って海の魚が多いけど、川の方でも力のある奴はいるもんだ。


「よーし巻いてー」


 ザブンと水に入ったのを確認してから硝子に巻くのを指示。


「はい。ブルブル震えて手ごたえがなんか心地いいです」

「釣りって人間の狩猟本能を刺激するって言うらしいからね」


 なんとも不思議な魅力があるのは否定しない。

 まー……俺もリアルで釣りが趣味だったかというと時々行く程度だったんだけどさ。

 このゲームで釣りをしているうちにどんどんハマって行ったのは間違いない。


「よーし! あとは引き上げるだけ針が外れないように掴むから安心して」

「はい!」


 って感じで巻き終えた硝子の代わりに俺が魚を引き上げる。


「お、硝子、やったよ。目的の魚を一匹ゲットだ」


 硝子が釣り上げたのがどうやらアメマスだったようだ。

 イワナに何となく似た感じの魚だな……ってアメマスはイワナの一種か。

 なるほど、これがアメマスなのか。

 何となくヤマメとイワナって似ているし、よくわからないと頭の中で混ざっちゃうよな。


「硝子が先に釣り上げちゃったな」

「やりました!」


 無邪気な笑みを硝子は浮かべてくれる。

 これであんまり楽しい物じゃないですね。って言われたらどうしようかと思ったけど、杞憂だったようだ。


「よーし! 俺も負けてられないな!」

「はい! 今日は何匹釣れるか競争ですね!」

「ふふふ、師匠のポジションを早々に手放しなどしないぞ」

「負けませんよー!」

「それはこっちだって、経験者の腕前を見せてやる」


 って感じでなんとも楽し気な感じで俺達は釣りを楽しみ始めた。

 思えば釣りを誰かと一緒にやるってあんまりしてなかったから新鮮な感じだ。

 こう……一人で釣りをするのとは別の楽しさがある。

 前に釣り仲間と一緒に釣りに行くんだ! って思ってたけど実現してなかったもんな。


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― 新着の感想 ―
[一言] 長靴、ある意味すごいんじゃね?
[一言] 完全な釣りデートだこれ
[一言] 釣りデート ただし見た目はどちらも美少女
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