河童運
「……関所の先、それと魚竜を倒したい」
冒険志向の強いしぇりるらしい返答だ。
「これからもう少し装備を強くする……機材も」
しぇりるはマシンナリーもしてるから、色々と今回の反省からやって行きたいって事なんだろう。
「了解。でだ……報酬で騎乗ペットが出た訳だけど硝子たちも手に入ったんだよな」
「はい」
と、みんな本を取り出す。割と今回のイベントだと上位は貰える品っぽくて関所前では各々本をもって雑談をしている人が多数いる。
どうやら開くことで呼び出せるっぽい。
「じゃあ、試乗してみよう」
「そうですね」
と、硝子が本を開くと……虎くらいの大きい白い猫が出た。
「ニャー」
ノビーっとしてから硝子が乗りやすいように伏せをしている。
「わー猫ちゃんだーにゃーん!」
紡が触れようとすると猫がすり抜けた。
「あれ? 触れない」
「個人所有の騎乗ペットだからじゃないか?」
「ああ、なるほど、硝子さん乗ってみなよ」
「は、はい」
硝子は恐る恐ると言った感じで白い猫の背中に乗る。
すると白い猫はスタッと立ち上がった。
「あ、馬と同じ感じで進めますね。ちょっと上下が激しいですけど良いです」
スタスタと硝子が乗り心地を試していた。
周囲にいる他プレイヤーも似た感じで各々乗り物を楽しんでいるっぽい。
お? なんか大きなトカゲみたいなのを騎乗ペットにしている人もいる。
結構ランダムなんだな。
「次は私ー!」
で、紡は犬を出していた。シベリアンハスキーっぽい感じの乗り物だ。
かなりファンシーな犬って感じがする。
「紡さんのワンちゃんもかわいいですよ」
「えへへー」
「……」
続くしぇりるは大きなカワウソの騎乗ペットの様で悪くないって顔をしている。
「……」
で、なぜか闇影がしぇりる化して目が死んでいる。
「どうした闇影」
「そうでござる……」
なんでここでそこまでテンション下げているんだ?
「絆殿は……」
「俺がどうした?」
「いや……その反応は違うでござるよな……」
だからどうしたんだよ。次は俺かお前の番だろ。
「闇ちゃんどうしたの?」
「闇影さん?」
「そう?」
みんな闇影の様子がおかしいので首を傾げる。
「絆殿! 交換してほしいでござる!」
「なんで俺が指定されてんだよ」
「あ、闇ちゃん。今回の騎乗ペット受け渡しできないよー」
「なんとでござる! では拙者、騎乗はしないでござる! 捨てるでござる」
「おいおい。せっかく手に入れたんだから無駄にするなよ勿体ない」
なんだ? 一体何を引き当てたんだよ。
闇影の奴、どうにもみんなに乗り物を見せるのを拒絶している。
「嫌でござる! これは交換を要求するでござる! せめてカエルならよかったでござる!」
「なんだ? ナメクジとか蛇でも当てたか」
「それなら当たりでござる! そもそもなんで絆殿はこれじゃないでござるか! みんな同じだと思ったでござる!」
ナメクジと蛇は当たりなのか。
忍者路線だから当然だったのかもしれないが。
本当、何を引いたんだ?
「あんまり騒ぐなよ。他のプレイヤーの迷惑だろ」
「理不尽でござる!」
「闇影さん、何を引いたんでしょう? ちなみに絆さんは?」
「ライブラリラビット」
「それって他のプレイヤーも出してる奴だね」
と、周囲のプレイヤーへと紡が視線を向ける。
硝子たちのに比べると若干小柄の乗るには少し心もとないウサギの乗り物だ。
そこそこ外れ枠だろ。
そんな俺に比べて外れってどんなだ?
「では見るでござる!」
しばらくぐずっていた闇影だったが、観念したのか闇影が本を開く。
すると煙と共に現れたのは……河童だった。
ファンシーな感じの二頭身の河童だな。河童着ぐるみとも趣の異なるかわいい系だ。
口には手綱を咥えており、鞍を背負っている。バランス悪そう。
「わーかわいいー」
「でも河童でござる!」
「幾ら尻子玉抜かれたからって毛嫌いするなよ」
「闇ちゃんネタが尽きないのってすごいねー」
「それだけが理由じゃないでござる!」
闇影……着実に不幸ながら美味しいポジションを引いているなぁ。
「……死神忍者が河童引いてる」
「そりゃあ、あの河童装備で大活躍したんだ。河童運が巻き起こるのはしょうがねえだろ」
周囲のお笑いを誘う。それが闇影の生きざまなんだろう。
あんまり弄ると碌な事にならないだろうからここでは自粛しておこう。
「河童装備……アレを着たんですね」
「やむなくな。装備したお陰で活躍できたのは間違いないから完全に笑いものにはされていないぞ」
「拙者は笑いものになったでござる!」
俺も着ていたのに闇影に集約したのは間違いない。
すまんな闇影、さすがに騎乗ペットに河童を引くなんて誰も想像できなかった。
「安心しろ闇影、これでお前を死神という奴はいなくなる」
「今度は河童忍者と呼ばれるでござるよ!」
そこは否定しない。
かっぱ着ぐるみの代償は闇影がその風聞をもって支払ってくれたのだった。
「釣りマスター絆ちゃんは何を引いたんだろうな」
「気になるー」
「ウサギだってさっき言ってたぞ」
「心が……ペックルマスターだからペンペンしようぜ!」
絆ちゃん言うな!
ネカマだと言っているのに何故俺に萌えを見出すんだあいつらは!
「最後は絆さんですよ」
「はいはい」
なんかみんなの中で割と汎用的なのを引いちゃったなー……既にどんなのかわかっているからドキドキは無いな。
と本を開くとズモモ……っと騎乗ペットが現れた。
……なんか見上げる位に大きい……二足歩行のウサギが出てきた。
目が大きくてかわいく見えるけど……さ。
法衣を着てて片腕には錫杖を持ってる。
動物のウサギじゃなくて、ウサギ獣人って感じのどっしりした体系してないか?
「……」
俺と騎乗ペットの視線が交差する。
サッと俺は他プレイヤーが乗っているウサギに目を向けてから自分の騎乗ペットに再度視線を向ける。
「釣りマスターの騎乗ペット、ウサギだけど違くね?」
「モッフモフで良いな」
「どうやってあれ騎乗すんだ? 肩車か?」
俺も思った疑問を他プレイヤーたちが言った。
よく見るとペックルの笛とこの本がなんか共鳴しているような光り方をしている。
領主だからか何らかのボーナスが発生して入手したって事か!?
「絆殿も当たりだったでござる下げて上がる酷い裏切りでござる!」
「騒ぐな! こっちはどうやって乗るか悩んでんだぞ! 肩車とか微妙にリアクションに困るだろ!」
わははーってなんか微妙に乗りづらい事この上ないだろ!
なんて闇影にツッコミしながら騎乗ペットに近づくと片方の手を程よい所まで下げてきた。
……これに足を引っかけろって事?
とは思ったのだけどなんかステータスに騎乗アシスト画面が出た。
え……その乗り方?
差し出された手に座るとウサギはそのまま俺を親が子供を抱きかかえる感じで立ち上がった。
とりあえずこの乗り方が正しいらしい。
「うわ……釣りマスターの外見から超似合うな」
うっさい!
ペックルの笛で騎乗を続けてやろうかコラ!
あれは水辺専用だが!
「お兄ちゃん、すごくファンシーだね」
「やかましい!」
「タフガイと少女」
しぇりるがポツリとつぶやいた。
ああ……このウサギがムキマッチョの男性で俺がこうして抱きかかえられてたら確かにそれっぽいかもな。
「えー……絆さんの乗り物さんは個性的ですね。速度とかどうなんでしょう?」
言葉を選ぶように硝子が聞いてくる。
ふむ……と思いつつ前進を意識すると騎乗ペットはのっそりと……いや、速い!
俺を片手に持ったまま硝子たちの騎乗ペットと同速で動いている。
スキップするような歩調というのが正しい。
「速度は同じみたいですね」
「闇影、本当にこれが羨ましいのか? 正直、あんまり乗り心地良くないぞ」
普通に鞍に乗れる闇影の方が無難な代物に見えなくもないぞ。
なんか抱きかかえられているから安定感が無いし。普通に肩車とか背中に乗って四足移動じゃないのかとツッコミたい。




