強化条件
「お兄ちゃんこのゲームだと釣り一筋だしねーリアルでもその辺り鈍感な所あるよね」
「硝子やしぇりる、闇影はわからないかもしれないが、俺にはおバカな姉と妹が家にいるんでね。女体への関心は同世代の男よりは無いかもしれない自覚はあるさ」
言っててなんか悲しくなる。
まあリアルの学校でも俺って美少女の姉と妹を持つ地味な兄弟って感じだったしね。
級友たちには色々と聞かれたりしたもんだが、美少女の姉妹ってのが身近過ぎると逆に汚い所やだらしのない所が気になってしまうもんだ。
だから俺は妹萌えが理解できないし、姉萌えもよくわからん。
そんなモノの何に興奮すれば良いというのか。
胸なんて姉がスキンシップで抱き着いたりするんで興奮もしない。
姉でも妹でもない女性に抱き着かれるなんてことないけどさ。
だから揉んでみたい好奇心はあるが言われないと答えられない程度の願望だし、触り心地は何となくわかる。
「絆殿も苦労しているでござるな……拙者からしたら兄弟姉妹がいるのは羨ましいでござるが」
闇影の言葉にしぇりるが同意するように頷く。
「私は少しわかります。寝食を共にする年齢の近い関係が長く続くと意識しなくなってしまうんですよね」
硝子の場合、なんか本人の性格的な所から兄弟子とか姉弟子なんかが居そうなイメージだ。
「改めて思うけど……俺達、華があるようで全くないな」
硝子もなんか男の存在とか無いし、紡は言うまでもない。
闇影に至ってはコミュ障を自称するし、しぇりるとは会話するのが困難だ。
俺はオープンネカマで……ディメンションウェーブはセカンドライフプロジェクトってジャンルを掲げているというのに。
冒険大好きが集まったらこんなもんか。
「なんだか虚しくなるのでやめましょうよ。楽しむのが大事なはずですよ」
「だな、風呂は……まあ俺は気を使って時間をずらすから硝子たちは俺が居ても良いって思ったならその時間に来てくれ」
「そうですね。お風呂で話がしたいならご一緒で良いですよね」
という訳で各々入浴を任意ですることにした。
「ふぅ……」
この町の風呂は露天風呂だった。
湿原が一望できる素晴らしい眺めが背景に見える。
角度的に覗き放題だが、ゲームの仕様上裸体はほぼ見れないから気にしなくて良いって事か。
ディメンションウェーブは健全なゲームなので! とか言いたげな感じだ。
「湯加減はどうですか?」
宿の部屋で魚の解体をしたりして熟練度と次のランクの条件解除、釣り具の選定などをして予定通りの時間に入浴をしていると硝子がやってきた。
「良いと思う。景色もなかなか良いし、これからどんな魚が釣れるか楽しみだ」
「ふふ、絆さんらしいですね」
チャプっと硝子も露天風呂に浸かって俺の隣に座る。
「のどかですねー」
「そうだな」
今日の出来事を思い出すと温度の差が激しすぎるような気もする。
なんだかんだ精神的な疲れは蓄積するものだし、温泉でゆっくりするとドッと疲れを感じるような気はするのだ。
「……」
硝子が黙って景色を見つめた後、俺を見てくる。
「どうした?」
「いえ、特に何かあるというわけではないのですけど……今日の戦い、やっぱり絆さん達と一緒にやりたかったですね」
「自動で振り分けられちゃったんだからしょうがない……けど、そうだな、ただ硝子は割と付き合いの長くなりつつある紡と一緒だったんだから心置きなく戦えたんじゃないか?」
「そうなんですけど……逆に絆さんとはあんまり一緒に戦ったりしていないので」
この辺り硝子は気にするんだな。
まあ、みんな俺の釣りの趣味には気を使ってくれるのはありがたいんだけどなー。
「今回の釣りは私もご一緒しますかね」
「お? 付き合ってくれるのか?」
「ええ、カルミラ島でもちょっとやりましたし、この前の蟹工船でも付き合ったじゃないですか」
確かに……ああ、硝子が付き合ってくれていたのはその辺りを気にかけてくれたんだな。
「絆さんは魔物退治よりも釣りの方が好きですのに私たちに付き合ってくれているんです。私も絆さんに付き合いませんと不公平ですからね」
「じゃあ狩りと探索の合間に色々と釣りを楽しんでいくか」
結局俺達のプレイスタイルに変化なんてあんまりないんだ。
みんな新天地、冒険を楽しんでいて俺は合間に釣りスポットを見つけては釣りに励んでいる。
そんなプレイで良いじゃないか。
「はい」
次のディメンションウェーブまでどれくらいあるかわからないけどやって行けば良いよな。
「それでですね、絆さん」
「うん」
「そろそろ意識していくべきことが結構あります」
おや? 何かあるのかな?
「なんだ?」
「闇影さんもある程度察しているのですが私たちが強くなるには幅広い経験が必要になってきています。単純に効率の良い魔物を倒せば良いわけではないようです」
あー……確かになんていうかしぇりるとか紡は熟練度って奴があって同様の引っかかりがあるっぽい話だな。
正確には一定の数値までは同じ魔物を倒して経験値を得るのは有効な手段であるのは間違いない。
ただ、硝子たちの見立てが他にあるという事だろう。
「絆さんは第一都市から第二都市近隣を巡る経験が少ないですよね」
「そうだな、第二都市なんて数回しか行ってない」
「ですので色々とやりたいことをし終わったら今度は強くなる条件を満たすために今まで行っていなかった場所を巡ろうと思っています。そこで戦った事のない魔物を倒して条件を満たしていこうかと」
なるほどね……このゲームに関する壁というか実績、条件をこなすことでの上限解放を硝子たちは考えているって事なんだ。
そもそも俺も今回の戦いであれだけ恵まれた装備や技能があったにも関わらず色々と遅れていたのも事実だ。
ロミナの話だと俺の冷凍包丁は相当の業物なんだよな。
元々俺の運動神経の悪さがあったとしても……まだ色々とやって行かないといけないって事なんだな。
この先の戦いとかも視野に入れたら……当然か。
まあ色々と回って行くのは悪くない。
まだ見ぬ未知の釣り場が俺を待っている。
そもそも水族館である程度、何があるのかもわかっているし……アップデートで何か変化とかあるかもしれないしな。
「わかった。苦労を掛けるな」
「色々と絆さんには助けられていますからね。これくらいはやって当然です。楽しく、それでありながら後悔しないようにやって行きましょう」
ここでなんかロマンチックに硝子とデートとか俺はすべきか?
いや、別にそういう関係じゃないか。
そうして俺達は他愛のない会話をしながら入浴を終えて宿の部屋へと戻ったのだった。
「今日の晩飯は刺身だぞー」
「お刺身ー」
「海鮮丼でござる!」
料理を作ってみんなに供する。
「絆さんと一緒に居ると海鮮類には困りませんね」
「お兄ちゃん! イクラ丼とか無いの?」
「そういえば鮭はまだ釣った事ないな。フライフィッシングの目標にはしたい相手なんだがな」
「どのあたりにいるかなー?」
「うーん……その辺りはまだよくわからんところがあってなーカルミラ島の水族館で登録されていたかちょっとうろ覚えだな」
少なくとも俺は釣った事がない。
そもそも俺は海の魚が多めだからな。
「居そうな所だと渓流だな。ただ……釣れるシーズンなんかもあるからどこで釣れるかわからん」
この辺りはゲームだよな。
設定されていない場所に特定の魚は出現しないからな。
「サーモン。おいしい」
しぇりるがここで反応した。




