恋とドーナツと飛行機雲×チャットGPT
朝の商店街に、甘い香りがふわりと流れた。
「ミツキドーナツ」の看板が灯るころ、
店主の美月は、揚げたてのプレーンドーナツをトレーに並べていた。
外はカリッ、中はふわっと。
開店前の静けさと油の音が、彼女は少し好きだった。
しばらくして、扉のベルが軽やかに鳴く。
毎朝のように現れる青年、空だ。
カメラを首から下げ、寝ぐせの残る髪、そしていつも気さくな笑顔。
「今日は何にする? いつもの?」
「うーん、今日は特別な日だから……シナモンのやつにしよっかな」
美月がトングを動かしながら訊ねる。
「特別って?」
「飛行機雲を撮りに行くんだ。今日、風がいいんだよ」
空はそう言うと、少し照れたように続けた。
「……よかったら、一緒に行かない?」
ドーナツ屋の小さな厨房で、心臓の音が跳ねた。
空はよく来る常連だけど、ただの客ではなくなっていた。ふとした優しさや、レンズ越しに世界を語る姿に、美月は気づかないふりを続けてきた。
「え、えっと……お店があるし……」
「わかってる。でも、ほんの少しだけでいいよ」
美月は迷った。けれど、そのとき――
空の後ろの窓の外で、白い線が空を走っていた。
一本の、伸びる飛行機雲。
「……少しだけなら」
エプロンを外し、店の札を「準備中」に返す。
空はうれしさを隠しきれず、子どもみたいに笑った。
*
ふたりは商店街裏の小さな丘に登った。
冬の始まりの空は透きとおって、風の匂いに季節が変わる気配が混ざっていた。
「ほら、もうすぐもう一本出るよ」
空がカメラを構える。
美月は隣に立って、ただ空を見上げた。
そのとき、空がそっと言う。
「美月のドーナツ、初めて食べた日にね。すごいあったかくて……なんか救われた気がしたんだ」
美月は驚いて横を見る。
空は視線をカメラに固定したまま、声だけをやわらかく続けた。
「だから、もっといろんな景色を、美月にも一緒に見てほしいって……ずっと思ってた」
ちょうどその瞬間、
真っ白な飛行機雲が、空の青を横切りながら伸びていった。
言葉も呼吸も奪われるような美しさだった。
「……私もね」
美月はゆっくり言った。
「空が毎朝来るの、ちょっと楽しみにしてたんだ」
空はようやくカメラを下ろし、美月をしっかり見つめる。
「じゃあ、これは……両思い、でいいのかな」
美月は小さく笑った。
「たぶん、そう」
風が吹き、ふたりの間にドーナツの甘い香りがまだ少し残っている気がした。
*
その日、店のショーケースには新しい札が増えた。
〈空色シナモンドーナツ〉
薄い青の紙に、ふわりと飛行機雲の絵。
常連たちは不思議がったが、美月は胸の中でそっと思う。
――今日から、毎日が特別な日になる。
そして空は、いつものように扉を開ける。
だけどその目だけが、もう“常連客”のものではなくなっていた。
ドーナツと恋と飛行機雲。
甘いものは、きっと世界を少し幸せにする。




