第二類事件報告書・第九号
第二類事件報告書・第九号
作成日:令和5年8月30日
2.事件概要
ある時期より、若年層を中心として、特定の神話に関する断片的な言及が、複数のSNS上において確認されるようになった。
当該神話は、名称・成立時期・伝播経路等のいずれについても特定が困難であり、既存の公的記録、民俗資料、宗教関連資料等に該当する記載は確認されていない。
本件は、当該神話に関する言及と同時期に、関連すると推測される複数のデジタル記録が、本人の意思によらず消失した事例が確認されたことから、第二類事象として調査対象に指定された。
3.調査経過
SNS監視業務を担当する職員より、以下の報告がなされた。
・若年層を中心に、限定された範囲ではあるが、性別および所在地を問わず、特定の神話に関する言及が、同時期に確認された。
・当該言及は、ある配信プラットフォームにおける人気インフルエンサーのライブ配信中の発言を起点としている。
・発言内容は「友人の祖母から聞いた神話」に関するものであり、配信内では簡潔に触れられたのみであった。
・当該配信を視聴していた漫画家が、言及された神話について独自に調査を行ったが、該当する公的記録および資料は確認されなかった。
・その旨がSNS上に投稿された後、当該配信のアーカイブが消失していることが確認された。
・人気インフルエンサー本人への確認の結果、当該アーカイブを削除した事実はなく、配信プラットフォーム運営側による削除記録も存在しないとの公式回答が得られている。
・また、復元は不可能である旨が明言された。
その後、以下の事象が確認された。
・漫画家が当該経緯を基に制作した二次創作漫画をSNSへ投稿したが、当該投稿も消失していることが確認された。
・当該投稿についても、本人による削除の事実はなく、SNS運営側による削除の記録は存在しないとの回答が得られている。
・併せて、漫画家がクラウド上に保存していた当該原稿データについても消失が確認された。
以上の経緯から、配信アーカイブおよび漫画原稿に関する直接的な内容確認は不可能と判断された。
その後、人気インフルエンサーに対し身分を秘匿した接触を行い、創作活動を目的とする旨を伝えた上で、当該神話の記憶者である「友人の祖母」への連絡先提供を依頼した。
数日後、当該連絡先が提供され、「友人の祖母(以下、老年女性と記載)」への接触が可能となった。
4.聞き取り調査記録(老年女性)
老年女性に対し、当該神話に関する聞き取り調査が、調査員によって実施された。
聞き取り調査時の録音記録より、老年女性の証言を下記の通り抜粋する。
「ようこそ、いらっしゃいました。遠いところお疲れでしょう、さ、入ってください。お客様がいらっしゃると思って、張り切ってお掃除をしたのよ」
「はい、お茶とお茶菓子、よければどうぞ。このお茶菓子はね、孫がやっているケーキ屋さんの、二番人気のクッキーだそうなのよ。祖母バカだけど、美味しいの」
「それで、ええと。はい。母が昔、寝物語に話してくれたお話について、よね? あれはそう、神様のお話だったわ。私、あのお話を聞くのが夜の楽しみだったもの。……でも、不思議ね。名前だけはどうしても思い出せないの。その神様が何をしたのかは、はっきり覚えているのにね」
当該証言は内容に大きな齟齬を認めず、内容の変遷や自己矛盾は確認されなかった。
ただし、当該神話の名称および由来について、老年女性自身も特定できていない旨の証言を確認している。
5.付記
当該老年女性の居住地域において、近隣住民への聞き取り調査を実施した。
その結果、「聞いたことがあるような気はするが、内容は思い出せない」「過去に親から聞いた可能性はあるが、記憶が定かではない」「そのような話は知らない」といった証言が複数得られたが、いずれも具体性を欠き、裏付けとなる情報は確認できなかった。
また、当該地域の郷土資料館を含む公的資料の調査を行ったが、該当する神話、伝承、民俗資料は確認されなかった。
加えて、周辺地域の神社関係者および寺院関係者に対する聞き取りにおいても、同様の内容について認識している者は確認されていない。
以上の調査結果より、当該神話に関する地域的・宗教的・公的な記録は存在しないものと判断される。
よって、老年女性による証言は、参考資料として付記するに留め、本件との関連性は低いと判断する。
6.結語
本件において、老年女性が語った神話については、現存する公的記録、宗教資料、地域資料のいずれにも該当が確認されていない。
当該内容は、老年女性が保持する個人記憶に基づくものであり、その発生源については、同人の母親による即興的な語りであった可能性が高いものと判断される。
なお、人気インフルエンサーによる配信アーカイブおよび漫画家による関連投稿・原稿データが、当事者の意思によらず消失した事象については、発生要因を特定するに至っていない。
当該事象について、現時点で確認されている情報からは、意図的な削除、運営側による措置、第三者による介入のいずれも裏付ける証拠は得られていない。
また、本件と、過去に第二類事象として取り扱われた他案件との直接的な関連性については、判断に足る情報が不足しており、現段階では不明とする。
以上を踏まえ、本件に関する再発防止策の立案は困難であると判断する。
今後は、類似する事象の発生に留意し、必要に応じて情報収集および記録を行うものとする。
これにて、本件の記録を完了とする。
なお、本報告書は所定の様式に従い作成されている。




