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親友に陥れられて、聖女の座を奪われました。復讐しなくても自滅するようなので、私は町で楽しく暮らします!  作者: 櫻井みこと


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8.

「……さて」

 馬車を見送ったあと、アルは部屋に戻ると、リゼットに先ほどの場所に座るように促す。

 リゼットが指示に従うと、彼も向かい合わせに座った。

「次は診察だ。毒の種類を特定しなければならない」

 鋭い瞳で見つめられ、こくりと頷く。

「お茶の種類はわかるか?」

――喉に良いお茶だと言っていました。とても苦くて。レイナは、薬草が入っていると。

 その文字を読んだ途端、アルの表情が険しくなる。

 薬師である彼にとって、薬草だと言って毒を飲ませた行為が許せなかったのだろう。

 そこから、いつも飲んでいるお茶のことや、毒入りのお茶を飲んだときの症状。今の喉の痛みや体調について、詳しく聞かれ、リゼットは思い出せる限りのことをすべて、書き記した。

「強い苦み。飲んだら焼けるような喉の痛み。お茶に混ぜやすい状態で……。今の体調から考えられるのは……」

 アルはそう言いながら立ち上がると、リゼットを置いてそのまま隣の部屋に移動してしまった。

 先ほど、山ほどの書類を移動させた場所だ。

 何となくその後を追うと、アルは書類を何枚か引っ張り出しながら、深く思案していた。

 今まで手にしていた書類を乱暴に机に置き、さらに別の書類を引っ張り出す。

 それを繰り返しているうちに書類の山が崩れそうになり、リゼットは慌てて手を出した。

(どうしよう……)

 アルは集中しているようで、リゼットが傍にいることにも、書類の山が今にも崩れて散らばってしまいそうなことに気付いていない。

 リゼットは躊躇ったあと、これが崩れたら大惨事だと思い、書類の整理をすることにした。

 実はリゼットにも少しだけ、薬の知識がある。

 幼い頃に別れたきりのリゼットの母は薬に詳しく、たまに子爵家の屋敷の庭で薬草を育てていて、家族が体調を崩したときは、自ら薬を調合してくれたのだ。

 だからこの薬草の匂いも、こうして部屋中に干された薬草も、リゼットにとってはどこか懐かしい気持ちにさせてくれるものだった。

 あの頃は幼すぎて母の作っていた薬の詳細は覚えていなかったが、その匂いや景色はずっと記憶に残っていた。

 その懐かしい記憶を忘れたくなくて、リゼットは日頃から薬草学の本を読んでいた。

 その知識を生かして、書類を簡単に分別する。

「ソフィー、解毒作用をまとめたものはどれだ?」

(ソフィー?)

 首を傾げるも、王太子が口にしていた名前だと思い出す。もしかしたらその人が、明日から来るという手伝いの女性なのかもしれない。

 リゼットはその女性ではないが、目的の書類は見つけたので、彼に手渡す。

「ああ、ありがとう」

 アルはこちらを見ずに受け取ると、そのまま作業に没頭している。

 その真剣な横顔を、リゼットはずっと見つめていた。

 

 それからも何度か書類を求められ、その都度、探し当てて差し出した。

 彼の集中力は凄まじく、つられてリゼットもずっと緊張したままだ。

 でも立ったままではさすがに疲れてしまい、思わず深く息を吐く。

 それに気付いたアルがようやく顔を上げ、傍に立っているリゼットを見つけて、慌てた様子で立ち上がった。

 そして今にも崩れてしまいそうだった書類の山が、きちんと整理されている様を見て、さらに驚いたようだ。

「すまない。この書類は、君が?」

 こくりと頷くと、アルは深くため息をついて、片手で顔を覆う。

「患者である君を休ませもせず、助手のようなことをさせてしまった。本当にすまない。すぐに部屋を用意するから、そこで休んでいてくれ」

 そう言って立ち上がり、最初の部屋に置かれたままのリゼットの荷物を運んでくれた。

(あっ……)

 リゼットも慌ててその後を追う。

 彼があれほど集中して探していたのは、リゼットの声を取り戻すための方法だ。

 だから手伝うのは当然だし、むしろ集中していた彼の邪魔をしてしまったのは自分の方だ。

 そう言いたいのに、声が出ないので、伝えることができないのがもどかしい。

 二階に上がるとすぐに大きな扉があり、鍵が掛けられていた。

 天井まで届くほどの扉で、一階からは二階の様子がまったく見えないようになっている。

 その扉から中に入ると広い廊下があり、その先に複数の部屋がある。

 アルは、その中でも一番奥の部屋に、リゼットを案内してくれた。

「ここだ。ソフィーが掃除をしてくれていたから、綺麗だと思うが」

 この部屋にも鍵が掛けられていて、一階からは鍵の掛かった扉をふたつ開けなければ、ここにはたどり着けないようになっていた。

 不思議そうにしていたリゼットに気付いて、アルはその理由を説明してくれた。

「一階は診療所のようになっていて、それなりに人の出入りがある。でも二階は誰も入れないようになっているから、安全だ」

 二階には専用のキッチンも浴室もあった。そこも自由に使って良いらしい。

 案内してもらった部屋は思っていたよりも広く、窓から庭にある薬草畑がよく見える。

 アルはこの部屋の鍵をリゼットに渡すと、すぐに一階に戻ってしまった。

 リゼットもさすがに少し疲れて、教会で使っていたものよりも柔らかなベッドに横たわる。

 そのまま目を閉じると、そのままぐっすりと眠ってしまっていた。


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