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スピリットペア

「前線組にいたっていうのは本当みたいだな」


 俺はポツリと呟いた。

 戦闘になった際の硝子は先程とは打って変わって鬼人の如く迫力がある。

 それもペアになった事による安全度から来る物だと本人談。

 何より扇子の攻守一体攻撃の間を縫ってアイアンガラスキで切り掛かるのも楽で良い。


「疑っていらしたのですか?」

「半分な」

「酷いお方です」

「そうは言っても本人の証言だけで、実際に見てきた訳じゃないからな」

「では、今は信じてもらえますか?」


 そこは素直に頷く。

 扇子は敵の武器を間に挟み、耐久力の低い武器ならば横に力を込める事でポキっと折れる。刀剣類だとその確率が上がる所を見るに剣に対するアンチ武器かもしれない。

 しかしそれを実現するには相手の武器を受け止める必要がある。そんな神技を迷い無く防御、武器破壊の流れに持って行く動作がまるで舞っているかの様に見える程、硝子の動きは洗練されていた。

 ほんの二週間前までこのゲームの初心者だったとは思えない。


「絆さんはこれまで何を?」

「最初の街でずっと釣りをしていた」

「釣りですか。イワシを頂きましたが美味しかったです」


 目を閉じ両手を合わせて俺を拝んでくる。

 いや、俺に手を合わせられてもな……。

 ともあれ硝子とパーティーを組むと戦闘が安定した。

 お互いスピリットなので攻撃を受けない様に戦う配慮も自然とできる。


「そういえば硝子は解体武器で知っている事ってあるか?」

「化け物さんが落とす道具に追加があると聞き及んでいますが」

「そうか」


 さて、どうするかな。

 俺の周囲にはフレイムコンドルの死体が転がっている。

 解体すれば程々に良さそうな物を獲得できそうだが。

 何よりも戦闘中にモンスターがやって来ても硝子なら倒しきれる。プレイヤースキルだけなら確実に硝子の方が上だ。安心して護衛を任す事もできる。

 ……遅かれ早かれ誰かが気付くだろう。ばらされたとしても問題ないか。


「くれぐれも秘密にして欲しいんだが、解体武器には世間で広まっていない隠し効果があるんだ」

「その様なものが……一体どういったものなんですか?」

「ああ、ちょっと見ていてくれ」


 俺はアイアンガラスキでフレイムコンドルの右羽根を切り取る。

 すると硝子は口を挟んできた。


「絆さん。例え化け物でも死者に鞭を打つ行為は感心しません」

「違う。良く見ていてくれ」


 俺は簡単に解体していく。

 すると炎の羽。燃える羽根、鳥類の骨、コンドルの肉。

 四種類のアイテムに変化した。


「まあ! 絆さんは命を大事にするお方なのですね。函庭硝子、感心いたしました」

「……?」


 まるで真逆の事を呟く硝子。


「命を奪うのは……はい。生きているのでしょうがない事ですが、その命を最後まで無駄にせず扱う事は素晴らしい事です」

「そういう意味か」


 どこぞの和尚様みたいな事を言ってのける硝子。妙に威厳があって納得してしまった。失礼かもしれないが『お米はお百姓さんが一粒一粒心を込めて――』とか素で言い出しそうだと考えていた。

 何気なく当然の様に頷いているが、こういうタイプってゲームとかするイメージじゃないよな。こう、お嬢様校とかで優雅に暮らしてそうというか。

 まあ趣味は人それぞれなので文句は言わんが。


「こういう訳で本来の使用用途が伝わってないんだ」

「なるほど。これは予測ですが、解説に問題があるのではないでしょうか」

「というと?」

「はい。解体武器は解説で『武器説明……生物や植物などを解体する為に作られた武器群。モンスターを倒した際にアイテムをドロップする』と記入されていたので、説明不足だったのではないでしょうか」


 確かに硝子の言葉通り、あの解説文はちょっと説明不足だ。

 あの解説では倒したモンスターが落とす。みたいに通じてしまう。

 おそらく攻撃箇所から判定があるのだろう。例えば今回倒したフレイムコンドルならば羽根を付け根から切り落とす、みたいな感じだ。

 実際の戦闘中に実践するには想像よりも遥かに難しい。

 あの鳥、結構早く羽ばたいているしな。


「事情は概ね把握しましたが、どうして秘密なんですか?」

「当然誰も知らないという事は、得になるからだ。現に今このアイテムを売れば高く売れるはずだろ?」

「ですが世間にこの事実を公表すれば人様の役に立てるのではないでしょうか」

「硝子、お前を使い捨てにした奴等にご丁寧に教えてやるのか?」

「……なるほど、教えたくありませんね」

「えらく納得が早いな」

「私は聖人君子ではありません。好意を寄せる方と寄せない方がおります」


 ちょっと意外だった。

 まあ俺も嫌いな奴に進んで親切にしようとは思わない。

 むしろ嫌がらせをしようとまではいかなくても、可能な限り会わないで済む様に心掛けるに違いない。つまり硝子にもそういう心理が該当するという事なのだろう。


「わかりました。二人だけの秘密にしましょう」

「そうしてくれると助かる」


 思ったよりも理解が早くて助かる。

 硝子は俺が想像するよりも遥かに物分りの良い。頭の良い子なのかもしれない。

 そういえばもう一つ、頭が良さそうな要素があった。


「所で武器解説、全部覚えているのか?」

「はい。私、説明書などは熟読する性質なんです」


 付き合いは短いが、それはなんとなく分かる。

 説明は難しいが、外見とは違って携帯電話とかパソコンとか普段使わない知識まで知っていそうな、使いこなせている印象を受ける。


「では、売却時には数を減らし、一部は保管して、あるいはお店に売ると良いのではないでしょうか」

「突然流通量が増えれば勘付く奴も出てくるだろうしな」

「しかし、私は幸運かもしれません」

「そうか?」


 むしろ二週間分の努力をボス戦で使い切り、仲間も失った所から不幸だと思うんだが。

 俺だったら一回不貞寝するレベルだ。


「数少ない同胞の方、しかも絆さんの様な方と知り合えたのですから。これは離脱を促した方々に感謝しなければいけませんね」


 硝子は『実際はしませんが』と付け加え、柔らかな笑みを溢す。

 なんというのか、こいつ天然のタラシ臭を感じる。ちょっとドキっと来てしまった。


「ですが絆さん。女の子なのですから言葉はもう少し選んだ方が良いかと――」

「…………はぁ。そこからか」


 俺は自分が訳あって外見は女の子だが中身は男である事を説明し、できれば男として扱って欲しい旨を伝えた。

 結局話が付いた頃には陽は傾き、夕陽で辺りは紅に染まっていた。


 補足だが、二人で狩りをしたという事もあるがエネルギー効率が今までとは比べ物にならない位上がったので硝子様々としておく。



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