11.
足りていないのは、熱さましと咳止めの薬だ。
まずは薬草を準備しなければならない。
干してある薬草の中から、目的のものを探し当て、二階にある作業部屋に運ぶ。
(ええと、この薬草と、これと……)
家の隣にある畑で育てているだけあって、どれも大きくて立派な薬草である。この薬草で作った薬ならば、効果も抜群だろう。
乾燥した薬草を細かく砕き、アルが教えてくれた分量で調合していく。
薬草の種類も量も、本や教会で学んだものとはまったく違う。彼が考えた薬なのだろう。
それを求めてあんなに大勢の人たちが買いに来ているのだから、きっと従来のものよりも効果が強いに違いない。
(そういえば……)
教会でも風邪薬などを販売していたが、実際に使われている薬草の量は、これの半分以下だった。安価にして誰にでも買えるようにと言われて納得していたが、実際にはアルが作る薬の方が安い。
「実は、教会で売る薬の値段が上がったそうで」
出来上がった薬を取りに来たソフィーが、そう教えてくれた。そのため、こちらに人が殺到しているようだ。
しかも教会では、風邪が流行しているので、より多くの人たちが買えるように、と薬草の量を減らした薬を販売しているらしい。
もちろん効果も薄まっているので、一度では治り切れず、何度も同じ薬を買わなくてはならない。
(効果は半分なのに、値段は上がっている。しかもそれを、何回も買わなくてはならないなんて……)
教会の薬でも一度で治らないなんて、今回の風邪は質が悪い。そういう噂が広まっているようだ。
でもアルの薬ならば、きっとすぐに治る。
(どうか、少しでも早く治りますように)
声が出ないリゼットは、もう聖女の力は使えない。
それでも精一杯の願いを込めて、薬の調合を続けた。
そんな忙しい日が十日ほど続いた。
リゼットはその間、毎日薬を作り続けた。
王都では薬草が不足して値上がりしているようだが、ここは畑で育てているので、在庫が足りないということにはならない。
まだまだ倉庫には多くの薬草が備蓄されていて、仕入れる必要はないが、その分手間は相当掛かっていることだろう。
王都で流行った風邪もようやく落ち着き、入院している患者も全員、元気になって退院した。
この日は、ひさしぶりにゆっくりと過ごせる朝で、リゼットもつい寝坊をしてしまった。
身支度を整えてから、急いで一階に向かう。
今日、ソフィーは休ませるとアルが言っていた。毎日泊まり込みで入院患者の世話をしていたので、彼女も疲れているだろう。
食事のことをソフィーは心配していたが、アルが町で買ってくるから心配いらないと言っていた。でもソフィーが料理を教えてくれたので、簡単な食事くらいならリゼットも作れる。
そう思っていたのに、ついリゼットも寝坊してしまった。でも幸いなことに、アルもまだ眠っている様子だった。
彼もずっと働き詰めだったので、疲れているのだろう。
もう少し寝かせておくことにして、急いで朝食の準備をする。
(温かいスープと、簡単なサラダかな?)
朝はあまり食べない人だったので、それくらいでいいだろう。
野菜と鶏肉でスープを作り、サラダが完成したところで、タイミング良くアルも起きてきたようだ。
「遅くなってすまない」
そう謝罪するアルに、自分も少し前に起きたのだと伝える。
「食事の用意をしてくれたのか」
――はい。簡単なものですが。
「ありがとう。助かるよ」
そう言ってくれたので、リゼットも笑顔になる。
――一緒に食べませんか?
「そうだな。そうしようか」
アルがそう言ってくれたので、ふたりで一緒に食事をした。
スープの味付けが少し薄かったのが残念だったが、アルは気に入ってくれたようで、おいしいと言ってくれた。
(もっと料理ができるようになりたい。ソフィーさんが復帰したら、色々と教えてもらおう)
「君の治療が後回しになってしまって、すまなかった」
食事を終えたあと、アルがそう謝罪してくれた。でも、あれほど忙しかったのだ。当然だと、リゼットは首を横に振る。
――私なら、大丈夫です。
風邪とはいえ、悪化すれば命の危険もある。リゼットは、声は出ないが、こうして日常生活を送ることができている。
どちらを優先するべきか、わかりきっていることだ。
「ありがとう。君の声も、必ず治してみせる」
アルはそう言ってくれた。
今までたくさんの人を救ってきた彼だからこそ、信じられる言葉だった。
――これからも、薬を作るのを手伝っても良いですか?
そう聞くと、彼は少し戸惑った様子だった。
「それは、俺としては助かるが。君に、そんなことをさせて良いのだろうか」
――実は、私の母も家族のために薬を作っていました。
リゼットは、自分の思い出を彼に伝えた。
田舎の子爵家だったから、母は自ら薬草や野菜を育てていた。
だからこうして薬草が干されている光景が、とても懐かしいこと。
聖女になったとき、実家とは縁が切れてしまったが、今でも思い出す。
懐かしくて、教会でも薬学の本ばかり読んでいたこと。
「……そうか」
アルは、リゼットの書いた文字を読むと、優しい顔で頷いてくれた。
「だから、あの書類の整理も完璧だったのか。そういうことなら、これからも手伝ってくれると助かる」
そう言ってもらえたのが嬉しくて、リゼットも笑顔で頷いた。




