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親友に陥れられて、聖女の座を奪われました。復讐しなくても自滅するようなので、私は町で楽しく暮らします!  作者: 櫻井みこと


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7.

 リゼットは必死に書き記す。

 アンジェリカを毒殺しようとしたレイナは、さらにリゼットにも毒を飲ませて声を奪った。

 罪を犯した聖女は、声を失う。

 それを再現してリゼットに罪を着せ、自分が聖女になって、王太子の婚約者にもなろうとしていたこと。

 そしてレイナが、ずっと王太子に憧れていたこと。

 文章で正確に伝えようとするのは、とても難しい。

 それでもリゼットは、必死にレイナの計画を王太子に訴えた。

 王太子はリゼットの書いた紙を何度も読み、複雑そうな顔をしてため息をついた。

「これは本当の……。いや、君がここで嘘を言うはずもない」

 問いかけた王太子は、途中で言葉を切る。

 最初から嘘だと決めつけるような人ではない。信じられなくても、受け止めてくれたようだ。

「その伯爵令嬢とは、親しかったのか?」

 アルの問いに、王太子は首を横に振る。

「教会で会ったとき、挨拶くらいは交わしたことはあるかもしれないが、それだけだ。申し訳ないが、はっきりと顔も覚えていない」

 レイナにとっては、今の婚約者を毒殺してでも手に入れたいほど、焦がれた人である。けれど王太子にとっては、大勢いる令嬢たちのひとりでしかなかった。

 その事実を知り、さすがに少し切ない気持ちになる。

「実は、少し前に聖女との婚姻の話は出ていた」

(え?)

 王太子はそう言って、リゼットを驚かせる。

 そのときの聖女は、もちろんリゼットである。

「教会と王家との関係を良好にするためにも、聖女を王太子妃に。そう言ってきたのは、ルヘーニ伯爵だった」

 ルヘーニ伯爵は、レイナの父である。

「だが、王太子妃はアンジェリカに決定している。それに教会は、聖女を使って王家に介入しようとしているのではないか。そう疑った父は、教会からの申し出を断っている」

「知っていたか?」

 アルにそう問われて、リゼットは首を横に振る。

 王太子との婚約の話が出ていたなんて、一度も聞いたこともなかった。

「ルヘーニ伯爵は、そのときから聖女を交代させようとしていたかもしれない。だが今回の事件は、彼の予想外だった」

 そんなアルの言葉を、王太子はすぐに理解できなかったようだ。

「どういうことだ?」

「ルヘーニ伯爵の計画では、まずお前の婚約者をアンジェリカから彼女に交代する」

 そう言ってアルは、リゼットを見た。

 王太子の婚約の話が出たときの聖女は、たしかにリゼットだ。

「そして婚約したあとになって、彼女を始末するつもりだったのかもしれない。教会内でのことだ。アンジェリカに手を出すよりも、容易いことだろう」

 過去に何人も聖女を輩出してきたルヘーニ伯爵家は、教会での発言力も強い。

 たしかに公爵令嬢のアンジェリカを狙うよりも、教会の管轄下にいるリゼットを始末する方が簡単だ。

 もしリゼットがアンジェリカに代わって王太子の婚約者になっていれば、奪われたのは声ではなく命だったのかもしれない。

「あの申し出を断ったから、アンジェリカは狙われたのか?」

「おそらくそうだろう。だが、そうなっていたら聖女は声を奪うだけでは済まなかったな」

「そうか。アンジェリカも命を取り留めた。今がベストだと思うしかないな」

 王太子はそう言ってくれた。

「だとしたら、ルヘーニ伯爵令嬢は父の命令で動いているだけなのか?」

「どう思う?」

 アルにそう問われて、リゼットは文字を綴る。

――彼女は本気で私を憎んでいました。そして、王太子殿下が教会を訪れる度に、とても切なそうな瞳で、王太子殿下を見つめていました。

 父の命令ではなく、レイナ自身の意志だと思う。

 そう書くと、アルは納得したように頷いた。

「そうだな。おそらくそうだろうと、俺も思う」

「それは、なぜだ?」

 王太子の問いに、アルはしばらく考えてから、その答えを口にする。

「ルヘーニ伯爵ならば、王の説得を続けるだろう。今回の事件は、あまりにも感情的すぎる。聞いた話から察するに、ルヘーニ伯爵の娘は、現在の聖女 に対する恨みをずっと募らせてきた。そこに、焦がれた王太子まで奪われると思い、今回の犯行に及んだのだろう」

 いずれ、自分の娘を聖女と王太子妃に。

 そう考えていたルヘーニ伯爵の考えも知らずに、暴走した。

 きっとアルの言う通りだろうと、リゼットも思う。

 レイナは聖女 の立場だけではなく、ずっと恋焦がれてきた王太子までリゼットに奪われてしまうと思ったのだ。

 むしろ恋の恨みの方が、大きかったのかもしれない。

「こうなってしまった以上、ルヘーニ伯爵がどう出るかわからない。王城も安全ではないかもしれない。お前は、アンジェリカの傍を離れるな」

「わかった」

 アルの言葉に頷いた王太子は、視線をリゼットに向けた。

「君の声は、アルが必ず取り戻してくれるだろう。今はひとりだが、明日からは手伝いの女性も来てくれる。ここは安全だから、何の心配もいらないよ」

――はい。ありがとうございます。

 そう書き記すと、王太子は頷いた。

「アル、あとは頼む。連絡はいつもの方法で、定期的に。聖女を頼む」

「ああ、任せておけ」

 そんな会話を交わしたあと、王太子は急いで王城に戻って行った。


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