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お猫様の思し召すまま

作者: 汐なぎ
掲載日:2025/11/12

 彼女には三分以内にやらなければならないことがあった


 今日はデート。

 前日までに選んでいた服も着た。

 髪のセットもメイクもバッチリだ。


 あとは家から出て電車に乗るだけ。しかし、思いのほか準備に手間取って、もう三分以内に出かけないと間に合わない。


 なにせ彼女の住んでいるところからは、唯一の交通機関であるバスが一時間に一本あるだけ。これを逃せば遅刻ではすまなくなる。


 慌てて出かけようとしたその時。突然、彼女の愛猫(あいびょう)が、トイレの切れが悪かったのか、おしりにつけたままで部屋の中をダッシュし始めたのだ!


「え? ちょっと待って!」


 捕まえようとしても、猫も驚いて走り回っていて、彼女の言う事など聞ける状態ではない。そして、本気で逃げ回る猫を取り押さえることなど、三分で出来るはずもない。


「待ってってば!」


 電話をすれば良かったのかもしれない。しかし、彼女は、まともな判断力が奪われていた。


「待って! 走り回らないで!」


 ティッシュを持って必死で猫を追い回す彼女。逃げ回る猫。


 それから格闘すること二十分。なんとか猫を捕まえるが、部屋の中は悲惨(ひさん)な状態になっていた。


 彼女は、このまま出かけようかとも考えた。それでも、確実に一時間の遅刻だ。しかし、帰宅した後のことを考えるとこのまま出ていくのがためらわれる。

 それになにより、彼女が整えた髪も、メイクも崩れまくっているのだ。おまけに服も汚れてしまっている。


 彼女は途方に暮れた。

 片思いの彼に猛アタックをしまくって、なんとかこぎつけた初デートなのだ。もう、正常な判断力など失われている。


 床に手をついて途方(とほう)に暮れる彼女。それをなだめるようにすり寄ってくる猫。それすらも彼女を(いや)すことは出来ない。


「どうしよう」


 その時、スマホが鳴った。彼からの電話だ。絶対に怒っている。


「ごめんなさい。えっとえっと、猫が暴れて。部屋がすごくて。ごめんなさい。ごめんなさい」


 状況はうまく説明出来ないが、謝りまくった。

 それに、スマホ越しに彼が「ふっ」と息を吐く。


「いや、こっちは大丈夫。それより、なんか大変みたいだな」

「ごめんなさい。ごめんなさい」

「それより、猫。大丈夫なの?」

「え? 猫?」


 彼は大の猫好きだ。お互いの仲を取り持ったのは、猫と言っても過言ではない。


「そう。なにかあったの?」


 彼女は、愛猫の心配をしてくれる彼に、赤面しつつ状況を説明した。


「無事で良かったよ。それより、どうする? 待ってようか?」


 まさかの申し出に彼女は困惑した。今から準備をしても、確実に二時間は遅刻する。


「悪いよ。でも、帰らすのも悪いし。ごめんなさい!」


 彼女はもう、ひたすら謝ることしか出来ない。


「どうせ、このあと用もないし。出てこれるようなら、近くの店で本読みながら待っとくよ。でも、出かけるのが無理なら……」

「行きます! 行きます! すぐ行きます!」


 彼女は電話を切ると、大急ぎで掃除をし、恥ずかしくない程度に身支度を整えると、二本遅れのバスに飛び乗ったのだった。

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