ブログ
ホラーに関する知識が殆ど無い作者の作品です。真情や描写も曖昧で臨場感はまるっきりゼロです。
それでも興味のある方は誰でも気軽に覗いて、指摘する所はビシッとお願いします。アドバイスを貰うのは上達への近道ですからね。
――――なぁ、『ひとりかくれんぼ』って、知ってる?
ああ、都市伝説のこと?それがどうしたんだよ。
最近、新島が学校に来ない理由が分かる?
ああ、ここ数ヶ月来てないよな。行方不明らしいよ。
違うよ、あいつは霊にやられたんだ。『ひとりかくれんぼ』でさ。
何でそんなことが言えるんだよ。
ならあいつのブログを見てみろよ。ホントかは分からないけど、結構面白いぜ。
俺がこの捜索を始めたのは、他愛も無いクラスメートとの噂話がきっかけだ。もちろん俺は霊なんか信じないし、『心霊現象だ』とか騒ぐ奴等は全員、馬鹿だと思っている。
それなのに、なぜか体が好奇心に揺すられる。
今俺は誰もいない小さな個室で、パソコンのディスプレイに目を凝らしながらマウスのクリックの音だけを響かせていた。デジタル時計は『01:56PM』。今日はなぜか両親が帰って来る気配が無い。
――――――あった、新島のブログだ。
新島は他のクラスの奴だったから、俺と接点は無い。俺が知っている限りは虐めなんか受けていなかった。いつもふざけて、クラスの奴らを笑わせているのが隣のクラスからも聞こえていた。そんな彼が突然、消えたのだ。
『にい君の日記♪』という文字に矢印のカーソルを合わせて、クリックする。すると突然、パソコンの画面いっぱいに、派手な模様が広がった。
『ここは僕の周りで起きた出来事を毎日教えちゃう場所だよ~。コメまってま~す♪』
あまりに普通すぎるブログだ。派手な背景や絵文字を使いまくってるのを見せ付けているだけじゃないか。学校でも人気者だった新島は、それでも足りずにブログで注目を集めたかったのだろう。
試しに『コメント』をクリックしてみると、『コメントはありません』との文字が出てきただけだ。面白くない。
カチッ
カチッ
日々の日記を見てもやはり面白くない。今日はどんなネタを思いついたとか、何にムカついたとか、そんなことばかりだ。日に日に文章も短くなって、稚拙になっている。誰もコメントをくれない事への苛立ちが現れていた。
『誰もコメくれないよぉ、グスン……(T-T)やる気が出ないので誰かコメくださ~い!そんなことはさておき、明日は特別企画をやりまする!きっとコメをくださ~い!』
寒気がした。まさか誰もくれない筈のコメントが欲しいあまりに『ひとりかくれんぼ』を始めたのか。人からコメントを貰って陶酔でもしたかったのだろうか。
いや、俺は何を考えているんだ。幽霊なんか信じないはずだ。
それなのに、マウスを掴む手が、次のページをクリックするのを拒んだ。本能が危険を感じているというのか?だが、俺の好奇心が打ち勝った。第一、幽霊などがいるわけが無いのだから。
『特別企画!ひとりかくれんぼをやっちゃうよ~(>A<)
ちょっとキンチョーしてまするが、携帯片手にコメント実況やろうと思いまする。
ただいま午前の3時前!もう準備は終わっています!』
――――――準備?一体どうするんだ?
どうでもいいのに、手が動く。好奇心が収まらない。
画面を更に下へスクロールすると、丁寧に『準備』の説明が書かれている。
『1、ぬいぐるみに名前をつけて詰め物を全部出して代わりに米と自分の爪を入れて縫い合わせます!自分はつめが短くて大変でした(笑)余った糸はぬいぐるみに巻きつけて結びます。
2、午前3時になったらぬいぐるみに向かって「最初の鬼は××」と3回言って、ぬいぐるみを水を張った風呂桶にドボン!
3、家中の電気を全て消してテレビだけつけよう、砂嵐の画面だったら目を瞑って10秒数える!
4、刃物を持って風呂場に行き、「××見つけた」と言ってグサリ!
5、「次は△△が鬼」と言い、自分は塩水を持ってどこかに隠れます!』
俺はため息を付いて、椅子に深くもたれかかった。ふと背後に緊張が走り、自分の部屋を見渡してみる。机や押し入れ、ゴミ箱やテレビ。他には何もいない。当たり前だ。
『人形は昔からのお気に入りのうさちゃん人形を使います!かわいいけどほんとに鬼になれるのでしょうか?』
『もうすぐ三時です。正直言ってキンチョーしています……。でもお化けなんか怖くないさ。』
『三時になりました。僕の部屋の押入れに隠れようと思います』
文章のフザケがなくなっている。新島の文章は、読むだけで心情が手に取るように分かる。
また背後を見渡す。やはり誰もいない。
『3:03 真っ暗な押入れで隠れています。ケータイの光でバレそうだなぁ』
『3:14 何もありません。』
『3:24 暇です。家の中に誰かいる気もしない』
『3:26 そろそろやめようと思いまする。塩水を口にいれたまま人形の場所に行って、人形にかけたら終わりに出来るそうです』
やはりひとりかくれんぼは何の関係も無かったのだろうか。次のページもクリックしてみる。
『3:26 押入れから出ようとしたら家の中で何か音がしました。もう少し隠れていようと思います』
『3:27 階段を昇るあす音が樹こえてきました。怖いです。』
『3:29 怖くて押入れから出ること我で組ません。だれかみてるひとがいたらたすけてください。じゅうしょは』
誤字が多い。そして何よりも気になるのは、『じゅうしょは』のところで文章が途切れていることだ。もしかしたらこれらは全て嘘で、わざと気になるところで文章を途切れさせたのかもしれない。そうでなければ、このコメントは送信できない筈だ。
まてよ、まだ次のページがある……。
カチッ
『僕の勝ち 次は誰?』
まだ次のページがあった。
『次は誰? 次は君』
まだある……。
『次は君 僕が鬼』
『僕が鬼 マッテテネ』
『マッテテネ ダレカアソボウヨ』
――――――何だよこれ。何を考えてるんだ?
妙な胸騒ぎがした。背後を見渡す。やはり誰もいない。なのに気になって、次は一階へ続く階段に耳を澄ませた。もちろん、何も聞こえないのに、気になる。今この家で明かりがついているのは、この小さな部屋だけだろう。どうして親は帰ってこないんだ。
駄目だ、気分が重い。こんな狂ったブログは忘れて、イヤホンをつけて動画でも見よう。カーソルを、右上の『×』へ持っていく。だがその瞬間、突然パソコンの画面がプツリと暗くなった。
なんだなんだ、一体何が起こった?
暗い気分を振り払い、パソコンの電源ボタンを押した。しかし画面はつかないどころか何の音も出ず、
自分の部屋に空虚な沈黙が漂った。いつの間にか天井の明かりが、けたたましい数の虫が這うような模様になり、部屋が不気味に照らされている。
ゴトン
階段の下から物音が聞こえた。体が強張る。ようやく親が帰ってきたのだろうか。ドアを開けて、廊下を覗く。吸い込まれるような暗闇が続いていた。
ドン ドン ドン ドン ドン ドン
包丁で大根を切るような低い音だ。明かりもつけずに一体何をやっているんだ。
電気などつけずに手探りで階段を下り、一階へ降りた。まだ目が慣れておらず、手元しか見えない。
ボチャン
水に物を投げ入れる音が聞こえた。浴室からだ。先ほどのブログの事もあって気味が悪くなり、体が『戻れ』と言い出した。『ここは危険だ』と。
――――――何で怖がるんだ?親が疲れきって明かりもつけずに水風呂に入ったんだ。幽霊なんか全部デマなんだよ。馬鹿馬鹿しい。確かめてみたら分かるさ。
躊躇が生まれたが、手を無理矢理動かして浴室の扉を一気に開けた。何の音も無い。暗闇だ。ただ、その暗闇の中で、赤く光る小さな二つの点がユラユラと蠢いていた。何だろう。
恐る恐る近寄って、なぜか風呂桶一杯に入った水に浮かぶ、その紅い光に手を伸ばしてみた。
人形だ。ふわふわしたピンク色の人形。頭から飛び出た二つの突起を見る限りは、兎だ。紅くて大きな目玉のボタンの奥を覗き込むと、誰かの顔が迫ってくる……気がした。考えすぎだろう。でも、今は怖い。あのブログに書かれていた『うさちゃん人形』との接点だってある筈が無い。たぶん。
俺は遂に体の指示に従って、人形を元の場所に放り込んで浴室を飛び出して階段を駆け上がった。背後から誰かが追ってくるような錯覚に囚われる。白い顔がにんまりと笑いながら四つ足で蜘蛛のように這い迫ってくる。
無我夢中で自分の部屋に飛び込んだ。ドアを閉め、押入れから布団を引っ張り出して体に包んだ。もちろん電気はつけたままだ。このまま明るくなるまでやり過ごせるだろうか。こんな時に湧き上がってくる尿意を押さえつけて、体を縮ませた。
電気が音も無くフッと消えた。廊下と同じような暗闇に包まれる。暑さを忘れて更に布団の中に身を縮めた。
ドン ドン ドン ドン ドン ドン
階段を上る足音が廊下の暗闇から響いてきた。怒ったように足をわざと大きく踏み鳴らし、足早に上がってくる音だ。
まずい、どこかに隠れないと、何かに見つかる。何かに……。
布団を跳ね除けて、なるべく静かに、しかし急いで開けたままの押入れに這入った。少し隙間を開けて部屋の中を観察した。しかし暗闇のせいでほとんど分からない。大きな物の輪郭をどうにか察知できる程度だ。その時、なにかが押入れのすぐそこを白いものが通り過ぎた。背筋が凍る。鼓動が破裂しそうになる。今見えたのは、人の顔だった。蒼白の不気味な光を放ち、どこを見ているのか分からない白目が出ていた。そして口は、笑っていた。
―――――――今のは何だ、錯覚か?
左胸を必死に抑えた。心臓が異常なほど膨れ上がっている。耳の奥から自分の心臓の鼓動が聞こえた。
落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け……。
幽霊なんかいるわけない。今のは考えすぎで見えたような気がしたんだ。そうさ、こんな蒸し暑い場所は出て、部屋の明かりをつけて普通に寝ればいい。
「ドコニイルノー」
これは幻聴だ、こんな変な声が何で家の中に在るんだ?ほら、もう少し隙間を空けて部屋を覗いてみろ。何も無い筈だ。
「ココハイナカッター」
また聞こえた。子供をあやすような声で、低い。すぐそこからだ。体が小刻みに震えだした。
ドン ドン ドン ドン ドン
部屋の中から無い筈の誰かの足音が聞こえた。それはすぐに遠ざかり、廊下で別の扉を開ける音が聞こえる。両親の寝室だ。
何かが俺を探している。『何か』って何だ?あれは誰だ?誰がどこから入ってきた?
「ココモイナイ」
廊下の方からまた不気味な声が響いた。階段を下る足音も聞こえ、虫の息のような安堵の溜息をつく。
『塩水を口にいれたまま人形の場所に行って、人形にかけたら終わりに出来るそうです』
ブログの一文が頭を過ぎる。もしもこれが本当に『ひとりかくれんぼ』と呼ばれるものなら、出来るかもしれない。しかしそうであるにしろ、ここには塩水どころか水すら無い。
サウナのような押入れの中で、髪の毛から汗が滴り落ちた。
――――――汗?
汗は塩分を含んでいる。塩水と殆ど変わりないかもしれない。今ここで一階の浴槽のあの人形にかければ……。
とにかくこの蒸し暑い押入れの中に長く留まっているわけにはいかない。俺は両手を器にして、髪の毛の先から滴り落ちる生臭い汗を溜め始めた。下にこぼれないよう必死に隙間を無くして一滴一滴を逃さない。
しばらく経つと、掌に半分ほど生暖かい汗が溜まった。すかさず口の中に流し込み、嫌でも味わってしまう。ただの塩水とは違って、生温い、人間の体温が口の中に広がった。もちろん美味いわけではない。すぐに吐き出したかったがそれを堪え、鼻で息をした。苦しい。
恐る恐る押入れを空けた。暑いはずの部屋から流れ込んできた空気が心地良い。
ドン ドン ドン ドン ドン ドン
――――――来た!
反射的にまた蒸し暑い押入れに潜り込んだ。隙間を残して部屋の中を窺う。開いたままの扉から、白い物が覗いた。人の顔だ。目は白目などなく、全て黒い。
心臓がまた破裂しそうになった。耳の奥に自分の鼓動が伝わる。口の中の液体を思わず吐き出しそうになった。
「ココニイルー?」
白い人間には膝がなかった。太ももの下から徐々に空気と一体になっている。それなのに消えかかった太ももは膝が存在しているかのように動いていた。足音も確かに鳴っている。
スタ スタ スタ スタ
棒のように細い腕が、ぎこちなく俺の机の引き出しを引いた。黒い目はしばらくその中身を見つめ続けた。特に何かを入れた覚えは無い。白い人間も、特に意味は無さそうに立っているだけの様に見えた。しばらくすると突然頭を上げ、そのまま机を離れて一直線に部屋から出て行く。階段の音は響いてこない。また両親の寝室に入ったようだ。
押入れを音を立てずに空けた。だいぶ慣れてきた暗闇の中で音を立てずに立ち上がり、音を立てずに廊下へ出た。両親の寝室から、物を物色しているらしき物音が聞こえた。中を見ないようにすぐに通り過ぎ、階段に足をかける。
ぺタ ぺタ ぺタ ぺタ
聞きなれない音に体が硬直したが、すぐに自分の足音だと気が付いた。幾らゆっくりと下ろうとしても、足の裏に付いた汗はどうしようもない。
突然、頭上から視線を感じた。無意識に感じるものではない。確かに、誰かに見られている……。
誰のものでも無い吐息が後頭部に当たる。次の瞬間、全く知らない子供のような声が背後から響いた。
「ミイツケタ!」
かくれんぼで相手を見つけて無邪気にはしゃぐ声などとは違う。口調自体はそのものなのだが、その言葉の奥底に潜む怨念が体の全身へ、電撃の様に伝わった。
後ろなど振り返らなかった。階段を転げるように駆け下り、浴室へ飛び込んだ。しかし紅い二つの点は無い。
トン トン トン トン トン
自分のものでは無い足音が背後で止まった。背中に緊張が走る。背後など振り向きたくも無かった。
「ミイツケタ!」
肩を掴まれた。骨ばった手の平の冷たい感触が薄地を隔てて伝わってくる。次の瞬間には、生気を感じない細い指が俺の体を軽々と振り向かせた。いや、俺は何も抵抗をしなかったのだ。目を瞑らずに、そこにある光景を受け入れようとした。
だが、いなかった。自分の肩を引いた手の主が見当たらない。他に在る物は、足元に転がった紅い目のウサギの人形。その目は、真っ直ぐに俺を見据えている。
口の中に汗は無かった。我を忘れてどこかで吐き出してしまったようだ。
声が聞こえた。それは、確かにウサギの目から漏れた声だ。この際どうだっていい。
「ツカマエタ!」
その頃、『にい君の日記♪』に変化が現れた。何も無かったはずのコメント蘭に、一着の新着メッセージが届いていたのだ。
『ツカマッタ ツギハダレ?』
これは『ひとりかくれんぼ』ではなく、誰かの返事を貰う為に勧誘していたものかもしれない。
新島がなぜ居ないのかって?
それは分からない。霊に成って俺を追いかける前に、また別の霊に捕まっていたのかも知れない。今こうして遊び相手を甚振る俺のように。
俺の目の前では男が怯えていた。体を震わせて、無作法にも涎や鼻水は垂れ流しだ。まぁ、それはどうでもいい。
俺は男の肩を掴んで振り向かせ、永遠の暗闇へと誘う。
『ミイツケタ!』
また一つ、コメントが増えた。




