零話
広大な西国の真下、海洋を差し挟んだ地に三つの島で成り立つ東国と呼ばれる島国が存在する。
天子と呼ばれる現人神に治められる七つの都。それが東国だ。
その島に住むのは人ばかりではない。
アヤカシと呼ばれる不可思議の化生が、沼や湖、山や森にひそむ。
様々な種に分かれるそれは、獣でもなく人でもなく、人と異なる理に従い、黙然と生きていた。
お互いの領分にさえ踏み込まなければ、木石と変わらず総じてそこにあるだけのもの―――だった。
その認識が覆されたのはもうずっと前の話だ。
事態は一変する。或る日突如として、アヤカシは退治すべき化け物に、その性を変じた。
人々は恐るべき異能を持つアヤカシに恐怖した。
アヤカシに通常の刃物や武器は通じない。人が生き延びる為には持って生まれた知恵と数知れぬ犠牲が必要だった。
時に崇め、時に隠れ、時に騙しながら、アヤカシと渡り合う。
―――だが、アヤカシと対等に戦う事の出来る、一部の者どもも存在する。
退魔師。
退治屋。
アヤカシ喰らい。
火刀。
呼び名は色々あれど、それぞれ身に宿る霊力を駆使する技に秀でた者たちで、その身一つで、アヤカシを滅す事のできる凄まじき者たちだ。
―――アヤカシと退治屋は対極にあるもの。
両者が顔を突き合わさば、その先に待つは―――修羅の刻。