アメマス釣り
「ここまで来て転倒したなら攻撃のチャンスです!」
「お兄ちゃんってサポート上手だよねー」
硝子と紡がこの隙を逃さず悶えるミストマッドサラマンダーに向かって各々武器を振りかぶって攻撃する。
「あ、この子、粘膜で防御能力そこそこあるっぽいね。武器の入りが思ったより良くないよ」
「そうですね。ですが私たちの武器なら通じない程じゃありません! 行きます! 輪舞零ノ型・雪月花!」
「死の舞踏!」
おなじみとなっている硝子と紡の攻撃スキルをミストマッドサラマンダーは受ける。
「グウウ!」
けど、それでも倒しきる程じゃなかった。
一応エリアボスって感じの魔物何だろう。あっさりと倒れてはくれない。
「行け! クリス!」
「ペン!」
クリスに攻撃を命じる。ブレイブペックルは守り担当なので攻撃は出来ない。
俺の命令に従ってクリスがミストマッドサラマンダーに突撃、ただペックルは水属性なので効果的ではなさそう。
「ボマーランサー!」
しぇりるも攻撃に便乗してミストマッドサラマンダーに飛び乗りドスドスと、硝子たちより苛烈に攻撃を繰り出している。
「……」
その気迫は普段のしぇりるとは全く違う、鬱憤がたまっていると言った具合の連続攻撃だ。
「しぇ、しぇりるさん?」
「しぇりるちゃんこの前の戦いのストレスが溜まってたみたいだねー」
「鬼気迫る勢いでござる……」
バチンとルアーが外れる。
するとミストマッドサラマンダーが転倒から起き上ってグルっと体を一周させて周囲に衝撃波を発生させた。
しぇりるは振り落とされて水の中に落ちる。
即座に騎乗ペットが回収してくれて水面に出る。
「……」
「キュー!」
行けっ! っとばかりに銛をミストマッドサラマンダーに向けると騎乗ペットのカワウソがそのまま飛び掛かってミストマッドサラマンダーの喉に食らいつく。
「グウウウウ!」
「……」
そのまましぇりるは無言でブスブスとミストマッドサラマンダーを刺しまくる行為を再開しだした。
なんか怖いな。
「と、とにかく攻撃!」
「はい! この隙を逃しません!」
「そうでござるな!」
そんな訳で俺達の怒涛の攻撃でミストマッドサラマンダーを倒すことができた。
「問題なく倒すことはできたけど、思ったよりタフだね」
「そうですね。装備を整えた方が良いかもしれません」
「不要」
しぇりるがここで硝子の提案を断り、ストレージからあの着ぐるみを取り出して着用を始める。
「あの……しぇりるさん? なんかやる気に満ちていますがサンショウウオが嫌いなんですか?」
「……?」
硝子のセリフにしぇりるは首を傾げている。
心の底からよくわかってないって顔だ。
「硝子さん。しぇりるちゃんも思いっきり暴れたい時があるんだよ。ね? 別に両生類が嫌いだからじゃないよね」
コクリとしぇりるが頷いた。
どうやらしぇりるは魔王軍との攻防で負けた事が悔しかったんだろう。
思えば俺達の中で唯一負けた戦場に居た訳だし。
強くなりたいから引きたくないって気持ちは痛いほどわかるぞ。
俺は姉さんや紡に比べると運動神経や戦闘センスに劣るから、悔しさをよく経験したもんだ。
「とりあえずしぇりるちゃんがやる気に満ちてるんだからやって行こう。で、お兄ちゃん。解体任せたよ」
「はいはい」
そんな訳で倒したミストマッドサラマンダーの解体を行う。
まだほかにも出てくるだろうし早めに解体すべきだな。
高速解体を使って手短に解体を行う。
今のしぇりるは見た目がネタでも強ければ良いって心境なんだろう。
河童装備を着用してる。
……今はやりたいようにやってもらえば良いか。
そこそこの付き合いだけど、数日後にはいつものしぇりるに戻っているだろう。
って感じで俺達は湿原でクエスト対象の魔物を狩って行ったのだった。
そうしている内に俺を含めて、あることに気づいた。
「この辺りはどうやら引き寄せない限り、魔物が来ませんね?」
ちょっとした大きめの段差のある小さめの滝とも呼べる場所なのだが、魔物が寄ってこないのだ。
「そうだな、休憩ポイント的な奴なのかもしれない」
「たぶんそうだと思うよ? 狩場にちょこちょことあるのを知ってるよ」
「ふむ……ならちょうどいいか、ここで釣りでもしてアメマスが釣れないか試してみるとしよう」
「確かにお兄ちゃんに試してもらうには良さそう。素材もそこそこ集まってるし、じゃあお兄ちゃんはここで釣りしてて、何かあったら呼んでよ」
既にそこそこ解体は済ませてある……ロミナに何かを作って貰うときに足りないって可能性もあるけれど、その時はその時だ。
タイミング的には丁度良さそう。
「わかった。アメマスをしっかりと釣ってやる!」
「では私もご一緒しますね」
ん? ここで以外な人物が挙手した。
それは硝子だ。むしろ硝子こそ今回の魔物退治を好んでするポジションじゃないのか?
みんな意外と言った顔で硝子を見る。
「どうしました?」
「硝子さんどうしたの? 魔物退治よりお兄ちゃんに付き合うなんて、疲れちゃった感じ?」
「そうでござるな。一体どういう考えでござる?」
「あ、万が一に備えてお兄ちゃんの警護とか? お兄ちゃん、ペックルマスターだから逃げるのは上手だよ?」
うるさい。確かに異常事態があったらペックルを盾にして逃げるけど、それにしたって言い方があるだろ。
「そういうわけではなく、絆さんは私たちに付き合って下さっているのですから私も絆さんに付き合うべきだと思いまして」
「気にしなくていいんだぞ?」
「いえ、いつまでも甘えるわけにはいきませんから、カルミラ島の時にも教えてくださったじゃないですか」
「まあ……そうだね」
あの時は大事なルアーが奪われて教えるって状況じゃなくなったから硝子への釣り訓練は中途半端な状況だったっけ。
「だから今回、私は絆さんと一緒にアメマス釣りのクエストの方をしますね」
「硝子さんも律義だねーわかったよ」
俺より一緒に魔物を倒している紡が頷いた。
「理由はわかったでござる。では拙者たちが魔物退治をしてくるでござるよ。しぇりる殿もそれでいいでござるな」
「……ん」
コクリとしぇりるが頷いた。
「ではそっちは任せたでござるよー」
「ああ、ついでに今晩はアメマス料理を振舞ってやるからなー!」
と言う訳で俺達は二手に分かれてクエストを行うことにした。
紡達が遠くに行くのを見届けた後、俺は装備欄からお古の釣り具を取り出して……今回のアメマス用に釣り具をセットして硝子に渡す。
スポーツフィッシングの側面があるようだから釣り糸は丈夫な奴にしてルアー釣りで良いだろう。
フライフィッシングでも釣れるとは思うけど……。
ほかに何が釣れるかわからないんだし、これで良いだろう。
「はい硝子、これで釣りをしてくれ」
「はい。フフ、絆さんのカニ籠回収に付き合ったおかげでフィッシングマスタリーが上がっているのですぐに挑戦できますね」
「ああ、スキル取ったんだ?」
「はい。使わない時は外せばいいですから」
スピリットは取得したスキルで常時消費するエネルギー量が決まる。
もちろん時間で増えるエネルギー量との塩梅を調整することが何より大事だ。
マナも毎時増えて行く訳だけど上げ下げすると半分は戻ってくるけど損失は出る。
あんまり上げ下げはいい方法ではない。けど……硝子が取得すると決めたのだから良いんだろう。
カニ籠はフィッシングマスタリーとトラップ関連の条件に該当するらしく、カニ籠で捕まえた獲物を手にした時にカウントされるのだ。
なので山ほど俺が設置したカニ籠を蟹工船をした際に、みんなで回収作業をしてもらったのでみんな、相応にフィッシングマスタリーとトラップ関連の経験を得ている。
そのため、硝子もフィッシングマスタリーを一気に引き上げる事が可能となっているんだ。




