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親友に陥れられて、聖女の座を奪われました。復讐しなくても自滅するようなので、私は町で楽しく暮らします!  作者: 櫻井みこと


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1/16

1.

 その日は、いつもと変わらない日常のはずだった。

 聖女として教会で暮らすリゼットは、毎朝、教会で祈りを捧げる。

 光り輝くプラチナブロンドに、青い瞳。

 小柄で細身だが、気品のある顔立ちをしている。

 ノーダ王国に子爵令嬢として生まれたリゼットは、五歳のときに聖女として認定されていた。

 当時のことを、リゼットはあまり覚えていない。

 その年は雨が少なく、作物がほとんど枯れ果ててしまい、リゼットの父も難しい顔をして、毎日のように視察に行っていたらしい。

 そのとき父に同行したリゼットは歌で畑を蘇らせたのだ。

 聖女は、聖なる歌声で奇跡を起こす存在であり、このノーダ王国では、貴族の家系にときどき聖女が生まれている。

 先代の聖女も伯爵令嬢であり、彼女は五十年ほど聖女を務めたあと、リゼットが聖女となる数年前に他界していた。

 聖女と認定されたら、どんな身分であろうと実家とは縁を切り、教会に引き取られてそこで暮らすことになっていた。

 まだ五歳だったリゼットは両親と離れたくなくて泣いたが、法律で決まっていることだったので、両親もどうしようもなかったようだ。

 だが教会には、多くの貴族令嬢が奉仕活動のために訪れている。令嬢たちとは自由に話すことができたので、そのうち寂しくて泣くことはなくなった。

 その中で一番仲が良かったのが、レイナだった。

 この日も貴族令嬢たちと奉仕活動をしたあと、親友のレイナと休憩をしていた。

 レイナは伯爵令嬢で、教会から出られないリゼットのために、よく珍しいお菓子やお茶を持ってきてくれた。

 いくら聖女として認定されても、高位貴族の令嬢の中には、子爵令嬢であるリゼットを見下す人もいた。幼い頃はそんなことは関係なく、皆で遊んでいたが、成長すると疎遠になっていった。でもレイナはそんなことはまったく気にしていないようで、とても親切にしてくれた。

 奉仕活動が終わったあとの彼女との休憩時間が、本当に楽しみだった。

「今日は、特別なお茶を用意してきたの」

 レイナはそう言って、綺麗な包装のお茶を差し出した。

 彼女は、茶色の髪に、黒い瞳をしている。

 レイナ自身は地味な色だと嫌っていたが、リゼットは自分の母と同じ落ち着いた色合いが、とても好きだった。

 教会を訪問する貴族令嬢たちは皆、綺麗に着飾っている。

 奉仕活動とは言っても、大抵はただ寄付金を渡すだけで、実際の奉仕活動は連れてきた専属の侍女などがする場合がほとんどだった。

 けれどレイナは質素な服装をしていることが多く、奉仕活動も自分で行っている。

 そして子爵令嬢でしかなかった自分にも、こんなに親切にしてくれる。

 聖女とは、彼女のような人のことを言うのではないかと、リゼットはいつも思っていたくらいだ。

 レイナが持ってきてくれるお茶やお菓子は、リゼットの唯一の楽しみだった。

 ここは教会なので、どうしても食事は質素で、甘いものなど滅多に食べられない。

 リゼットが希望すれば出してくれたかもしれないが、他の人たちが口にしないものを、自分だけ希望するのは憚られた。

 でもレイナはこうしてお茶をしようと誘ってくれ、いろいろなものを持ってきてくれる。

 おいしいお茶やお菓子も楽しみだったが、それ以上に、リゼットのために用意してくれるレイナの気持ちが、何よりも嬉しかった。

「喉にとても良いと聞いて、取り寄せたのよ?」

 そう言って、レイナは自分でお茶を淹れてくれた。

「ありがとう。すごく嬉しいわ」

 聖なる歌声で奇跡を起こす聖女にとって、声はとても大切なものだ。

 最近、立て続けに歌っていたので、レイナは気遣ってくれたのだろう。

 そんな彼女の心遣いが嬉しくて、リゼットは笑みを浮かべる。

「薬草が入っているから、少し苦いかもしれない。でも、効果は保証付きよ」

 そう言って差し出してくれたお茶を、リゼットは口にする。

 確かに、苦みの強いお茶だった。

 でも薬草が入っていると聞いていたので、きっとこの苦みが喉に良いのだろうと、あまり気にせずに飲み干す。

「……っ」

 その瞬間、喉が焼けるような痛みが走り、リゼットは思わず咳き込んだ。

 ごめんなさい。

 そう言おうとしたが、ますます喉の痛みは激しくなり、リゼットはそのまま倒れてしまう。

(助けて……)

 苦しさに視界が歪む。

 助けを求めるようにしてレイナを見上げると、彼女は恐ろしいほど冷たい目をして、リゼットを見下ろしていた。

「きっとあなたは知らないでしょうけれど」

 目の前で倒れ、苦しんでいるリゼットのことなど見えていないかのように、レイナは静かに話し始める。

「先代の聖女は、私の祖母だったの。私の家系からは、聖女が生まれることが多かった。だから私も、聖女の力を持っていたのよ」

(レイナ……)

 自分よりも聖女のようだと思っていた親友が聖女の孫で、しかも力も継いでいたことを知り、リゼットは驚く。

「それなのに……」

 冷たい色でリゼットを見下ろしていたレイナの瞳に、はっきりと憎しみが宿った。

「私の力が発現するのが、あなたよりも少しだけ遅かった。それだけで、私は聖女になれなかったのよ!」


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