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親友に陥れられて、聖女の座を奪われました。復讐しなくても自滅するようなので、私は町で楽しく暮らします!  作者: 櫻井みこと


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10.

「無理に飲ませるようなことはしないから、心配しなくていい」

 リゼットが青褪めていることに気付いたのか、アルはそう言ってくれた。

「苦いものも駄目だろう?」

 あの口に広がる苦さを思い出して、リゼットは泣き出しそうになりながら、こくりと頷いた。

「わかっている。なるべく飲みやすくできるように、工夫しよう」

――ありがとうございます。

 そう書くと、アルは少し笑った。

「子ども用の薬を作るようなものだ。気にするな」

 たしかに子ども用なら苦くもないし、飲みやすいだろう。彼が普段から子どもでも飲みやすいように色々と工夫しているのが伝わってきて、リゼットも自然に笑みを浮かべていた。

「なるべく早く治療を開始したいが、毒の特定に少し時間が掛かっている」

 アルはそう言うと、分厚い本を開いた。

「昔は貴族間の争いが激しくて、邪魔になった相手を毒殺するのも、よくあったことだ。そのため、歴史の長い貴族の中には、独自の毒物を所有し、代々受け継いている家もある。 おそらく君に使われた毒物も、ルヘーニ伯爵家に伝わる毒だろう」

 アンジェリカに使われていた毒も、かなり珍しいものだったらしい。

 でもそれは入手困難ではあるが、過去にも使われていたものだったので、解毒薬を作ることができたと彼は教えてくれた。

「ルヘーニ伯爵家に伝わるものは、命ではなく声を奪うものだ と言われている。気になって調べてみたが、過去にも声を失って聖女の資格を失った者がいた。ルヘーニ伯爵家は多くの聖女を輩出してきたが、それはその毒を使用した結果だったのかもしれない」

(そんな……)

 リゼットのように聖女に選ばれたにも関わらず、毒によって声を奪われ、聖女の座を追われた者がいた。

 過去とはいえ、その人たちのことを思うと切なくなる。

「ルヘーニ伯爵家について、もう少し詳しく調べる必要がある。すまないが、もう少し待ってくれ」

――はい。もちろんです。ありがとうございます。

 そう書いたリゼットに、アルはこう言ってくれた。

「心配するな。俺が、必ず治してやる」

 その力強い言葉に、涙が出そうになる。


 それからは、朝起きると自分で身支度を整え、一階に降りて、朝食の準備をしているソフィーを手伝う日が続いた。

 彼女はリゼットに手伝ってもらうわけにはいかないと恐縮したが、何もせずにいるのも苦痛だからと説得した。

 患者なのだから、静養していなければと言われたが、リゼットの場合、声が出せないだけで、健康状態に問題はない。

 何もしていない方が不安になる。そう言って、少しずつ手伝いをさせてもらえるようになってきた。

 アルによる朝の検診は、毎日続いた。

 アルはリゼットの体調を気遣い、健康状態が悪化していないか、注意深く診察してくれる。

 リゼットもアルの顔を見ると、安心するようになっていた。

 最初は少し怖そうだと思ったが、彼はリゼットの声を取り戻すために、全力を尽くしてくれている。

 そしてそれは、リゼットにだけではない。

 ここを訪れるすべての人たちに、彼は真剣に向き合っていた。


 この日は、朝からとても寒い日だった。

 朝から雨が降っていて、窓の近くに寄ると寒さを感じるくらいだ。

 朝食にも温かいスープが出て、体を温めてくれる。

「暖炉の火を、もう少し強くしますね」

 ソフィーはそう言って、部屋を暖かくしてくれる。声の治療をしているリゼットが、風邪でも引いてしまったら大変だと、とても気を遣ってくれた。

「ソフィー」

 朝食が終わり、後片付けをしていたとき、アルがソフィーを呼ぶ声がした。

「はい」

 ソフィーはすぐに返事をして、アルの傍に駆け寄る。

「王都で風邪が流行っているようだ。老人や子どもの中には、重症化している者もいる。何人か入院させるから、準備を頼む」

「はい、承知いたしました」

「リゼットは、しばらく一階に降りないように。食事も二階に運ばせる」

 何か手伝うことはできないか。

 そう尋ねようかと思ったが、さらに喉を傷めたりしたら、かえって迷惑をかけてしまう。だから、おとなしく頷いた。

 風邪の流行はすぐに治まると思われたが、質の悪い風邪だったようだ。薬を貰いに来る者や、入院して治療する者も増えたらしく、階下はいつも騒がしい。

 食事を運んでくれたソフィーに何か手伝うことがないかと尋ねると、彼女は困ったように言った。

「薬が不足しているのです。薬草も在庫があり、簡単な調合なのですが、アル様は手が離せず……」

 ソフィーも入院している患者の世話で、手一杯のようである。

――私に手伝わせてください。

 それを聞いたリゼットは迷わず、そう書いた。

――母が薬をよく作っていたので、私も独学ですが、少し勉強しました。どの薬を作るか教えていただければ、できます。

 リゼットの文字を見てソフィーは驚き、そして喜んでくれた。

「ありがとうございます。すぐにアル様にお伝えしますね」

 薬が間に合わず、求める人に渡せないことを、ソフィーは気に病んでいたようだ。

 しばらくすると、やや疲れた顔をしたアルがリゼットの部屋を訪ねてきた。

「調合ができるのか?」

 こくりと頷く。

 風邪薬くらいなら、教会でも販売しているので手伝ったこともある。

 そう伝えた。

「君にさせてはいけないと思うが、正直助かる。薬が足りないんだ。頼んでも良いか?」

 そう言われて、リゼットは力強く頷いた。


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