ウナギ
「お?」
ガクンと良い感じに竿がしなる。
さすがに河童じゃないよな? なんて魚影に目を向けるとしっかりと魚だった。
釣れる魚に不安を覚えるとか……むなしい気持ちになって来た。
俺は本当に釣りをしているのか?
それとさすがにフィッシングコンボは作動しないよな?
ザバァっと引き寄せて釣りあげると……ニジマスが釣れた!
おお……ニジマス、シンプルにニジマスだ。海まで降りるとサーモントラウトと呼ばれるのだろうか?
「レインボートラウト」
「ああ、ニジマスの別名だな」
「そう……ムニエル、美味しい」
「後で作って皆で食べような」
コクリとしぇりるは頷く。
さて……この川で釣れる主は何なのかいい加減考察して仕掛けを考えないといけないな。
ニジマスを収納してから再度釣竿を垂らす。
お? またヒットだ。
ヒョイッと魚を釣り上げたその時……!?
「ギャア!」
パシッと水場の影から青っぽい鳥が飛びだして釣りあげた魚に食いついて飛び立とうとしていく。
「oh……」
いや、何唖然としてんだよ。
くっそ……川でのフィッシングコンボって鳥に魚を横取りかよ。
ギギギっと飛びだって逃げようとする青っぽい鳥との攻防が始まる。
ま……今回は電撃を放てるリールを着けているから弱らせる事は出来るんだけどな。
行け! スタンショック!
バチバチっと糸を伝って青い鳥に電撃が走った。
「ギャア!?」
バチバチっと電撃を受けて青い鳥はのけ反りダメージを受けた。
よし、そのまま一本釣りで引き寄せてフィニッシュ。
ビクンビクンと俺の手元で痙攣して倒れる青い鳥。
……えっと、アイスヘローンって言う魔物みたいだ。
「サギ」
「鳥の?」
「そう」
ああ、もしかして氷のサギって事か?
しかし……フィッシングコンボで鳥を釣る俺は何なんだろうか?
ペックルを釣っているから今更な気もする。
ただ……うん。フィッシングコンボで釣りあげた魔物はそれ以上暴れないみたいだ。
多分、このまま収納出来るだろう。
「絆さん。分かりましたよ!」
なんてやっている所で、硝子と紡がこっちにやってくる。
「ここの主が?」
何処かのNPCが主の情報を教えてくれたりするのだろうか。その可能性を忘れていた。
「違います」
なんだ違うのか。
「お兄ちゃんの方は……なんでアイスヘローンがここに?」
「釣った」
しぇりるがここで短く言うと、硝子が困った様な顔をして紡が笑い始めた。
「魚じゃないですよね。水の中に居たんですか?」
「いや、魚を掠め取ろうとして来てそのまま」
「ああ……なるほど」
「お兄ちゃんの所だと何が起こるか分からないから片時も離れない方が良い気がするね!」
本当、何なんだろうな。
とりあえず面倒なのでそのまま収納する。
「本当に収納されちゃいましたね」
「他のプレイヤーにこの瞬間だけ見られたらどうしたら魔物を収納出来るんだ? って聞かれそー」
確かに。
「絆殿……」
ここでお約束の様に闇影がやって来た。
タイミングが悪いと言うか何と言うか。闇影ってこういうポジションだよな。
「どうしたら動いている魔物を収納できるでござる?」
なんてお約束のやり取りの後、説明をしてから本題であった調査結果を聞く事になった。
「NPCに聞いた話だとね。あの渓流にはガラの悪い河童が生息しているって人がいたよ」
「倒した扱いでクエストが進みましたね。皿を攻撃して割ってから本体を攻撃すると戦いやすくなると言われました」
「進んだって事は別のクエストに派生する訳?」
「はい。なんでも渓流の先に悪行河童の巣があるので、沢山倒してほしいとお願いされました」
「こんなクエストがあるんだね。お兄ちゃんと一緒に行くまで気付かなかったよ」
俺のお陰みたいな事を言われてもな。
「しぇりるは水の中とか興味無かった訳?」
「あんなの見てない」
「出現条件があるんじゃないかな? キュウリを持ってるとか」
「絆殿のルアーが代用してしまったでござるな」
「たぶんな。とにかく、クエストが進んでよかったな」
こんな発見があるのも面白いと言ったら面白い所だ。
「あの河童の強さから考えてもう少し絆さんと狩りをしてからが良いかと判断します」
「好きにして良いさ」
その為に色々と準備していたんだしな。
「早くまた狩りに行きたい気もするね」
「まあ行っても良いんじゃないか? あ、その前にやりたい事があるから待ってもらって良いか?」
「ええ」
俺は徐に橋の下の方に回り込んで仕掛けた物を確認する。
「お?」
俺が仕掛けた代物と言うのは竹筒と呼ばれる魚が逃げられない様にする一方通行の罠漁の仕掛けだ。
その竹筒を確認すると……中にウナギが入っていた。
「ウナギってもっと下の河口とかに生息する魚じゃなかったか?」
流れが穏やかな川下の橋の下に設置したんだけどさ。
まあ、捕れたならそれでよし。
ズルンと竹筒からウナギを出していると硝子達がきょとんとしている。
「絆さん。罠の腕前が上がった様に見えましたが……」
「うん。仕掛け漁があるのが分かってさ。これなら皆と狩りをしながらでも釣りが出来ると思ってさ」
流れの急な方に仕掛けたら何が引っかかるか検証が必要だ。
ここ一週間の検証で釣竿での釣り以外でフィッシングコンボは作動していないからこれもある意味、安全に獲物を確保出来る手段と言える。
トラップマスタリーとフィッシングマスタリーの間の扱いがこの仕掛けだ。
どんどん橋の下に仕掛けた竹筒を確認して行くと……ウナギが三匹引っかかっていた。
他は沢ガニやムラサキシガイって貝が入っていた。
成果は上々かな? 生息図が滅茶苦茶な気もするけど、そこはゲームだからしょうがないか。
「徹底してるねお兄ちゃん」
「これで皆と狩りをしている間にも釣りが出来る様なもんだ」
「あの短時間で結構仕掛けていますよね」
「橋の下に仕掛けがずらっと並んでいるでござる! 景観が悪いでござるよ!」
「ああ、これって仕掛けたプレイヤーとパーティー以外は見えない設定らしいから気にするな」
アルトとこの辺りは検証済みだ。
俺も遊んでいただけではなく、アイテムやスキルの効果などを調べたりしている。
「あ! さっき絆さんと港に合流した時に船に何か違和感があるのはこれだったのですね」
そりゃあ船の周囲に仕掛けを施し済みだからパーティーメンバーである硝子達は分かっているはずだろう。
「そう」
しぇりるは分かっていたみたいだぞ。
「ウナギだよね? さっきの」
「ああ、捌いて蒲焼にでもするか? 俺の料理技能だと出来ると思うぞ」
「うん! ウナギ食べたい! うな重食べたい! うな重」
紡は言うまでも無く、ウナギは好きだ。
姉さんもだな。高い料理が好きなのは知っている。
どこぞの探偵団の食いしん坊みたいな台詞を言ってるな。
「ウナギと言ったら通は白焼きでござるよ」
闇影が玄人染みた事を言い出した。
さすがは忍者と言った所か。
和風関連で攻めるつもりなのかもしれない。
白焼きで思い出したが、ウナギの蒲焼って関東風と関西風があるんだよな。
一度白焼きを蒸してから焼くのが関東風で、蒸さずに焼くのが関西風だ。
どっちが美味いかは人によってそれぞれだな。
ゲームでその差があるかは……後で実験するか。
「うなぎゼリー……」
しぇりるがボソッと言った。
「それは拙者の好みではないでござるな」
食った事あるのか。
確かイギリス料理だったはず……詳しく知らん。
フランスとごっちゃになるからだ。
よし、珍しい料理自慢なら負けないぞ。
「なら、オレはうなり寿司で勝負だ!」
「某県某市の名物でござるな」
なん、だとっ……!?
某県で2010年代後期に生まれた名物を知ってやがるだと。
コイツ、実は食通だ。
ただのネタビルド好きではない!