ガールズトーク
「ガールズトーク、しよう」
タマムコガネシティ西区第二魔法高等学校一年A組の教室で、黒紫のセミロングで黒いブレザーの制服を纏った少女が、目の前の席に座った少女二人に宣言する。
「……有栖、お前行き成り何言い出すんだ」
朱色のショートカットの少女はジト目で雑誌から目を離して黒紫のセミロング少女――有栖を見る。有栖は気まずそうに目線を反らすと。
「いやぁ、さっきクラスメイトに女子力低いと笑われたので……」
「だからってお前……」
「では問うが――火憐、お前は女子力は高いと思うか?」
「んなの、低いに決まってるだろ」
「即答かよ。少しは悩まんか。後、お前雑誌を読むな、校則違反だぞ」
有栖はそう言うと火憐から雑誌を奪い取る。火憐は呆れ顔で。
「お前はお前だろ、気にすんなって。後雑誌返せ」
「いやぁ、流石に『久城さんって凛々しくて素敵』とか『男らしくてかっこいいよね』とか『久城さんは委員長らしいし、そこらへんの男なんか目じゃないよねぇ』とか言われれば、なぁ」
「はっは、実にお前らしい」
「ちなみに『火憐さんと並ぶと本当に絵になるよね、久城さんが凛々しい王子様で火憐さんが野生的な王子様って感じで』とも」
「ようししようかガールズトーク!」
ガタッと火憐は席を立つ。
「しかし、何かテーマはあるのか?」
「大丈夫だ、多分。こういう時の為の秘密兵器が居る」
「ああ、あたしの後ろで雲を眺める女じゃないよな?」
「さあ行くぞ氷結!」
「おい止めろ、そいつは究極の最終兵器だぞ!? 敵も味方も殲滅する究極の絶望兵器だぞ!?」
と火憐が言うと揉み上げの部分が盛り上がってネコミミの様になってる少女がゆっくりと振向いた。
「火憐、殴っていい?」
「落ち着けお前。取り敢えずガールズトークだ瑞穂」
瑞穂と呼ばれた少女は頬杖をやめ、両手を席の上において二人を見る。
「女子力、とは言うけどそもそも女子力とは何? 女性らしさ? では女子と成人女性との違いは? 成人女性の言う女性らしさと女子力の違いって何? 子、と付く所を考察すると未熟な女性の力と言うこと? なら足りなくて当然と言えるけど」
「なぁ、有栖。後悔の念はあるか?」
「いや、まだだ。まだ後悔は無い……! 後一歩で、耐えた!」
「耐えるなよ」
有栖は息も絶え絶えの状態で立ち上がる。
「さて、と言うことでだ。ガールズトークを始めるのは良いが――誰か、概要知ってる?」
「それくらい調べろよ! つうか知らずにやろうっていいだしたのか」
「仕方ないだろ、思いつきなんだから。ようは女子がしてる会話をすればいいんだろ?」
「まあ、うん。確かに」
「では、だ」
有栖は言うと指を一本立てて。
「最近食べたスイーツでも語ろう。うん、最近食べた甘いものは?」
「無い。甘いの苦手」
「私は煎餅だ」
「ハニ塔」
三人の間に流れる沈黙。そして、瑞穂以外の二人が吃驚仰天と言わんばかりの対応をする。
「……何?」
「み、瑞穂に、女子力で負けた、だと……?」
「ひょ、氷結が、ハニートーストを食してた、だと!? 何時!?」
「昨日。ほら、カラオケ行ってデザートで頼んだ。糖分摂取重要だし」
言われて火憐と有栖は考える仕草を見せ。
「……言われて見れば、昨日氷結はカラオケでずっと歌った後の合間にもふもふと何かを食べてたな……あれ、ハニートーストだったか」
「あれ、この前もハニ塔じゃね? 気に入ったのか、お前」
「いや? ただ単に糖分が欲しかっただけ」
「だからって同じ味じゃ飽きないか? チョコレートとか」
「特に。栄養分摂取だから飽きとか言う感じは皆無だよ。それに、前は苺だしね」
そう言って手もちぶさらしくまた頬杖を付く。
「と言うか有栖、お前煎餅って……」
「一応砂糖を塗した煎餅だ。十分スイーツだろう」
「甘けりゃスイーツってその考えはスイーツへの冒涜だろ……」
「苦手だ一切食さないお前よりはマシだ」
二人は横にジト目で見合いながら言い合う。瑞穂もそれを見て。
「と言うか、食べた物について語るだけ?」
「んー、正直クラスの女子が適当にきゃぴきゃぴと語り合ってるのを思い出してるだけだしな」
「きゃぴきゃぴって、もう死語じゃね?」
「良いじゃないか、そんなことは如何でも」
「ところで、同じクラスの女子達は皆そんな会話はしてないよね? 食べた甘物の勧め合いはしてたけど」
瑞穂の言葉に二人は固まる。
「――そ、そう、だな。うん、瑞穂、たまにはあれも良いものだぞ」
「手がべとべとになるから嫌」
「……火憐、勧めのは」
「甘いものだけでそんな事が出来ると思っているのか?」
「だよなー!」
有栖は叫ぶと溜息を吐きつつ。
「では別の話題にしよう! えっと……お勧めのシャンプーとか、ある?」
「適当に安ければ良いだろう」
「すまん、言い出しっぺで悪いが私も同じだ。まあ、これについては」
「一概にどれが良い、と言うのは無いね。安いのでも良いものはあるし、そもそも洗髪はやり方も重要視するべきだしどのシャンプーが良いと言うのは無い……って二人とも、何で膝を付いてるの?」
「み、瑞穂が、意外過ぎるほど女子力高いんだが……」
二人は凄まじい程の敗北を背負って項垂れていた。だがまだだと言わんばかりに有栖が立ち上がる。
「つ、次の話だ! そ、そうだ、最近買った物とかあるか?」
「落ちが見えるが、あたしはお前が没収した雑誌」
「……シャーペンの、芯」
さあと言わんばかりに二人は瑞穂の方を見る。
「文房具一式」
「こいつ最後まともだ!?」
「いやまつんだ火憐! どういう文房具かだ、重要なのは!」
そう言って有栖は火憐を抑える。そして覚悟を決めた様子で有栖は瑞穂に問いを投げる。
「ちなみに買ったものは?」
「安かったから、猫模様のノートとシャーペンを」
「ほら見ろ! 何でこいつは一々やることが女っぽいんだ!? 見た目は幼児体系で色気は一切無いのに!?」
「女だよ。穴は三つだよ」
「氷結、此処で下ネタは止めようか。落ち臭いぞ」
有栖は言いながら瑞穂の肩を抑える。
「では行くぞ、次の話題へと!」
「良いのか、有栖、良いのか!? これ以上は自分の傷を増やすだけだと思うぞ!?」
「いいか、火憐。男には、何があっても引けないときがあると言う。だがそれは、女も同じだ。女にもな、あるんだよ。女にも、引下ってはいけない時と言うものがある。それは今だ!」
「いや、今は引き下がるべきだと思うんだが。と言うかお前、そんなんだから男らしいとか凛々しいとか言われて女子らしさから離れるんじゃないのか!?」
知らぬと、有栖はカッと目を見開いて覚悟を決めて更に続ける。この話に絵があるなら、此処で有栖のカットインが入るだろう瞬間だ。
「では次は……今の髪型となった理由は?」
「ウザイから切った」
「伸ばしつつ、それでいて清楚さと女性らしさを残したくてな。私なりのファッション、かな?」
「切るの面倒だから放置」
三人の間に静寂が訪れる。周囲のざわめきが流れ込んで来る。そして火憐は悟った様に頷くと。
「うん、瑞穂とあたしはやっぱりこうだよな、うん」
「火憐、何でそこで仲間意識を持つの?」
「なあ、氷結。お前の髪の手入れの行き届き具合から如何考えても面倒で放置は無いと、思うぞ」
さてと三人は一旦落ち着いて空気を整えると。
「じゃあ、次の話題と行こう」
「まだ続けるのか? いい加減時間も時間だぞ」
「後話題一つくらいあるだろ。えーっと……そうだ、好きな男子とか」
「瑞穂が震えて机の下に逃げ込んだぞ。涙目だぞ。如何すんだこの状況」
地震も来てないのに机の下へと即行避難が完了している瑞穂を指差し、火憐は有栖を責める。
「……一応、問おう火憐。お前は」
「ねー」
「だーよねー」
「はっは、台詞の途中で切るなんて流石に火憐さん切れるぞー?」
「いやはやすまんすまんはっはっは」
二人はそんな感じで互いに笑い合うと頷きあい、軽く小突き合いを開始する。
では、今回は瑞穂達の学生時代のしょーも無い会話でしたー。では、何時か大人になった彼女も出ます。
じゃーねー。