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ライトオブクラウン

漏えいの噂

作者: SUN3
掲載日:2026/05/07



イリスはベルフォード伯爵の一人娘として生まれた。


ベルフォード伯爵家は、外交を裏で操る家だった。


情報を操る。

嘘を流す。

真実を選び取る。


そして、冷酷なまでに国益を追求する。


表には出ない。


だが、確実に国を動かしている。


そんな家だった。



イリスは優秀だった。


十歳になる前に三カ国語を話せるようになっていた。


努力ではない。


できてしまった。


だから、できない者が理解できなかった。


なぜ覚えられないのか。


なぜ間違えるのか。


なぜ繰り返すのか。


理解できない。


理解する必要も感じなかった。


嫌な女だった。



やがて婚約者が決まる。


ベルフォード家に入る婿養子。


だが、その男は相応しくなかった。


派閥の力関係で結ばれたからだ。


騎士の家系。


日に焼けた肌。


手には剣ダコ。


思った感情が表情にそのまま出る。


駆け引きができない。


腹の探り合いが命の家において、致命的だった。


「もう、剣を振るう必要はありません」


「毎日していた事なので、やらないと身体に悪いんだ」


笑って答える。


「そんな時間があるなら単語の一つでも覚えてください。


日常会話程度ならすぐできるでしょう?


私は十歳になる前にできましたわ」


彼は困ったように笑う。


「すごいな、イリス嬢は。僕も頑張るよ」


「先日も同じことを聞きました。


あなたの頭は悪いのですから、


人より努力しなければなりません」


「……手厳しいな」


それでも、怒らなかった。


笑っていた。


イリスには、それが理解できなかった。


何度言っても変わらない。


できない。


覚えない。


なぜなのか。


理解できない。


理解する価値もないと思った。


会うたびに責めた。


苛烈に。


正確に。


容赦なく。



やがて学院に入る。


そこで、彼は恋をした。


イリス以外の女と。


あっさりと。


迷いもなく。


そして、婚約破棄を告げてきた。



イリスは一人になった。


だが、立場は変わらない。


伯爵の一人娘。


婿養子の座は魅力的だった。


貴族の次男、三男は部屋詰めになる。


だから、少ない機会を見逃さない。


次々と寄ってくる。


その中には、異国の者もいた。


スパイは言う。


「イリス。あなたは美しい。


あなたを振るなんて、見る目のない男だ。


僕なら決してそんなことしない」


甘い声。


だが、浅い。


「……狙いは何?」


イリスは一歩も引かない。


「ベルフォードの情報?私は軽くないわよ」


笑う。


「バカね」


イリスは次々と見抜く。


言葉の端、なまり。


わずかな視線の動き。


すべてを拾い上げる。


そして、切り捨てる。


イリスにとって、それは容易だった。



だから、気付かなかった。



変な噂が立った。


情報漏えい。


ベルフォードの情報が外に流れている。


そして、その発信源が――


イリスだと。



父が聞いてきた。


「イリス。本当にお前じゃないよね」


その声は、確信ではなかった。


疑いだった。



母が聞いてきた。


「うっかり口を滑らせたことはない?」


心配の言葉だった。


だが、その奥にあるのは不信だった。



誰も、信じていなかった。



イリスは言葉を失った。



何を言っても、疑われる。


否定すればするほど、怪しくなる。


沈黙すれば、認めたことになる。



何が正しいのか、分からなくなった。



やがて、口を開かなくなった。



言葉が怖かった。



何かを言えば、それが漏えいになるのではないか。


誰かが拾うのではないか。


歪められるのではないか。



部屋から出られなくなった。



廊下に人の気配がするだけで、息が詰まる。


扉に手をかけることができない。


外界が怖かった。



食事もできなくなった。



誰かと顔を合わせることが怖い。


何かを言われるのが怖い。


何かを言ってしまうのが怖い。



水も飲まなくなった。



喉が渇く。


だが、動けない。



腹が鳴る。


だが、感じないふりをする。



やがて。


空腹も、渇きも。


分からなくなった。



ただ。


外と繋がることだけが、怖かった。



漏えいの噂。



それだけが残った。



イリスは、一人で死んだ。



餓死だった。



もう、決して、漏えいしない。

この短編は、乙女ゲームのバッドエンド絵師、ゲーム世界に転生する 〜バッドエンドしかない世界で、運命を捨てる〜の中に出てくるゲームの内容です。

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