苦い酒(四百文字お題小説)
沢木先生のお題に基づくお話です。
「苦い酒」をお借りしました。
時に西暦二千☓☓年、経済大国の面影など微塵もなくなってしまった日本には、恐るべき法律が施行されていた。
禁酒法。
以降の歴史家が口を揃えて批判する事になる史上最低の悪法である。
それによってアルコール類の製造販売が全面的に禁止され、違反者は重罰に処せられた。
最高刑は当初は懲役三十年だったが、手口が巧妙化したため死刑が追加された。
さすがに違反者は激減したが、それでも皆無とはならなかった。
「いいのがあるんだけどどうだい?」
今日も地下にある秘密クラブでアルコール類が販売されていた。
売人が客達に声をかける。
「ちょっと試させてくれ」
一人の男が言った。
「ほいよ」
売人は盃に僅かに注いだ液体を差し出した。
やや黄ばんでいてツンと鼻を突く臭いがする。
男は引っ手繰るように取り、口に運んだ。
「これ苦いぞ!」
男が怒鳴った。
「味は保証できないが、間違いなくアルコールだぜ」
売人はニヤリとして後ろ手にヘアトニックの瓶を隠した。
よくある話でした。