上手い人の模倣
「それを何故、拙者達がやらされているのか聞いているのでござる!」
確かに闇影の言い分もわからなくもない。
妙に付き合いが良いな、と思っていたんだけどクエストだと思っていたみたいだしな。
「いや、なんかすまないな」
「ううん、大体あの死の商人が悪いんだし、いいよ」
おお、妹が許してくれた。
アルトが悪役を引き受けてくれている様だ。
というよりは俺のゲームスタイルを理解しているからだろう。
「とは言っても、小規模ではあるけど僕達の模倣をしている人達も結構いるんだよ?」
アルトが話題を反らそうとしているのか、他プレイヤーの話を始めた。
先程もアルトが言っていたが、ディメンションウェーブはMMOだから強い人や金持ちのマネをする人は多い。
その方が早く強くなれるし、お金も稼ぎやすいからだ。
当然ながら良い狩場や強いスキル、便利なアイテム、装備はすぐに発見されて、みんなが使い始める。
取得方法が特殊なスキルなんかも結構広まっているそうだ。
このカニ籠漁もここまで大規模なモノは金銭的に難しいが、マネして金策している人がいるらしい。
スキル構成なんかもそうだ。
硝子とか紡とか強いプレイヤーとして有名だから、扇や鎌に転向するプレイヤーもいるんだとか。
そして推測が簡単な武器タイプだとすぐにスキル構成が広まる。
まあ、この二人の場合、プレイヤースキルに依存している部分が多分にあるので俺としてはあまりオススメしないが、上手いプレイヤーのマネをしたくなるのは人の性だよな。
逆にマネされないタイプというと……闇影だな。
俺達のパーティーの魔法担当な訳だが、同じレベルやエネルギー量になった時、闇影は明らかに平均より戦闘力が低くなってしまう、玄人向けなスキル構成をしている。
所謂ネタビルドって奴だ。
それでも硝子達と一緒に戦えているからマネする奴が結構出てくるんだけど、維持出来ないか、弱くてやめるパターンだな。
あれ? そう考えると闇影って結構凄いんじゃ……。
「僕としては良いんだけど、これでネットとか攻略サイトが見れたら楽なんだけどね。逆に情報の伝達が遅いからこそ儲けが出る部分もあるんだけどね」
このゲームはログアウトして攻略サイトを見に行く、とか出来ないもんな。
都市とかに掲示板があってスレッドみたいのがあるんだけど、そこの情報もネットの利便性に比べたら微妙だ。
「だからって転売ばかりはダメ」
と、能弁を垂れるアルトにしぇりるのツッコミが入る。
コイツ、転売しまくって金稼いだしな。
まあそれが犯罪って訳じゃないグレーラインだからしょうがないとは思うけどさ。
それでも印象はあまり良くないよな。
特にVRゲームだと実際に顔を合わせる手前、争いになりやすいし。
「しょうがないじゃないか。僕にとって暇があれば露店街を散策するのが絆くんの釣りみたいなものなんだからさ。明らかに相場より安かったら必要無い物でも買うよ」
う~ん、やはり咎められない微妙な発言だ。
別に不正をしている訳じゃないしな。
アルトが頻繁に露店街を歩き回っているから装備やアイテムが安く手に入るんだし……そういう楽しさもあるんだろう。
というか、そんな事をやっていたのな。
アルトも何だかんだでマメな性分なのかもしれない。
経験値も熟練度も稼げないという意味では、露店街を散策するメリットが金策なんだろう。
「でもカニはもういやー!」
「絆さん!」
硝子も甲板からやってきて抗議の声をあげている。
そろそろ潮時か。
ちなみにしぇりるはこの事を察していた。
まあ、白鯨が好きなしぇりるなら察するのは早かったのかもしれない。
あれもある意味……蟹工船だし。
その手の関係者が顔を真っ赤にして激怒しそうな海洋動物の捕縛をしたがっていたのでアルト側に属する。
内心、今も出てこないか探しているだろう。
次元ノ白鯨以外は今の所いないんだよな。
「ふむ……紡くん達にはカキでも食べてもらおうか。ほら、生ガキもあるよ!」
「カキ!?」
我が妹は単純である。
そう……カキも獲れるのだ。
養殖もあるので、もう少しでカキバイキングも出来る。
おそらく海鮮バイキングが出来る様になるぞ。
「騙されちゃダメでござる! カキは美味しいでござるが、食べたい時に食べれば良いだけでござるよ! なんで獲る側なんでござるか!」
闇影は我に返るのが早いな。
美食は知るが飲まれないのが闇影の長所なのだろう。
「残念だね、絆くん」
「よく持つなとは思ってた。ちなみにフィッシングマスタリーの熟練度も少し上がるんだぞ」
「こんなので上がりたくないでござる! 仲間を増やそうとしても無駄でござるよ!」
そうか……残念だ。
後輩が欲しかったんだがな。
尚、やる気さえあればみんなで釣りに行ける程度には熟練度を稼げたはずだ。
「それじゃあしぇりるもやってみたいと言ってた魚竜退治でもするか。もう少し素材が欲しいだろうし」
蟹取りをしている合間に魚竜を皆で戦って倒したりしてガス抜きはさせた。
しぇりるが銛で勇猛果敢に戦っていた。
もちろん硝子と紡にも手伝ってもらったぞ。
いやぁ大きな魚の竜だったから口にルアーを引っ掛けたら案外、動きを弱らせられた。
ちなみに肉の味はウナギに似ていて紡も満足してたぞ。
魚竜装備ってどんな性能をしているのかロミナに聞いて誰のを作るか楽しみだな。
「アルト殿を舳先に括りつけて餌にしたいでござるよ!」
「賛成!」
「まあ、それくらいは良いんじゃないか?」
「絆くん!?」
何故かアルトが否定的だ。
自業自得がアルトだろう。
「絆殿も同罪でござる!」
「まあ結果的にそうなるのか」
知らなかったとはいえ、貴重な数日をクエストでも無いのに蟹工船で潰したと考えると、そう言われる気持ちはわかる。
まあアルトと一緒に船首像になるのも別に良いが……。
「事情が事情なので不快ではないですが……」
硝子の言いたい事も分からなくもない。
なんておふざけをしていると……。
『ミカカゲ国からの緊急通信です』
「お? なんだ? イベントか?」
サーバーチャットが聞こえてくる。
カルミラ島がオープンした時と同じ奴だな。
「第二のカルミラ島を達成したプレイヤーでも出たんじゃない?」
「ミカカゲから?」
あの国にねー……そうなるとこっちはやっと静かになるか?
俺達も観光気分で行ってみるかね。
『現在、ミカカゲ国に魔王軍の侵攻が確認されました。ミカカゲ国も魔王軍の侵攻に対抗するために軍を編成しておりますが数が足りません。どうか冒険者の皆様、お力添えをお願いできないでしょうか?』
「あー……これって多分、ディメンションウェーブみたいな感じの大規模イベントだよ。魔王軍討伐クエストって所じゃない?」
「たぶんな。これをクリアすればプレイヤーが普通に入れる様になるって所か?」
『協力して下さった冒険者の皆様には戦果に応じてビザのランクを上げさせて頂きますので、どうかご参加お待ちしております』
って声が何度か発せられる。
「ビザのランク上げるって……関所を越えられる程度か……」
「一般プレイヤーはまだ第一の関所を越えた所で四苦八苦してる所だよ? 絆くん達が足早過ぎるんだよ。むしろ僕がせき止めているせいでもあるけどね」
ああ、カルミラ島の交流クエストをほぼ俺がクリアしてしまった弊害か。
俺達でもクリアできる程度の受注クエストなのが問題だろう。
それにミカカゲに出入りできるようになって二週間程度なんだ。
すぐにクリアできるようには作られていないだけでしかない。
現に魔物に関してはそこまで強さは繰り上がっていないしな。
「船に戻ってくるまでに第二の関所辺りに他のプレイヤーいたよ。たぶん、あれが前線組だと思う」
お祭りの中継街の前……川のある中継街辺りにもう他のプレイヤーが来てるのか。
前線組の攻略速度もバカに出来ないな。
あれで戦闘特化だからレベルとか高いだろうし。




