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【完結】親友に陥れられて、聖女の座を奪われました。復讐しなくても自滅するようなので、私は町で楽しく暮らします!  作者: 櫻井みこと


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18.

「そうだな。書類も散乱していて、在庫の薬草もほとんどない。植え替えた薬草もまだ根付かない。やることはたくさんある。落ち込んでいる暇など、俺にはなかったな」

 アルはそう言うと、手早く薬を調合していく。

 少しでも、彼の気持ちが晴れたのなら、よかったと思う。

 そうして仕上がった薬を王太子に渡して、彼を見送る。

 王太子は複雑そうな顔をしていたが、それでもアルの希望を優先させてくれたようだ。

 アルはそのまま薬の調合を続ける様子だったので、リゼットはソフィーの元に戻った。

 ソフィーは直接ジェイと接してきただけに、なかなか怒りが収まらない様子である。

「私の夫も、過去に毒殺されそうになったことがありました」

 ソフィーはリゼットに、アルと出会うことになったきっかけを話してくれた。

「以前よりも少なくなったとはいえ、まだ政敵の排除に毒を使う者は多いのです。夫の場合は、家督争いをしていた異母弟に、毒を盛られました」

 ソフィーの夫は騎士団に所属していた。しかも、王太子の護衛に選ばれるほど、腕もたしかだったらしい。

 その夫が毒を盛られて危篤になったとき、王太子がアルを紹介してくれた。

「アル様の薬で、夫は命を取り留めました。その恩はまだ、返し切れていないと思うくらいです」

 配偶者を救ってもらったのは、ソフィーもジェイも同じ。でも、その後の行動は正反対だ。

「感謝を忘れてはならないと、常に思っています。他の誰かを助けることは、当たり前ではないのですから」

 ジェイは感謝を忘れてしまった。だから最愛の妻とも離れ離れになってしまい、もしかしたらもう会えないかもしれない。

 罪には、罰を。

 それが、この世界の仕組みである。


 ソフィーとも別れ、リゼットはひとりで庭に向かった。

 庭は綺麗に整備され、あらたに薬草の種が植えられていた。成長の早い植物だから、そのうち芽が出てくるだろう。

 そんな庭の一角に、今にも枯れそうな薬草が植えられている。

 焼け跡から持ち出した、貴重な薬草である。

 主に解毒に使われる薬草のようで、リゼットの薬にも使われていたようだ。

 リゼットはその薬草の前に立つと、何度か深呼吸をした。

 喉はもう完治している。

 元通りに歌えるだろう。

 そしてリゼットがまだ聖女であれば、きっとこの薬草畑も蘇る。

 ただ、リゼットの歌は王都中に響き渡る。ここで歌ってしまえば、レイナにもルヘーニ伯爵にも、リゼットが回復したことが伝わるだろう。

 迷ったのは、ほんの少しの間だけ。

 これ以上、レイナとルヘーニ伯爵の横暴を、許してはならない。

 リゼットは空を見上げ、覚悟を決めると、歌い始めた。

 美しい歌声が、王城だけではなく、王都中に響き渡る。

 聖女の歌声は、奇跡を起こす。

 その奇跡は、聖女によって違う。

 過去の文献では、そのときに必要な力が宿るそうだ。

 リゼットの場合は枯れた植物を蘇らせ、枯れた大地に雨を降らせる。逆に雨が続いたときも、リゼットが歌えば晴れ渡った。

「リゼット?」

「聖女様?」

 歌声を聞きつけたアルやソフィーが駆け付けたときには、町にあったときと変わらないほど育った薬草が、風に揺れていた。


 聖女の歌が蘇った。

 その噂は王城のみならず、たちまち王都中に広がった。

 それを受けて王太子は、ルヘーニ伯爵の悪事の証拠を集めるべく、昼夜問わず働いているようだ。

 今、リゼットの前にいるのは、その王太子の婚約者であるアンジェリカである。

 アルの薬で毒から復帰したアンジェリカは、安全のために回復してからもずっと王城に住んでいた。

 王太子からリゼットが離れに移住したことを聞いていたが、まだリゼットが療養中なので、落ち着いたら会いに行きたいと思ってくれていたらしい。

 そしてリゼットの歌声を聞き、回復したことを知って、こうして駆け付けてくれたのだ。

 保護してくれた王太子に相談せずに歌い、自分の存在を示してしまったことを詫びたが、王太子もアンジェリカも問題ないと言ってくれた。

 新聖女となったレイナは、本当は聖女ではないのではないか。

 聖女はもうこの国にいないのではないか。

 そんな噂が王都に広がっていて、さらにこの国は神に見捨てられたと言う者まで現れた。

 実は、暴動が起きてしまいそうなくらい危うい状態だったようだ。

 でもリゼットの歌が王都中に響き渡ったことで、王都は落ち着きを取り戻した。

「町の人たちの不安を解消することが、最優先です。後のことは、セザールに任せておきましょう」

 むしろ良いタイミングだったと、アンジェリカも言ってくれた。

「ところで、アルとはどうですか?」

 ふいに悪戯っぽい口調でそう言われて、リゼットは慌てる。

「あの、どう、とは……」

「あまり愛想は良くないし変わり者だけれど、誠実な男よ」

「はい。それは、よく知っています」

 彼ほど誠実で優しい人を、リゼットは知らない。

 そう答えると、アンジェリカはとても嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「セザールはこの機会にルヘーニ伯爵だけではなく、教会の腐敗も裁こうとしているわ。かつて聖女を利用しようとした王家から、教会が助け出したように」

 今度は王家が聖女を助け出し、国で保護できるように動いている。そう教えてくれた。

(私は聖女に戻っても、教会に帰らなくてもいいの?)

 もしそうだとしたら、この離れでずっと暮らすことができたら。

 叶わないと諦めた夢が、場所は変わってしまうが、実現できるかもしれない。

 リゼットの胸に希望が宿る。

「先代の聖女に孫がいたように、聖女でも結婚できるのよ。あなたの義姉になれたら、私はとても嬉しい」

 アンジェリカはそう言って、リゼットの手を取る。

「……義姉?」

「ええ。アルは、アルフレートは私の異母弟なのよ」

 言葉が出ないほど驚いて、思わずアンジェリカの手を強く握ってしまった。


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