小舟装備
「そうだな。魚の中じゃかなり美味しい方なのは否定しない。どこかでウナギみたいに手に入れたいところだ」
「お兄ちゃん。渓流にまた釣りに行こう!」
紡が鮭を食べたくてしょうがない状況になってきている。
鮭はな……料理にいろいろと使えるから俺も釣りたいもんだ。
鮭おにぎりに始まり、塩焼き……イクラもあるし鮭フレーク、ムニエル……うーん。なかなか悪くない。
「今回の探索の初心を忘れるなよ。今のうちにこの湿原や新しい関所の先を探険するんだろ?」
「うん。それと討伐クエストとかこなしてさらに次の場所も探さないとね!」
「やることが多いでござるな」
「多い位が良いんじゃないか? することの無くなったゲーム程つまらないものはないぞ」
「そうでござるな。カニにウナギと続いて次は鮭探しでござる」
まあな。
「お兄ちゃん。ここに来るまでに仕掛けていた籠で鮭取れない?」
「さすがにそんなオチは付かないだろ」
なんて感じで俺達の夜は更けていった。ああ……もちろん設置した籠に鮭は掛かっていなかったぞ。
そんな訳で翌日。
日が昇り、朝靄が見える中で俺達は湿原へと足を踏み入れた。
ちなみに湿原には足場とばかりに木の橋が各地に掛けられている。
「夜の間に町で受けられるクエストを探しておきました。どうやらこの湿原に生息するジャイアントパープルトードとブラウンビッグスラッグをそれぞれ50匹の討伐がありました。後はどんな魔物は未確認という設定の湿原に住む大型の魔物を5匹です」
「ボス魔物でござるな」
「他に鉱山もあるみたいだよ」
「この前の所にも鉱山あったよな。採掘できるものが変わっているのか検証も必要か」
「ついでに魔物も退治ですね」
「絆さんにぴったりのクエストもありましたよ」
「何?」
「どうやらアメマスという魚を10匹ほど欲しているみたいです」
「アメマス」
なんだっけアメマス?
別に俺は漁師って訳じゃないし、メジャーな魚ならパッと出てきたりするけど名前だけでどんな魚だったかはすぐに出てこない。
「渡りに船でござるよ絆殿」
「なんでだ?」
「アメマスはサケ科のイワナ属でござるよ」
ああ、つまり鮭の親戚な魚か!
「釣りだと引きが強い魚だと聞いた気がするでござる。スポーツ的な側面で好まれるらしいでござる」
闇影って知識を意外と持ってるよな。
俺もよくわからない魚の事を知っていやがる。
「ただ、拙者も食べたことがあるでござるが鮭に比べると水っぽかったでござる」
ふむ……確かにそれは良い事を聞いた。
ちなみに鮭であるとのことで刺身とかにする場合は寄生虫が居ないかをしっかりと対策すると良い。
幸いにしてディメンションウェーブでは寄生虫などは居ないみたいだけど、そういった寄生虫がいることを前提とする魚の調理に寄生虫対策の処理をすると料理の成功率が上がるという効果があるらしい。
なんかアルトが言ってた。
なんでも刺身にすれば良いって訳じゃないって事だな。
「じゃあ俺はアメマスが釣れるように頑張ってみるとしよう。で、多めに釣ってアメマスのムニエルとか作る。それで良いな」
「OK! お兄ちゃんに釣りをしてもらう名目が立ったね! やって行こう!」
って感じで早速俺達は湿原の中にある木の橋を足場にして進むことにした。
「思ったよりも足場が悪そうですね」
「深い所は小舟で行くべきだな」
機動性から騎乗ペットに乗っての移動をしている。
ああ、やはりというか闇影の騎乗ペットは水陸両用な事が判明した。
羨ましい限りだな。
ブレイブペックルの騎乗ペットも水陸両用で白とピンクのヒヨコっぽい奴が水面を優雅に進んでいる。
ぶっちゃけ……ペックルなんだから泳げるだろというのは無粋な事なのか?
俺の騎乗ペットは……乗り換えをする意味で小舟を使うか?
なんて道具アイコンを確認すると……。
「あれ……俺の騎乗ペット、小舟が装備できる」
小舟を出そうと弄った所で騎乗ペットの盾のような丸いアイコンが明るくなった。
これはおそらく装備できるって事で間違いない。
「騎乗ペットなのに小舟が装備できるんだ?」
紡のセリフに俺は頷く。
試しに装備させてみようと設定する。
すると俺の騎乗ペットであるライブラリ・ラビットの目の前に小舟が出て飛び乗った。
で……錫杖を櫂に変える。
「……」
これってどう反応すればいいんだ?
「片手に絆殿を乗せ、櫂を片手に漕ぐでござるな」
「……みたいだな」
結構シュールな騎乗スタイルだぞ。とりあえず少し移動してみるか。
操作方法は変わらず行きたいところを意識するだけで察して騎乗ペットが櫂で小舟を漕いでくれる。
自力で動かす必要が無いので楽だな。不思議とバランスはとれてるし。
速度は闇影の河童と同速だろうか。
「これも絆殿の騎乗ペットの固有能力でござるか?」
「どうなんだろうな」
ちなみに紡の騎乗ペットである犬は一応水に対応しており犬かきで湿原を泳ごうとする。
しぇりるのカワウソは……言うまでもなく泳げるな。背中に乗っている訳で水陸両用である。
逆に硝子の猫は水には入ってくれないっぽい。
「不便ですね」
「お兄ちゃんと同じく小舟か何かを装備すると入れるんじゃない?」
「かもしれませんね。しぇりるさん。あとでお願いしてよろしいですか?」
「OK」
しぇりるが快く了承してくれた。あとで材料を調達しないとな。
なんて検証をしているとズモモ……っと朝靄の中から大きな何かがこっちに這ってくるのが確認できる。
「どうやら魔物の登場のようだな」
「拙者が先に行くでござる! 先制のドレインでござる!」
最近、使用頻度が下がっているドレインを闇影が這ってくる何かに向かって唱えた。
バシュッと良い感じの手ごたえのある音が響く。
俺もけん制に釣り竿を振りかぶってルアーをぶつける。
武器に使えるルアーがあるのだから利用しない手はない。
当然の形でルアーは命中し、良い感じに引っかかる。
で、朝靄でよく見えなかったけどどうやら出てきた魔物はブラウンビッグスラッグだったようだ。
見た目は大きなナメクジだぞ。
「では行きましょう!」
「やって行きますかー!」
「……うん」
硝子たちも後に続くように魔物に向かって攻撃を始めた。
強さだけで言えば関所の先だったので前の地域よりは強い魔物の様だ。
ただ、硝子たちが戦いなれているし、相応に装備も修練もしているので特に問題なく、ビッグスラッグを倒す事が出来た。
戦闘時間は数分って所か。
「これを後49匹倒す感じだね」
「そのようですね。あとはジャイアントパープルトードでしたか、手早くやって行きましょう」
「OK! 討伐カウントに入れて行かないとね」
「もう少したくさん来ても良いでござるよ」
「フィーバーするか?」
俺のフィーバールアーをすれば入れ食いは間違いない。
「そこまでじゃないでござる!」
「ところで……お前達はナメクジやカエルが苦手とか言わないんだな」
俺のイメージなんだが女子ってこの手の生き物が苦手だったりするというのに硝子や闇影は平然としている。
紡? 俺の実妹なんだから精神害虫以外でこの手の生き物が平気なのは知ってる。
「大きいナメクジでござるな。カエルも拙者は平気でござる」
ああ、騎乗ペットでそういうの来たらまだ良いと言ってたもんな。
やはり忍者的には口寄せ的な感じなんだろうか。
「私も特に苦手という事はありませんね。そもそもこういった魔物を苦手と言っていたら戦いにならないと思いますが……」
「まあ……」
ゲームなんだからそんな事気にするなって事か。
「魚を捌けないって子がいるのは知ってるけど、ゲームじゃん。あーでも……ホラー系のVRゲームだときっついのあるよね。私アレはちょっと寒気が走った」




