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恋とドーナツと飛行機雲×チャットGPT

作者: 昼月キオリ


朝の商店街に、甘い香りがふわりと流れた。


「ミツキドーナツ」の看板が灯るころ、

店主の美月みつきは、揚げたてのプレーンドーナツをトレーに並べていた。

外はカリッ、中はふわっと。


開店前の静けさと油の音が、彼女は少し好きだった。


しばらくして、扉のベルが軽やかに鳴く。


毎朝のように現れる青年、そらだ。

カメラを首から下げ、寝ぐせの残る髪、そしていつも気さくな笑顔。


「今日は何にする? いつもの?」

「うーん、今日は特別な日だから……シナモンのやつにしよっかな」


美月がトングを動かしながら訊ねる。


「特別って?」

「飛行機雲を撮りに行くんだ。今日、風がいいんだよ」


空はそう言うと、少し照れたように続けた。


「……よかったら、一緒に行かない?」


ドーナツ屋の小さな厨房で、心臓の音が跳ねた。

空はよく来る常連だけど、ただの客ではなくなっていた。ふとした優しさや、レンズ越しに世界を語る姿に、美月は気づかないふりを続けてきた。


「え、えっと……お店があるし……」

「わかってる。でも、ほんの少しだけでいいよ」


美月は迷った。けれど、そのとき――

空の後ろの窓の外で、白い線が空を走っていた。

一本の、伸びる飛行機雲。


「……少しだけなら」


エプロンを外し、店の札を「準備中」に返す。

空はうれしさを隠しきれず、子どもみたいに笑った。



ふたりは商店街裏の小さな丘に登った。

冬の始まりの空は透きとおって、風の匂いに季節が変わる気配が混ざっていた。


「ほら、もうすぐもう一本出るよ」

空がカメラを構える。

美月は隣に立って、ただ空を見上げた。


そのとき、空がそっと言う。

「美月のドーナツ、初めて食べた日にね。すごいあったかくて……なんか救われた気がしたんだ」


美月は驚いて横を見る。

空は視線をカメラに固定したまま、声だけをやわらかく続けた。


「だから、もっといろんな景色を、美月にも一緒に見てほしいって……ずっと思ってた」


ちょうどその瞬間、

真っ白な飛行機雲が、空の青を横切りながら伸びていった。


言葉も呼吸も奪われるような美しさだった。


「……私もね」


美月はゆっくり言った。


「空が毎朝来るの、ちょっと楽しみにしてたんだ」


空はようやくカメラを下ろし、美月をしっかり見つめる。


「じゃあ、これは……両思い、でいいのかな」


美月は小さく笑った。


「たぶん、そう」


風が吹き、ふたりの間にドーナツの甘い香りがまだ少し残っている気がした。



その日、店のショーケースには新しい札が増えた。

〈空色シナモンドーナツ〉

薄い青の紙に、ふわりと飛行機雲の絵。


常連たちは不思議がったが、美月は胸の中でそっと思う。

――今日から、毎日が特別な日になる。


そして空は、いつものように扉を開ける。

だけどその目だけが、もう“常連客”のものではなくなっていた。


ドーナツと恋と飛行機雲。

甘いものは、きっと世界を少し幸せにする。

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