湿地帯
作戦開始のタイムカウントが表示される。
「もうすぐ開始か」
「みたいですね。皆さん、しっかりと準備は整ってますか?」
「もちろん、カニポーションも十分あるし、できる限りの装備も整えたよ!」
「準備万端でござる」
「そう」
さて、今回のイベントはどうなるかって所だな。
おっと、クリスとブレイブペックルを忘れちゃいけない。
ちなみにブレイブペックルは入手した様々な素材を渡すことで強化される特別なペックルであり、アルトが露店で見つけた見慣れない素材とかもついでに渡して強化されている。
そういえばアルトの目利きとかの技能って見たことがない素材とか鑑定物などを所持したりなんかで向上していく代物なんだとか。
色々と上手い事アルトも自身の強化をしているって事なんだろう。
なんて思っていると残り時間が0になり、魔王軍侵攻を退けるクエストが始まった。
スッと戦場の自軍エリアに飛ばされた。
湿地帯……か?
なんか水たまりが無数にある奇妙な戦場フィールドっぽい。
遠くを見ると反対側のフィールドになんか無数の魔物らしき連中がこっちに向かって来ようとしているのがわかる。
ルール的には防衛戦で、俺達の背後にある関所と防壁を壊されないようにしなきゃいけない……らしい。
そして防衛をしながら魔王軍の大将を倒せばクエストクリアになる。
作戦自体はシンプルだよな。
なんて思った所で上空から強い雨、スコールが30秒ほど振る。
なんだ?
雨自体はすぐに止んだし、特に何かある訳ではないようだ。
「じゃあまずは人員に関してだが……」
と、そこで前線組でアルトの仲介で割り振られたらリーダーになると決められた奴が手を挙げている。
「お? そこにいるのは釣りマスターじゃん」
リーダーが俺を見つけて言った所で周囲の視線が集まる。
「基本釣りしかしてないし戦闘に関してはそこまで強くはないけどよろしく。前回のディメンションウェーブでは言うまでもなく金に物を言わせたごり押しなのは理解してる」
「と、釣りマスターは謙虚なご様子。みんな、成功者だからってあんまいじめたりすんなよ」
ハハハと軽い笑いと拍手が起こる。
雰囲気は悪く無さそうだ。
「それと死神忍者も一緒か。こりゃこのエリアは当たりだな!」
……と死神とあだ名があった忍者に視線を向ける。
そこには言うまでもなく闇影がそこにいた。
雰囲気的に死神の名の由来を彼は知らないようだ。
「……絆殿と一緒の戦場でござるな」
リーダーの言葉はスルーして闇影が俺に声を掛けてくる。
「硝子や紡は?」
「見てないでござる」
と言う所で硝子からチャットが来た。
「絆さん絆さん、聞こえますか?」
「ああ、聞こえてる。もしかして別の戦場に出たか? なんか俺は湿地帯っぽい戦場だ」
「みたいですね。こっちは荒野みたいな戦場のようです。紡さんと一緒です」
紡とか~、戦力偏ったな。
硝子か紡が居れば楽だったんだけど。
「しぇりるは?」
「こちらには居ません」
と言う訳で俺はしぇりるにチャットを送る。
「……そう。さ、ばく。別フィールドに出た」
「パーティーメンバー内じゃ別々になったが大丈夫か?」
「……そう」
これは大丈夫の時の『そう』だな。
「ロゼ居た」
ああ、それなら安心か。
あいつは紡と元パーティーを組んでいた前線組だしな。
今回もイベント開始前に軽く話をしたが特に引っかかるような人柄はしてなかったし、むしろ紡がのびのびと楽しんでくれていてうれしいねとも言っていた。
まあそれなら安心なのかもしれない。
奏姉さんの方はどうなってるかは……まあ後で聞けば良いか。
見たところこっちにも硝子達にもしぇりるの所にもいないみたいだ。
なんて感じで親しい連中とチャットをしていると作戦リーダーが手を挙げる。
「みんなが所持してる一番攻撃力の高い武器の得意な敵を教えてくれないか? ちょっとその辺りで検証が話されてる」
条件分析か。
俺が持っている武器で一番攻撃力の高い武器って青鮫の冷凍包丁<盗賊の罪人>だ。
「釣りマスターは……水属性っぽいよな」
「冷凍包丁、凍った魚を切る武器が一番攻撃力が高い」
「なるほど、死神忍者は……闇魔法?」
「最近は雷魔法のレベルを上げてるでござる!」
「ありがとう。なるほど……法則が掴めて来たぞ。どうやらそれぞれ所持する装備や技能で振り分けられたっぽい」
推測出すの早いな。
この辺りの推測をしていくのが前線組って感じかもしれない。
って考えてみると硝子の持ってる要石の扇とか土属性に対して有利に戦える。
ただ、その理屈だとしぇりるは俺達の方に来るんじゃないか?
それだけじゃない要素も介在している可能性は大いにある。
あえてしぇりると戦場が被らなかった理由を考えると防具だろうか?
なんか海軍貴族風の恰好をしてたし、あの装備……どんな耐性があったっけ?
水耐性高そうと思ったけど実は別の耐性が高かったのかもしれない。
「みんなディメンションウェーブの時と同じくマップ表示を見てくれよ」
A
B
C
D
E
1 2 3 4 5 6
「俺達がいるのはCの1周辺だ。で、魔王軍ってのはどうやら6からずらーっとやってくる。普段一緒に戦っている奴じゃない見知らぬプレイヤーがいるかもしれないがしっかりと陣形を組んで出てくる敵を倒していくぞ!」
「とーぜん!」
「たまにはこういうことをしないとなー」
「このイベントをクリアしてさっさとビザランクあげねーとな!」
とプレイヤー達はやる気を見せている。
「じゃあ前のディメンションウェーブで好成績だった奴らを指標に振り分けをするからしっかりと動いてくれよー」
ふと気になったのだが、ディメンションウェーブ時にいつも全体チャットで指示を飛ばしていた人の声が聞こえない。
あの人も別戦場なのかな?
……よくよく考えてみるとあの指示を出す人の名前を知らないな。
まあ、今度のディメンションウェーブ辺りで確認すればいいか。
なんて思いながらリーダー格の人の指示に従ってプレイヤー達は各々陣形組む……というか攻撃やタンク、ヒーラーなんかと割り振っていく。
訳だけど……リーダー格はいつまでも俺達に声を掛けない。
理由はわかるけどな。
「俺達は?」
「釣りマスター一行は遊撃。どこでも一騎当千だろう。そもそもスピリットだからヒーラー預ける意味は薄いしな」
シールドエネルギー分は回復魔法やポーション類で回復するんだけどな。
それ以上は回復しないエネルギーだからなー……。
運用に困るか。
スピリットの長所にして短所だ。
「一騎当千の猛者。それは硝子と紡と闇影であって俺じゃないんだが……」
「拙者も交じっているでござるか!?」
そうだろ。
お前、自分の戦績を思い出せよ。
どうやったらそのスキル構成でそこまで好成績出せるんだよ。
「とまあ忍者がなんか言ってるが気にしないでくれ。俺もできる限りの範囲で動く」
釣り竿と解体武器、それと今は罠と弓があるから……サポートはどうにかなるだろ。
「期待してるぜ釣りマスター、いやペックルマスターか?」
その名前で通っているの? ペックルマスターって……。
まあいいや。
俺達は遊撃で闇影と二人……新しい出会いはなかったようだ。
ペックルマスターはペックルを出すペン。
「ブレイブペックルとクリスを出して……あと、僧侶ペックルと戦士ペックルを出せばいいな」
僧侶帽子をかぶったペックルと兜着用のペックルを呼び出す。
ブレイブペックルとクリスもいて、ここに俺と闇影……なんかパーティーが完成してしまった感がある。
「絆殿……拙者達は新しい出会いは無いようで安心でござる」
コミュ障忍者め……とはいえ、実際は半製造の釣り人なので前線組の足は引っ張るだろう。
遊撃ぐらいが無難で闇影のサポートに徹しよう。




