臨時パーティーイベント
「で、絆くん達はどうするんだい?」
「そりゃあ参加するよ。ミカカゲに行けば良いみたいだしな」
「蟹工船をやらされるよりは良いでござる!」
「うん!」
確かに。
俺はこういうローテーションは嫌いじゃないけど、こういうイベントが発生したならそっちを優先する。
そもそもカニ籠は一定時間仕掛けられる事が利点なんだし、後で取りに行けばいいさ。
「皆に付き合った俺への対応が冷たいなー結構一緒に居たのに」
「もう絆殿はずっと釣りをしていればいいでござるよ!」
「お兄ちゃんも結構ヤバイよね」
「その絆さんから色々と高級料理を貰ってパクパク食べていた紡さんも色々と凄いと思いますよ」
硝子は結構自重していたもんな。
ウナギとか一般的な量を食べていたし、蟹とかも詰め込むように食べたりしていない。
一番むさぼったのが紡だ。
文句を言う権利はあるが、俺が文句を言える程度に堪能しただろう。
「まあ、いい加減にしないと皆に嫌われるので俺が最近一人でしていた事を知ってもらうのはこれくらいにするとしよう」
「……」
しぇりる、その沈黙はどういう意図なんだ?
「飽きもせず一人で黙々とこれが出来る絆殿は凄いでござるよ」
「無駄だと思う事に力を入れるって大事だろう? 効率だけを考えているなら最初からゲームなんてしないさ」
「ぐっ……絆殿に言い返せないでござる!」
闇影もなんだかんだでゲーマーなのだろう。
ゲームを楽しむ、という前提は理解してくれた。
「しぇりるさんはケロッとした顔をしていたので、職人技能を上げているプレイヤーと戦闘好きのプレイヤーとの違いかもしれませんね」
「拙者達は何だかんだ戦う事に夢中なプレイヤーって事でござるか……」
硝子の言葉は素直に受け入れるのな、闇影。
「ロミナさんやしぇりるさんには感謝しないといけませんね」
「僕は?」
「俺は?」
「感謝されるように行動してください」
あらら……何事も限度があるという事らしい。
同じゲームをプレイする者同士でも感性は人それぞれなのだ。
「まあ、絆殿のお陰で罠を発見する技能条件も満たせたでござるし、損ではないでござるが」
「乗っている時間が長いから船や海関連の技能も上がる」
フォローも入る所が闇影の良い所だな。
そんな感じで強く咎められる事はなかった。
みんななんだかんだで楽しんではくれていた様だ。
「それじゃあ、一旦カルミラ島に戻って、装備を整えたらミカカゲに行くぞー」
「おー!」
こうして俺達はカルミラ島を経由してミカカゲへと一路向かったのだった。
「魔王軍討伐クエストってどこで行われるんだ?」
ミカカゲに到着した俺達は港からイベントに参加するための場所を探しに行く。
「あ、なんか関所に人が集まってるよ。あそこじゃない?」
沢山のプレイヤーが見慣れない看板とNPCに集まっている。
俺達も近づいて確認するとやはり今回のイベントに関する説明をしているようだ。
NPCの話でわかったことは魔王軍の侵攻が残り二日ほどまで迫っていること。
フィールドが四つに分かれていて、迫りくる魔王軍の進軍をプレイヤーは四手に別れて防衛するという事らしい。
このフィールドには入る際、パーティーを組んでいても別のフィールドに出てしまうことがある。
一度決まったフィールドからは別のフィールドに行くことはできない。
出てきた魔王軍を討伐できればクエストはクリアになるみたいだ。
「固定パーティーだけじゃなくて、臨時でパーティーを組まないといけないってイベントみたいだね」
「稀にあるよな。こういう出会いを重視するイベント」
オンラインゲームでは稀にこういった見知らぬプレイヤーとの協力イベントというものが存在する。
見知った固定の仲間達との冒険を楽しんでいるけど、その代わり新しい出会いをしないプレイヤーの為の非常に面倒なイベントだ。
新たな刺激は他のプレイヤーとの出会いもあるって事なんだろう。
思えば俺達は一緒に行動するようになってからは固定パーティーで楽しんでいる。
大体はカルミラ島が原因だけどな。
「絆さんと一緒に戦えない可能性もあるんですね」
「そうなる。だけど上手く戦える自信は無いな」
少なくとも俺は正面戦闘に関して得意とは言えない。
前衛の硝子や紡の補佐的に弓矢や釣り竿を振るって攻撃する事ばかりだ。
もちろん最近は解体武器でそこそこ戦えるけど、武器の性能で誤魔化している面は非常に大きい。
格下相手ならどうにかなるが格上が相手だとエネルギーは赤字を覚悟しなくてはいけないだろう。
避けるのとかあんまり得意じゃないしな。
VRのゲームってヴァーチャルの世界で身体を動かす関係か、アクション要素が重要な事が多いんだ。
まあせっかくゲームの世界で凄い体験が出来るのに、普通のRPGみたいにモンスターを攻撃した時に命中率が低くてミスとか出たら雰囲気がぶち壊しなのはわからないでもない。
ディメンションウェーブもその例に漏れない。
残念ながら俺のプレイヤースキルだと硝子や紡みたいな動きは期待出来ないんだ。
ちなみに初期のVRゲームでは、軽く触れただけでダメージ判定が入り、小刻みに武器を当てるのが効率的な方法、というゲームもあったらしい。
その辺りはジャンルが成長する過程で淘汰されていったみたいだが。
「もしみんなと別のフィールドに出たら拙者無言で戦うでござる」
コミュ障忍者が断言してしまった。
そういえば闇影って自称コミュ障なんだっけ。
そこは臨時でパーティーを組むとか考えようよ。
「……そう」
……察する事を要求する会話が面倒な奴がもう一人。
こっちは日常会話はチラホラできるけど、どうも早口だと処理に時間が掛かるみたいなんだよな。
「お兄ちゃんの場合は一人になってもペックルを呼んで戦えそうじゃない? みんなペックルを連れてるし」
まあ……みんなが連れてるペット枠がペックルであり、普通は一匹の所を俺はそのペックルを大量で呼び出せる。
連携ができない臨時の仲間とかよりも役に立つかもしれないのは事実か……問題は俺は戦闘がそこまで得意ではないという所だけど。
ただ、確かにペックル達を盾に、ブレイブペックルに前に立ってもらえばそこそこどうにかなるかもしれない。
そもそも最近は罠とかも使うようになっているし……上手く行くことを祈ろう。
「うむ……とりあえず回復薬とかの商品は多めに並べて置くのが無難だね」
アルトは徹底して商売特化なので戦場には出るつもりはない様だ。
この辺りはいつも通りだな。
「少しでも見知った相手が戦場で会えるように死の商人も参加したらどうだ?」
「はは、挑発には乗るつもりはないよ。そもそも僕が戦場に出たらこれ幸いにMPKを画策するような連中も出てくる可能性があるからね」
まあ、確かに。
というか恨まれている自覚はあるんだな。
「よくわかってるね」
「そうでござるな。正直、ここに来るまで船で踏み切り板をさせるか議論したくらいでござる」
いつのまにかアルトの処刑が議論されていたらしい。
「四面楚歌だな、アルト」
「知らないなー」
面の皮の厚い商人だ。
本当、こいつには隙を見せてはいけないというのが知れば知るほどわかる。
「準備をしなくてはいけないのはわかった所だね。それでクエストとはどこでやるんだい?」
今回はロミナも同行している……というかクエストでロミナが何か作れる代物が増えるかもしれないので急いでミカカゲのクエストを受けてクリアしてもらう事になった。
大規模イベントだし、出来るだけ装備を充実させておきたい。
「ルールもわかった事ですし、急ぎましょう」
「アルトはしっかりと準備をしてくれよ。そのために雇用しているようなもんなんだからな」
「もちろんだよ。個人的な商売以外のビジネスに関して手を抜いては何にもならないからね。ついでに他プレイヤーの情報収集もして、上手くイベントを達成できるように根回しをしておくさ」
この手のイベントに関する信用は出来るか。
もちろん旨味がある部分はしっかりと独占するって算段なんだろう。
「では行きましょう」




