ブラッドフラワー
「解体武器でチャージ系のスキルみたいだ」
「へー」
「チャージって言うと硝子が良くやっているスキルに多いよな」
「そうですね。しっかりと溜めると強力ですから絆さんも使って見てはどうでしょうか?」
「うん。実験は大事だな」
と言う訳で早速取得。
「今回のクエストは何匹討伐すれば良いんだ?」
「えっとね。パーティーで50匹倒せば良いみたいだよ」
地味に多いな。いや、ポップするんだからそんなに多くもないか。
「じゃ、新スキルの試し打ちも兼ねてササっと次に行くぞー」
「おー! でござる!」
なんて感じで洞窟を移動すると悪行河童とアイスモンキーがまた出てきた。
早速新スキルの試し打ちをする事にした。
ブラッドフラワーを意識すると冷凍包丁に光が集まるエフェクトが発生する。
ピュンピュンっと効果音まで聞こえてきた。
ああ、硝子は何時もこの効果音を聞きながらタイミングを確かめているんだな。
で……硝子の戦い方から察するに溜めながらも往なしたり軽く通常攻撃は出来る。
「お兄ちゃん。まだー?」
足止めをしている紡が催促をしてきやがる。
「もう少しだ。硝子と一緒に戦っているんだからタイミングはわかるだろ」
「そうだけどー」
キン! って音がして最大まで溜まったのを確認。
「よし! 行くぞ! ブラッドフラワー!」
と、発動すると体が勝手に加速し、狙っていた悪行河童に向かって突撃、ズバァっと斬る手応えと共に気付いたら悪行河童の後ろに居て両腕を上げていた。
ザシュッと言う効果音が聞こえたぞ。
「おおおー!」
「派手でござるなー! カッコいいでござるよ!」
「ええ、絆さんもやりますね」
「いいねーお兄ちゃん!」
振り返ると悪行河童に血飛沫が発生し、まるで血の花を咲かせている様なエフェクトが発生していた。
随分と派手な技だな。
「ギャ――!?」
で、悪行河童がバラバラに斬り裂かれ、解体されて素材をドロップした。
「フィニッシュ技の様でござるな」
「解体の手間が省けて良いな」
その分、コストも考えないといけないけれど。
パチパチと皆が祝ってくれる。
そうしている内に目標数の討伐も終わりそのまま惰性で狩りをして、キリの良いタイミングを見て街に戻った。
日も暮れてきたと言う事でその後は宿で休む事にし、みんなで思い思いに休息を取る。
のだけど、俺は橋の上で相変わらず釣りをしている。
ここの主は何だろうな。
「お兄ちゃん。悪行河童のクエストが進んだよ。なんかね。洞窟内に悪行河童の親玉がいるから倒してくれだってさ」
で、皆で晩飯を食べた後、釣りをしていると紡が報告に来る。
なんだ? 面白い事はもうないぞ?
ちなみに晩飯は河童鍋にした。すっぽん鍋と同じ感じの料理扱いだったな。
闇影が微妙な顔をしていたけれど、すっぽん鍋と同じ味だと言っていた。
食った事があるのか。
闇影っていろんな物を食ってるなと思った。
尚、尻子玉も闇影に食わせたぞ。コリっとして不思議な食感だった。
「本当、お約束のクエストだな」
「そうだねー」
「既に次の関所を越えるだけのポイントは稼げたみたいなのですが、後味が悪いので河童たちのボスさんは倒すべきですね」
硝子は親玉退治の依頼をしてから次に移動したいか。
ま、良いんじゃないか?
「俺はここの主を釣ってから次に行きたいがな」
「何時釣れるか分からないから次に行くのが遅れそうですね」
「いや、次の街とかに行けるならそっちを拠点にすれば良いさ。あっちにも釣り場があったら考えるけどさ」
移動費自体はそこまで掛らない。
出来る限りは皆と狩りを楽しみたいからな。
「気を使って頂き、ありがとうございます」
「それはこっちのセリフだよ」
未知の釣り場が俺を求めている!
そう思いつつ、ここの罠で釣れた魚を分析する。
ヌシアユは第二都市で釣れているからヤマメとかその辺りだろうか?
釣りの勘が告げている。周囲の状況から渓流の魚じゃない。
ニジマスかウナギ辺りが怪しいな。
ウナギ釣り用の仕掛けを施そう。確かシンプルに餌釣りで引っかかる。
夜釣りが無難だ。少し徹夜になるが夜釣りに挑戦してみよう。
「じゃあこの釣り場の主を求めて俺は夜釣りをするから」
「わかりました。じゃあ隣で見てましょうかね」
「硝子達は頑張っていたから早めに休んでいて欲しいんだけどな。キリの良い所で切り上げて俺も寝るからさ」
一応俺が上手く立ち回れたのは硝子達が上手に敵を引きつけて攻撃を逸らしてくれていたからだ。
ディメンションウェーブにおいて肉体的な疲れは感じないけれど、精神的な疲れは十分にあるはず。
そう言った面で硝子達にはゆっくりと休んで貰いたい。
「絆さんがそこまで言うのでしたら……では、宿の部屋からも絆さんが見えますし、見てますね」
いや、見られるのもどうなんだ?
とは思うけれど、ここで突くと面倒なので流す事にした。
一緒に釣りとか頼めばしてくれそうだけど、硝子達も俺への接待で疲れているはずだ。
「お兄ちゃんおやすみー」
「おやすみ」
と言う訳で硝子と紡は先に宿に戻って休んで貰う。
闇影としぇりるも何処かで硝子が声を掛けて部屋で休んで居るだろう。
……釣竿を垂らしていると、宿の部屋から硝子がこっちに手を振り、椅子に腰かけてこちらをぼんやりと見ている。
橋の上でランプを置いているから俺の場所は一目でわかるし。
川の流れを見ていると平和だと感じさせるね。
餌釣りをして数時間。
釣果は上々……やっぱりルアー釣りやフライフィッシングよりも食いつきは良いか。
そもそも夜間のフライフィッシングは色々と危ないしな。
ルアーが何処かに引っかかったりしそう。
「ヒット!」
ヒョイっと釣り上げ成功。
ウナギが釣れた。
やっぱりこの川ではウナギも釣れる様だ。
夜釣りだと釣りやすいな。
もっと数に物を言わせた釣りをすべきか? みんなウナギが大好きだし。
フィーバールアーが使える時だけ釣りをするって手も無い訳じゃないが、その問題は解決済みだ。
そもそも場所によっては戦わねばならない魔物も引き寄せてしまうっぽいし……。
今は気楽に釣りを楽しみたい。
そう言えば紡がうな重を食いながらVRMMOにおける料理の味に関する話をしていたっけ。
ダイエットに使われたりするし、お金の無い人がゲーム内で美味しく料理を食べて食欲を解消するとかそんな話。
ただ、なんかそれで餓死したプレイヤーがいる所為で、既存のVRMMOでは味に制限が掛ってるとか聞いた覚えがある。
まあディメンションウェーブは現実でのプレイ時間は数日以内なんでその心配は無用って事で味がしっかり再現されているのかもしれない。
なんて感じに釣っていると……ガクン! っと一際強い引きが来る。
「お?」
なんだ? 何が掛ったんだ?
そう思いながらリールを巻いて行く。
スタンショックを同時に作動させて魚の弱体化を図るのだけどそれでも引きが強い!
これは……もしやこの川の主を引き当てる事が出来たのか!?
キリキリと糸がどんどん持っていかれるが負けじとリールを巻いて行く。
「絆さん。大物が掛ったみたいですね」
そうこうしている内に、宿で見ていた硝子が近くに来て声を掛けてきた。
「ああ、近くに見に来たのか?」
「ええ、手伝いをしますか?」
「いや、今回は大丈夫そう」
「そうですか」
「みんなは?」
「寝てますね。しぇりるさんは何やら機械と木工をしているようでしたが」
そっか……とは思いつつ、硝子が見守っている中で俺と引きの強い主らしき魚との攻防は続く。
水面を見る限りだと……大きな蛇、いや……。
「ああ、ウナギみたいだな」
グネグネと随分と暴れる。
電動リールに張り合うとかどんだけだよ!
だが、地道な電気により大分弱らせた!
「これでトドメだ! 一本釣り!」
バシャっとその大きなウナギを釣り上げる事に成功した。
よっし!
「フィッシュー!」
ビチビチと釣りあげられて跳ねる魚に勝利のガッツポーズを取ると硝子が拍手をしてくれた。
「さーてと……魚影で分かっているけれど何が釣れたかな」
と、確認すると案の定大きなウナギだった。